5  -狼男に気をつけて!-

 市販のビデオをダビングしただけの粗悪な代物は画質も悪かった。なけなしのモザイクがお義理程度に隠してる部分は目を細めたら見られそうなほど薄いし、でも、チラチラ見える顔は、あの顔は…俺だ。
 もしかしたらただの勘違いかもしれない。それだったら俺だって救われるってのに…俺のアイコラなんじゃないかって思うほど良く似た男は、同じ野郎に犯されながら恍惚とした表情を浮かべている。両手を縛られて、まるで無理やり咥え込まされてるようなのに、なんだってそんな嬉しそうな顔してるんだよ!
 まるで自分が犯されてるような気分になって、吐きそうになった。
 開きっぱなしの口元からは唾液が溢れてて、ボリュームを絞った向こうで相手の野郎が何か言っている。
 良く聞き取れなくて…聞き取りたくもなくて、でも嫌でも画面から目が離せないでいる自分に驚いた。
 消しちまえ!こんなモンッ!!
 なのに、リモコンを握る手が動かない。
 画面の中では何かを懇願するように目許から涙を零す男の、その口元に凶悪な光を放つ無機質なものが押し当てられていた。
 子供の手首ぐらいはありそうな…バイブ?
 や、やめてくれ。
 ビデオの中の男と、一瞬だけどシンクロした。
 無理やり押し込まれて、嗚咽しながらその醜悪な代物に舌を這わせる男は、これから自分を責め苛むであろうその玩具に、何かを期待してるとでも言うんだろうか?潤んだ目付きで、俺には背中を向けている野郎を食い入るように見ている。
 俺の顔で。
 グロテスクな形を持つプラスチックのそれを舐めながら、誘うように目を細めて、野郎の腰遣いが激しくなっても男はそれをやめようとはしなくて…結局叩かれた。
 小さく悲鳴を上げた男の口が切れたのか、口元から血を流す男を野郎は問答無用で繋がったまま身体を反転させて、やっぱり男に悲鳴を上げさせていた。
 ギチギチに野郎を含んでいる部分がアップで映されて、思わず目を覆いたくなるような出来事が展開されたんだ!おぞましくて…でも目が離せない。
 なんだって言うんだ…
 ギチギチで、その部分は野郎のソレだけでも一杯だってのに、その脇から、男の口から落ちた唾液まみれのバイブを挿入しようとしている。
 嫌がって首を振る男の項を押さえ付けて、限界よりもさらにめい一杯押し開きながら入りこんで行く無機質の塊に、男の絶叫が響き渡る。その瞬間、ピシッと裂ける音が聞こえたような気がして、男のその部分は野郎とバイブを飲み込んでいた。
 ぬらぬらと血を纏わりつかせた野郎の不気味な性器は、別の物体に犯されて悲鳴を上げている部分に捻じ込まれては律動を繰り返す。
 なのに男は、俺の顔をした男は…恍惚とした顔をして射精していた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 たぶん俺は、呆然としていたに違いない。
 ザーッと砂嵐が流れる画面を、いったいどれぐらい観ていたんだろう。
 ハッと気付いたときには、無意識にビデオを止めてテレビを消していた。
 股間が熱くて、驚いたことに…俺は勃っていた。
 アダルトなんか中坊の頃に悪友どもと腐るほど観ていた。耳年増ってだけのことだけど、あの頃のビデオは女の裸体とモザイクだらけの部分を想像することだけが精一杯で、それをおかずに夜を過ごしていたんだ。
 そりゃあ、勃ったさ。
 でもあれは、当たり前のことなんだ。
 女の身体に素直に反応することのナニが悪いって言うんだよ?
 でも、これは違う。
 男が、同じ男に犯されてる…ホモビデオじゃねーか!
 …俺は正直な話、辻波の趣味に驚いていた。
 アイツ…いつもこんなことを想像してたのか?俺に似たヤツのビデオを観て、お前もオナッてたって言うのかよ!?
 それとも…本当はやっぱり、ただの嫌がらせなんだろうか。
 熱を持て余して勃ち上がっている息子を撫で付けるようにして扱きながら、俺はその味気ない快感を手持ち無沙汰で追いながら、ぼんやりと考えていた。
 辻波はしつこく付きまとう俺を嫌っていた。
 だから、あんな風にストーカー紛いなことをして、本当は俺を遠ざけようとしていたんだろうか…?
 どっちにしても、ムカツクんだよ!
 半ば投げやりに扱いてさっさとイっちまうと、俺はティッシュで自棄っぱちに掌に零れた濃厚な白濁を拭うとゴミ箱に投げ捨てた。
 それでなくても汚れているんだから、ゴミ箱がどんな役に立っているのかはこの際無視して、俺は万年床の布団にダイブした。
 問題は辻波が何を考えているかってことだ。
 俺に彼女が数年間いないことと同じぐらい重要だぞ。
 悶々とした思いを一杯に抱えながら、俺は早く朝が来ることを望んでいた。
 明日は1限から授業だ。
 ちっくしょう!待ってろよ、辻波!!