7  -狼男に気をつけて!-

「辻波か?」

 繰り返してもう一度聞くと、朝でも薄暗い俺の部屋の中央で腕を組んでる長身の男は、まるで何か面白そうに笑いやがった。

「辻波ってのは確か、君の同級生だったよね?」

 クスクスと笑いながら玄関から射し込む明かりに姿を現したのは…

「店長!?」

 ギョッとする俺にニヤッと笑った店長は、ゆっくりと近付いてきた。
 なんでここにいるのか、とか、さっきまで店にいたじゃないかって思いがグルグル脳内を回るけど、結局うまい表現が弾き出せずに、俺は思わずそのまま蹲って頭を抱え込みそうになってしまった。
 あ!…そうか、この人、バイクを持ってたんだっけ。
 混乱してパクパクと酸欠の魚みたいに肩で息をしながら立ち竦む俺に腕を伸ばすと、店長は人の良さそうな笑顔を浮かべて肌の質感でも確認するように少し汗ばんだ手で撫でてきた。背筋に冷たいものが走る。
 なぜか…なんてことは判らない。
 ただ漠然と、コイツはヤバイと本能が訴えてくる。

「て…店長!ど、どうしたんスか?なんか俺…」

 漸く吐き出した言葉もそんなもので、店長は小馬鹿にしたように鼻先で笑ってグイッと撫でていた手で顎を掴んで俺の顔を上向かせたんだ!

「しらばっくれるなよ。判ってんだろ?ったく、突然帰ってくるんだもんな、ビックリしたよ。でもま、それで良かったかも♪…コレで何回ヌけた?」

 ギリギリと掴んだ腕に力を込めやがるから、俺は痛みで眉を寄せながらい壁を角で軽くコツコツと叩く店長の手元を見たんだ。
 それは、その黒いケースは…

「ヌ…けるわけねーだろ!?この変態野郎!!」

 今更だけど自分が情けなくなった。
 そうか、あのストーカー行為はコイツがしていたのか。俺は馬鹿だから、てっきりあの電話だけで全部が辻波のしてくれてることなんだと思い込んでいたんだ。
 クッソ!なんて間抜けだ!!
 俺は自分の顎を掴む店長、藤沢の腕をバックを投げ出して両手で掴むと引き剥がしにかかる。
 と。

「ッ!?」

 ガツッと鈍い音がして、俺はビデオケースの角で思いきり頭を殴られてしまった。
 鈍い音がしたと気付いたときは、もうこめかみを何か熱いものが零れ落ちていて、一瞬だけ起こった立ち眩みで藤沢のヤツに引き倒されるようにして万年床に投げ倒されちまったんだ。
 クラクラする頭を振りながら見上げた藤沢は、ニヤニヤ笑いながら羽織っていたパーカーのジッパーを引き下ろしている。

「全く、いけない子だなぁ。あんな得体の知れない男にでもすぐに尻尾を振ったりして…僕の愛を疑ってるの?もっと、もっと身体に教え込んであげないとねぇ」

 クスクスと笑う。
 女どもがお付き合いしたいと黄色い声を上げる甘いマスクで。
 でも…コイツは狂ってる。

「な、何を言ってんだよ!何が愛だ!気持ちわ…ッ!!」

 鈍い音を立てて頬が鳴る。
 引っ叩かれたんだと知ったのはすぐで、それでなくても気分が悪いってのに…ったく、ホントに今日はツイてねぇ。
 遠退きそうになる意識の中で、藤沢の執拗な両手が服を次々に引っぺがしていくのを感じていた。ああ、これはもう貞操の危機だと本能が警鐘を鳴らしても、頭部に受けた打撲で身体が弛緩しきってる俺にはなす術もない。
 …スマン、辻波。
 勝手に俺の勘違いでストーカー呼ばわりとかして、迷惑しただろうな…
 助けてくれってのは無理な話だから、せめてお前のあの仏頂面とか見ておきたいなぁ…
 首筋に吸い付かれて、気持ち悪さに鳥肌が立つ。
 まだ誰にも触られたことのない部分を執拗に撫でまわされて、緩やかに、強弱をつけて扱かれると嫌でも気分が盛り上がる。
 片足を割開くようにして藤沢の肩に担がれて、それがどんな姿勢になってるのかとか理解できない俺の尻に、唐突に何かぬるっとしたモノが押し当てられた。
 何かを塗りたくった指先で、それはすぐに尻の中に挿し込まれて…思わず唇を噛み締めた。
 グリグリと乱暴に掻き回されて、俺は嫌がるように肩に担がれた足で空を蹴りながら、もう一方でもメチャクチャ暴れまわったんだけど…なぜか全く力が出ないで、それどころか挿し込まれてる指をギュッと締め付けてその感触をまざまざと味わってしまった!馬鹿だろ、俺!!

「…う…ぅぅ…」

「そんなに締め付けて…もう欲しいのか?」

 何がとか、そんなどうでもいいことは聞けなくて、それどころか掻き回す指の疼痛に眉を顰めて首を左右に振るのが精一杯だった。

「あのビデオはあんまり役に立たなかったのか。まだまだ狭い。コレだと裂けちゃうけど…ま、いいだろう」

 それが何を意味するか、昨夜のビデオが嫌と言うほど思い知らせてくれてるから、俺は懇願するように首を左右に振って泣いていた。
 未知の苦痛が尻を穿ってる。
 それだけだってこんなに痛いのに、あの、目の前にあるあんなモノが入り込んできたら…

「あ…あ!や、嫌だ!やめ…ひぃ!」

 必死で抵抗しても力の入らない腕だとなんの役にも立たなくて、引き抜かれた指の代わりにもっと太くて硬くて、灼熱のような棒がグリグリとソコに捻じ込まれてきたんだ!

「や、い、いてッ!痛い、いッッッつぅーーーッ」

 グッと歯を食い縛りでもしないとどこにこの痛みの矛先を向けたらいいのか判らなくて、俺はメチャクチャに暴れてみた。暴れても、腕を伸ばしてみても、掴むのは空ばかりで。
 捻じ込まれて、ガクガクと身体全体を揺するようにして腰を遣われて…
 誰か…こんなのは嫌だ。
 嫌なんだ!
 誰か…誰か助けてくれ。
 ふと、脳裏に過ぎるあのぶっきらぼうな仏頂面。
 ああ、俺…今更になって気付くなんてな。
 俺…俺は。
 辻波…ごめん。