5  -ヴァンパイアと真夜中に踊れ-

 夜空に煌く星を散りばめた全てが、どこかに隠れてしまったあのひとだとしたら。
 見つけ出して抱きしめて。
 ああ…もう二度と手離したりはしないのに。
 この胸の奥に滾る想いはなんだろう…?
 欲しい。
 欲しい。
 彼女が欲しい。
 彼女がその身内に隠し持っていた。
 あの甘い血。
 鼓動を脈打つ優しい心。
 握り潰したいほど愛おしくて。
 手に入れたかった…

◆ ◇ ◆

 逃げ出した『旅人』は吸血鬼だった。
 彼は遠い昔に亡くした恋人を捜して捜して…彷徨っていたところをエレーネがアシュリーとはまた別の仲間と捕獲していたのだが、上層部の不手際から取り逃がしてしまったと言うのが事の次第だ。
 『旅人』と呼ばれ、戒律の厳しい妖魔の集団から己の意思で逸れてしまった孤独な妖魔のことを、闇の世界では通常『遠き異国の旅人』と呼んでいる。その彼らの秩序を取り締まるのが、人間の世界では殺し屋を生業としながらもたまにアシュリーが顔を覗かせているギルドの連中だった。
 その素性も正体も一切が不明ではあるが、人間として名前を列席している者はただの一人もいない特殊機関であることは確かだ。
 実際のところ、アシュリーにもよく判ってはいなかった。
 物心もつかないうちに両親を亡くし、妖魔の手によって育てられた彼は、反発するようにその妖魔の許から飛び出してエレーネに拾われ、以来ずっとなんの疑問も持たずに行き場をなくした『旅人』を狩っていた。
 だが、今回のターゲットは自らの強い執念の意思で群れを逸れた『遠き異国の旅人』なのだ。
 群れから逸れた妖魔に自らを戒める戒律はなく、その為、その解放された力は想像を遥かに凌駕し、百戦錬磨の腕を持つエレーネを持ってしても、一瞬に生じる隙を見逃さない限りは捕獲は困難だと言われるほどだ。
 アシュリーは自分が身震いしていることに気付いて苦笑した。

「いけない、いけない。こんなところを光ちゃんに見られたら笑われちゃうね」

 呟いて、アシュリーはどこかの闇に膝を抱えて蹲る孤独に愛されて遠き異国の旅人と成り果てた、悲しい妖魔を思った。
 遠い昔に亡くした恋人は、同じヴァンパイアだったと聞く。
 輪廻の輪から逸れてしまった魂の生まれ変わりは存在しないと言うのに、どうして、その妖魔は『旅人』から抜け出してまでも彼女を捜し続けるのだろうか…?
 誰か別の妖魔を愛せばすむことなのに…そこまで考えて、アシュリーは小さく笑った。

「そんなこと。きっとできるはずもないか」

 別の誰かは所詮別の誰かであって、心から惹かれあって心を寄せた伴侶ではないのだ。その愛しい魂が永遠に失われた事実に生涯を囚われて、彷徨うのも生きる道なのかもしれない。
 妖魔は自殺できない。
 誰か、他人の手に掛かって死ねることを、ただひたすら望んでいるのだろうか…
 必死に生きるのか、必死に死ぬのか…囚われた孤独に押し潰される恐怖を味わいながら、無差別に人間を狩るのには理由があるんだろう。

「誰かの温もりに触れて、それがたとえ彼女じゃなかったとしても、幻想に溺れてしまう道…ってのもゾッとしないね」

 どこか遠くでエレーネの声がして、アシュリーは馬鹿げた妄想から覚醒した。
 オフホワイトのコートは彼の戒め。
 返り血を浴びる度に自分が人間ではない化け物だと思い知るための虚ろな道具に過ぎない。
 彼が愛している人間は、そのコートを見るたびに首を傾げては不思議そうな顔をしていた。
 『殺し屋なのに白系のコートは目立って変だ』と言われても、アシュリーは笑うことしかできなかった。どこまで理解してるんだろうか、この愛しい人は。

「きっと何も理解なんかしていないんだよねぇ。オレの愛しい人は鈍感野郎だから。ま、そんな光ちゃんを愛しちゃったオレもどうかしてるんだろうけど」

「?」

 自己完結して肩を竦める傍らの相棒に、エレーネは不審そうな双眸を向けて柳眉を顰めたが、別に何か言おうとはしなかった。
 風が吹き上げていくビルの頂きで、痩身で小柄なエレーネと大柄な体躯を夜目にも明るい白のコートに隠した長身のアシュリーは、華やかな闇を矛盾なく抱え込んだ空虚な電飾に彩られた虚ろな街を見下ろしていた。
 こんな薄ら寒い街で、孤独を抱き締めて泣く妖魔は…何に癒されてると言うのだろう?
 彼女を亡くした街で…心まで亡くしながら。

◇ ◆ ◇

「ちょ、勇ちゃん!?どうしちゃったって言うの!?」

 すみれは驚きに双眸を見開きながらも、得体の知れない外国人の腕に意識をなくして抱き上げられている勇一を見るなり、手際よく室内に通してベッドに横たわらせた。
 意識を失っているようだがそれほど大した事はないようだと、手首を掴んで腕時計に目線を落としていたすみれはホッとして寝室を後にすると、漆黒の衣服に身体を包んで居間に立っている男に警戒したように両腕を組んで唇を尖らせた。

「で?詳しい事情を話してくれない?」

 むやみやたらに追い出すのではなく、腕に自信のあるすみれは勇一の身の上に起きた事実を知ろうと見知らぬ男と対峙する。

「まあ、落ち着いてください。お嬢さん、私は別に怪しい者ではありませんから…」

 男が優雅に呟くと、彫りの深い顔立ちに電灯が陰影を落として、普通の女性なら腰が抜けるほど端整な顔立ちをした男にも、すみれは怯まずに綺麗な柳眉を寄せて食って掛かる。

「そんなにあからさまに怪しそうなのに、信じろって方がどうかしてるんじゃないかしらね」

 男は面食らったように一瞬だけ驚きに双眸を開いたが、次いで、くっくっく…っと愉快そうに微笑んだ。いちいち全てに格好をつける男に、すみれはあからさまに胡散臭そうな目付きをした。

(コイツ…きっと自分の容姿に自信があるのね。寒気がするわ、ヘンな奴)

 胸中で思って口を噤むすみれのその勝気そうな双眸に、男は強情な娘だと思って欲しくなった…が、今はそれどころではないのだと思い直して、彼は肩を竦めると自己紹介をした。

「私はアリストア=レガーシル。通り掛かりにちょっとしたアクシデントに見舞われましてね。倒れている彼を見つけたのだよ」

「…アリストア=レガーシル?って、もしかしたら立原伯父さまのお知り合いの?」

 強情そうな娘の口から洩れた恩人の名前に反応した男、アリストアは驚いたように色素の薄い双眸を細めてすみれを見た。

「立原氏をご存知で?」

 すみれは幾分かホッとしたように気丈に振舞っていた緊張を解いて頷いた。頷いて、伯父の知り合いに対して失礼な振る舞いをしていることにハッと気付き、慌てたように可愛らしいフリルのクッションを勧めてキッチンへと姿を消した。

「母のお兄さんなんです。良かった、勇ちゃんが知ってる人に助けられて…」

 紅茶を淹れながら応えるすみれに、アリストアは襲わなくて良かったと胸を撫で下ろした。

「気を失う前に、彼がここの住所を言ったのでね。連れて来てみたのだよ」

「ありがとうございます。勇ちゃん…きっとあたしに何か言いたいことがあったのね。取り敢えず、友人たちを呼びたいんですが…」

 花柄のセンスの良いカップに注がれた琥珀のお茶を見つめながら、アリストアはその方がいいだろうと頷いて見せた。

「私は構いませんよ。時に、お嬢さん。君は槙村光太郎をご存知かな?」

「私は滝川すみれです。光太郎が、光太郎に何かあったんですか?」

 震える指先で恋人である彰の番号をプッシュし、呼び出し音を確認してからすみれはアリストアを振り返った。

「…彼は攫われてしまったよ」

 すみれは驚いたように双眸を見開いて絶句したが、何をどう理解しようかと思い悩んだようにこめかみを押さえながら、ちょうど受話器を取った彰に思わず怒鳴ってしまっていた。

「みんな集合よ!場所はあたしの家ッ」

 それで電話を切って子機をテーブルに戻したすみれは、あたたかな温もりを大事そうに両手で包み込んでいる風変わりな外国人に、眉根を寄せて尋ねていた。

「光太郎はどんな奴に攫われたんです!?アイツ、けっこう強いから、そんな簡単に攫われるはずはないんです!」

 滑り込むようにアリストアの前に座ったすみれに、彼は思った以上に臆病そうな彼女の、外見では人間を見極められないことを思い出しながら不安に揺れる双眸を見つめて口を開いた。

「魔物です。…きっと貴女は信じないでしょうがね」

◆ ◇ ◆

《ただいまv》

 赤いピエロは俺の身体を抱き締めると、愛おしいそうに頬擦りをしてきた。
 奥さんは相変わらず逃げ出そうと毎日のように部屋をグッチャグチャにしていて、仕事?…か何か判らない外出先から戻ってくる自称夫は、やっぱり相変わらずの仕種でそんな俺を抱き締めてキスをするんだ。
 もうそんなことには慣れてしまった俺って…かなりヤバイ精神状態だとは思うけど、それだっていつかの隙を狙えるだけの余裕は欲しいと思うからの苦肉の策で。

「…」

《? どうかしたの?》

 ずっと長くいるからだとか、そう言うんじゃなくて、なんかヘンだって肌が感じ取ったんだと思う。
 コイツはデュークか?

「誰だよ、お前」

 赤い衣装に身を包んだピエロはビックリしたようにキョトンとして、それから困ったように眉を寄せると俺の顎に手をかけて覗き込んで来た。金色の双眸は見透かすように俺の心の内側まで覗き込もうとしているようだ。

《何を言ってるの?ボクはデューク。キミの旦那さんでしょう》

 声も、あの憎たらしいほど澄ました喋り方も、人を馬鹿にしたようなポンポンの付いてる二股割れの帽子の裾から覗くディープブルーの髪も、匂いも…気配すら全てデュークなのに、何が違うんだろう?コイツはデュークじゃない。
 口唇に触れた唇のやわらかさも、俺に触れるときの、その鋭い凶器を持つ指先の驚くほど繊細な仕種も、何もかもがデュークなのに…何だろう?

「違う。お前はデュークじゃない。誰だ?アイツの知り合いなのか?俺をからかってんのか?」

 その腕から逃れようと両手でソイツの身体を引き離しながら言うと、赤い衣装のデュークもどきはキョトンとした表情でそんな俺を見下ろしてくるんだ。
 コイツはなんだ?
 別の妖魔が俺を殺しにでも来たって言うのか?だったら、何もデュークの格好をする必要もないだろうに…アイツ、実はそうとう恨まれてるとか?
 有り得そうだから怖いんだよなぁ。

《光太郎?》

「何だよ」

 呼ばれて顔を上げた俺は、思わず目をむいてしまった。
 なぜかって…その。
 突然、キスされたからだ。
 キスなんて慣れてるつもりでいたのに…舌に柔らかく当たる犬歯のような歯の感触を感じたとたん、ビリビリと身体中に電気みたいなものが走った気がして…感じた、んだと思う。
 良く判らないんだけど、腰が抜けそうになって思わずその得体の知れない妖魔に縋り付いてしまった。
 一生の不覚だ!畜生ッ。
 デュークやアシュリーのキスに慣れていると思っていたのは俺の勘違いだったのかもしれない。そう思わせるほど、その鮮烈なキスはそう簡単には忘れられそうもないぐらい強烈だった。

「…ッ!んた、だ、誰なんだよ!?離せッ!離せよ!!」

《ふん。しがみ付いてるのはキミの方》

 鼻先で笑って手を離したソイツからずり落ちた俺は、情けなくも床にそのまま座り込んでしまった。

《これぐらいで感じちゃう。デュークったらどんな調教をしてるの?》

「ち、調教!?ふざけんなッ!」

 腰は萎えてるし、思うように身体に力は入らないし、繰り出した拳の威力なんざ高が知れてるとしても殴らずにはいられなかった。ヘロヘロのパンチはすぐに受け止められて、掴まれた腕ごと引き寄せられて、屈み込む妖魔の金に煌く妖しい双眸に見据えられて咽喉の奥が渇くのを感じた。
 …なんだってこう、妖魔の凄みに怯んじまうんだ、俺よ!
 殺された娘の仇を打ちたいからと娘を殺した奴を捕まえてくれって依頼、辛いぐらいのお袋さんの気持ちに共感して引き受けただけの、ただの変態がらみの依頼だって思っていたんだ。なのに、どうも調べていくうちにこの世ならざる者の仕業なんじゃないかって思うようになって、殺され方の尋常じゃない様にある仮説をたてたんだ。
 つまり、『ヴァンパイアの仕業』じゃないかってな。
 馬鹿みたいで、でも満更じゃなさそうだって言う俺は自分の直感を信じた。
 友人にも相談した。彼らは賛同してくれた。
 こんなことになる前に手を引けとも言われたさ。
 でも俺は…あのお袋さんの、絶望を押し殺しながら娘の仇を討ちたいという悲しいまでの母親の気持ちを踏み躙りたくはなかったんだ。その想いが達成したときにたとえあのお袋さんが亡くなったとしても、それが幸福ならそれでもいいと思う。
 だから…
 たとえ相手が悪魔だとしても、俺は怯むわけにはいかないんだ!
 方法なんか知らないけど、できることはなんだってする。
 それが『私立槙村探偵事務所』のモットーだ!

《!》

 キッと睨み付けた俺はヘロッた足腰に気合をぶち込んで、自力で立つとその腕を振り払った。
 デュークもどきは突然の俺の反撃に少しは驚いたようだったけど、何か面白いものを見つけた猛獣のような獰猛さでニヤッと笑ったんだ。

《面白い。うん、とっても面白いよ》

 不可視の霧のように殺気を撒き散らすソイツの気配は、今や氷のような冷たさで、俺の口許からは事実、それを物語るように吐き出される息が白くなっている。

《ヤってみる?面白そう。ドキドキする》

 ズイッと一歩を踏み締める様にして息を飲む俺に近付いてきたソイツは不意にハッとしたけど、その時はもう遅くて、深紅の衣装に絡みつくように漆黒の袖から伸びた腕がヤツの動きを封じ込めたんだ。

《勝手にドキドキするのはルール違反だよ、アーク》

 頭に直接響くこの声は…

「デューク?」

 思わず口から洩れた言葉に反応するように冷えた大気がユラリッと熱を取り戻して、赤いピエロの背後の空間が陽炎のように揺らめいた。

《なんだか楽しげにさっさと帰るから心配はしてたけど…他人の伴侶に手を出すのはご法度だよ、アーク。『旅人』に申告してもいい?》

《やめて。それはやめて》

 漆黒のシャツを着た、いつもとは違う出で立ちのデュークはディープブルーの髪もそのままの、ごく普通の格好をして揺らめく空間の中から姿を現すと、抱き付いている妖魔の耳元に不機嫌そうに囁いているようだ。そうすると、赤のピエロ、アークとか言う妖魔はデュークと全く同じ顔を引き攣らせて嫌そうに笑っている。
 …なんか、どうも一難は去ったようだ。

《ふん。デュークったら本気で骨抜き。でも楽しいから、いつかまた来ようっと》

 楽しそうにクスクスと笑った後、アークはスルリッとデュークの腕から逃れ、ほんの一瞬指先を動かしただけで青いピエロの衣装に着替えてしまった。
 すっげぇ早業だな。芸能人とかって舞台で着替えの早業があるって聞いたけど、これだと便利なんだろうな。とか、俺がそんな下らないことを考えている間に、アークはチラッとこっちを見てクスッともう一度笑ったんだ。

《デュークのように恋をするつもりはないけど。キミとはゼヒ、拳で勝負してみたいな》

《アーク》

 腕を組んだデュークが胡乱な目付きで不機嫌そうにその名前を呼ぶと、胸の前で小さく降参のポーズをして「はいはい」と言いたげなアークは面倒臭そうな顔をして立ち去ろうとした。
 けど。

「!」

《他人のものってのは興味がわいちゃうんだよねぇ。タフそうだし。ボクもキミを気に入ったよ。だって、ボクとデュークを見分けられたのなんて二人目だものね》

 立ち去り際、頬に掠めるようなキスを残すと、ムスッとしているデュークに舌を出しながらアークは空間に溶け込むようにして姿を消してしまった。
 青いピエロはなんとも恐ろしいが、どうもデュークよりは陽気そうだ。
 拳で勝負とかって部分が引っ掛かるんだけど…

《アークは気紛れだから、いつかまた来るよ。メンドイ》

 肩を竦めて、さっさと床にへたり込んでしまった俺の腕を取って立ち上がらせながら、デュークは本当に面倒臭そうな顔をした。

「デューク。なんで、そんな妙な格好をしてるんだ?」

 いつもの見慣れたピエロの衣装ではないそのホストみたいな格好に両腕を掴んで立ち上がらせてもらいながら首を傾げると、デュークの奴は片方の眉を小器用に釣り上げて憮然とした表情で唇を尖らせた。

《ヘン?これは人間のカッコでしょーが。お店のヒトは誉めてくれたんだけど》

「いや。素直に言えばカッコイイとは思うよ。禍々しさにも磨きがかかってるしな。俺が言いたいのはどうしてそんな格好をしてるかってことだ」

 デュークになると大きな態度に出る俺ってのもなんだかな…とは思うけど、その分、この妖魔が本気で俺を大事にしてるんだなってことはアークの態度で判った。本来なら、俺なんか指先で消しちまうことだってできるんだろう。
 でも、デュークの奴はそんなことはしない。
 指先にある凶器で俺を傷付けないように柔らかく抱き締めたりする仕種とか…ホント、鳥肌もんだよな。
 全く。

《買い物に行こう。高い建物の中は息が詰まるからいけない》

「お前が閉じ込めてるくせに」

《そう。だって、誰にも見せたくないから。でも、光太郎は人間だから、太陽に当ててまっすぐに育てないと》

 人を植物みたいに言うな…とか言ってやりたかったけど、呆れて何か言う気にもなれなかったから俺は黙って頷くことにしたんだ。

《息抜き…って奴だね》

 外に出られる。
 だってそれは、逃げ出せるチャンスじゃないか。
 俺は黒のシャツを着たデュークの背中に腕を回しながら、その胸に頬を寄せた。デュークは奇妙に素直な俺を訝しみながらも、俺の後頭部に片手で触れながら頬を寄せてきた。
 この得体の知れない妖魔の弱点が、ともすれば俺を好きだと言う一瞬の隙だとしたら…逃げ出せる。
 ああ、逃げ出して見せるさ。
 祈るようにそう思っていた。