13.スマホやパソコンのなかみ・寝室などがいろいろ酷い(属、お前もか)  -俺の友達が凄まじいヤンツンデレで困っている件-

「都築のスマホって俺が見てもいいのか?」

 まあ、ダメだろうな。
 セフレとかそうじゃない大事なメールとかイロイロあるだろうから、俺なんかよりも交友関係も広いし、家の事情もあって、俺みたいに開けっぴろげができる立場でもないしな。

「いいぞ。ほら」

 恒例である俺のスマホの内容チェックをしている都築はなんでもないことのように言って、それからベッドに投げ出している自分のスマホを放って寄越すからビビッた。

「へ?…え、いいのか??」

「はあ?見たいって言ったのはお前だろ」

 別に都築のプライベートが知りたかったワケじゃないんだよね。アレだ、前に見せてもらった動画、できればアレを削除したい。
 都築は俺宛の迷惑メールとか女の子からのメールとか、内容をチェックしたら勝手に消してるからな。それに画像も。
 ちょっと前に百目木と行ったイベントで、可愛い初音ミクのコスプレイヤーさんが一緒に写真を撮ってくれたのに、都築のヤツはそれを見つけるなりいきなり消去しやがったんだ。それも完全に。
 もう復旧できないんだぞ、酷い。
 前にフィギュアと言えば喜んで遊びに来ると思ってんだろとか言ってたけど、喜んで遊びに行くような地味メンヲタです、ごめんなさい。
 だから(悔しいから)、脅しの道具にも使われかねないあの動画を勝手に無断で削除してやるんだ。
 …って言うか、もう削除されてたりしてな。
 あ、その考え方が正しいか。コイツのことだから、言い訳に動画を撮ってただけだろうし、下手に動画を観たらセフレとのアレやコレが映ってたらどうしよう。
 うん、観ない。
 でも、好奇心が…ちょっとだけ。ちょっとだけ、観てみよう。
 画像のフォルダはすっ飛ばして、動画フォルダと思しきものを発見したので開いてみた。
 都築には内緒だから音声を絞っておいて、最初に開いた動画はセフレとのモニョモニョで、コイツってハメ撮りとかするんだなと気持ち悪くなった。
 なんだ、これ。1分もない動画はまるで試し撮りでもした感じだな。いや、この相手ってユキっぽいから、初めての記念とかで取ってんのかな。都築ってそう言うの大事にしそうだから。
 とは言っても、一番古い動画がそのハメ撮りの3個で、その下の数十個はありそうなファイルは全部俺の動画だった。
 これ全部俺の動画なのか…気持ち悪いな。
 もう、随分と前のモノから…って、俺がまだ都築と知り合ってもいなかった頃の動画があって吃驚した。
 その動画は僅か1分半ほどの短さだったけど、入学したてで右も左も判らない俺と百目木が、困った顔で笑いながら桜並木を歩いているだけのなんの変哲もない動画。なんだか、エッチな動画を見つけるより恥ずかしいのはどうしてだろう。
 その他は、俺が食事の用意をしている後ろ姿だとか、大学の講義中のものや、本を読んでいるところ、家で勉強しているところやモン狩り中の都築の横で一緒に画面を見ていたり…何時の間に撮ってたんだ。
 そして1つの動画で手が止まった。
 それは雨が降っていて、何処にも行きたくない午後の俺のアパートだった。
 俺がウトウトと眠っているのを撮っていた都築は、小さいクシャミにスマホを床に置いて俺を抱き上げるとベッドに行こうとして不意に立ち止まり、それから思い直したようにアパートの安いサッシの窓辺に腰を下ろすと、俺を抱きかかえたままで雨粒が流れる透明の硝子を見上げている。
 少し肌寒かったのか、俺は夢現で都築に身体をぎゅうぎゅう寄せて、それからぬくもりにホッと安心したような息を吐くと、また夢の中に戻っていったみたいだった。
 声を出さないようにしているから判らなかったけど、都築は何かをブツブツ言って、それから俺の髪に頬を寄せてすごく幸せそうに笑うと、雨の烟る窓の外を見上げて眺めている。その横顔が、とても綺麗だった。
 なんだかおかしな気持ちになったから、俺は慌ててその動画を閉じると、他は全部似たようなモノばかりだったからフォルダそのものを閉じた。
 結局、お目当ての動画を探す気にもなれなかったんだよね。
 画像のフォルダもちょっと開いてみた。肌色だったら閉じようと思ったけど、やっぱりそこにも俺の画像が山ほどあるんだ。
 今度は試し撮りみたいなハメ撮り画像はなくて、大半は料理中の立ち姿だったけど、大学で道を急ぐ俺だとか、トイレに入っていて迷惑そうな顔をしている俺、風呂に入っていて恥ずかしそうな全裸の俺、それから眠っている俺…ってこれ全部、盗撮じゃねえか!!
 思わず都築のスマホを投げ出して、床にガクーッと膝を付きたい気分になったけど、俺は微妙な顔をして都築を見つめてしまった。

「何を見てるんだ?どうしたんだ??」

 そんな俺に気付いた都築が怪訝そうに眉根を寄せて尋ねてくる。

「お前ってさ、ホントにイケメンだよな。でも、気持ち悪い」

「はあ?」

 意味不明だったんだろう、俺のスマホの内容チェックをしていた都築は、俺の手から自分のスマホを取ると何を見ていたのか確認した。

「ああ…別によく眠ってるみたいだったから撮っただけだ」

「ふうん…あ、そうだ。お前、あの動画…」

「動画?!」

 ハメ撮りはパソコンにでも送って別で保管したほうがいいんじゃないかと軽い気持ちで忠告しようとしたら、動画に反応した都築が珍しく頬を真っ赤にしてギョッとした顔をしたから、その反応に吃驚してしまった。
 へえ、コイツでも恥ずかしいとか思うんだな。
 エッチに関することでもケロッと口にして俺を赤面させると、それが面白いって視姦してくるようなヤツが、ハメ撮りを観られて羞恥してるなんてすげえ。
 セックス中でも平気で電話したりメールしたりしてくるから、てっきり、エロシーンを観られても平気なんだとばかり思っていた。

「ははは。なんだ、お前でもハメ撮り観られたら恥ずかしいんだな。じゃあ、やっぱりあの動画はパソコンにでも保管しておいたほうがいいと思うぞ」

「…ハメ撮り?ああ、なんだこれか」

 怪訝そうに眉を寄せた都築は動画フォルダを開いて古い日付のファイルを確認すると、なんでもないことみたいにいきなり3個とも全部消してしまった。

「オレさ、スマホで動画撮るとか考えたこともなくて、何かを残したいとか興味もなかったんだよ。だから動画の撮り方がいまいち判らなかったから練習したんだ」

「…エッチの最中に動画の練習したり電話したりメールしたりするのはやめろよ」

「セックスなんてつまらないだろ?夢中になる時もあるけど、そんなの最近やっとそう思えるようになったぐらいだ。頼まれるからしてるだけで、溜まらなけりゃ本当はセックスなんかしなくてもいいんじゃないかって思ってる」

 面倒臭そうに不貞腐れる都築の態度に驚いた。
 コイツって性欲魔人で無節操だとばかり思ってたのに…でもそう言えば、前に穴なんか誰でも一緒だから外見ぐらいは綺麗なヤツと犯んないとつまらないとか言ってたな。あれはてっきりモテてるのを自慢してるのかと思ってたけど、本当につまらないと思ってたから言っていたんだ。

「でも、相手に悪いだろ」

「心配しなくても最中は誰も気付いてない」

 鼻を鳴らして素っ気ない口調の都築の反応を見ていると、自分は夢中になれないものにきっと夢中になりまくっている相手に違和感を持っているんだろうなと思う。

「ふーん、でも電話されるこっちは迷惑だ。大事な話でも声で…その、よく聞こえないし」

「ああ、アイツらよがり狂って声がでけえもんな。これからは気をつける」

「そうしてくれ」

 呆れて溜め息を吐いた俺は、それからふと思い出した。

「都築さ」

「なんだよ?」

「どうして入学したばっかの頃の、俺の動画を持ってるんだ?」

「!」

 俺はちょっと、声もなく驚いてしまった。
 ギクッとした都築のその反応。
 ジワジワと首からゆっくりと赤くなっていくのも吃驚だけど、バツが悪そうな、苦虫を噛み潰したような顔付きを初めて見たからだ。

「ソレは、その、アレだ。桜が綺麗だったから残そうと思ったんだ。そしたら、たまたまお前が映ってただけだ」

 確かに何時もの不機嫌そうな顔で言われたのなら納得していたけどお前、そんなあからさまに動揺している顔で言われても納得出来ないんだけど。

「ああ、あそこは余所からも来るぐらい有名な桜並木だもんな」

「そうだ」

「…でも、被写体は桜じゃなくて俺だったぞ?」

「………………お前が」

 都築は顔も、耳までも真っ赤にしたままでバツが悪そうに唇を噛んでいるみたいだったけど、どうやら観念したのか、その世にも珍しい表情をもっと見たいと覗き込む俺の顔を押し遣りながら、都築は軽く咳払いして話し始めた。

「道に迷ったからって同じ新入生だったオレに声を掛けてきたんだよ」

「へ?」

「…ち。おおかた在校生と間違えたんだろ。桜の花びらを髪にいっぱい付けて照れ臭そうに笑って大講堂にはどう行ったらいいかって聞いてきたんだ。その場所はパンフレットで知っていたから道順を教えてやったら嬉しそうに笑ったお前が、有難うと言ったんだ。だから、撮ったんだよ」

「…は?」

 今の何処に撮っておこうと思う瞬間があったんだ?
 ああ、でもそう言えば覚えてる。
 有名な桜並木で、満開が過ぎて散り始めた桜がとても綺麗だったから、百目木と夜とか灯りに照らされてたらロマンチックだろうなーとか童貞の妄想が炸裂してたら道に迷って、大講堂の場所が判らなくなったんだ。そこで誰かに聞こう!ってなったんだけど、百目木も俺も、その時は立派な地味メンヲタのコミュ障だったから、誰に聞こうかって、どっちが聞こうかって譲り合いになってジャンケンして、それで負けた俺が新入生ばっかのなかで、眼鏡をかけた大人っぽいヤツが1人、桜の下でぼんやり佇んでこっちを見ていたからてっきり在校生だと思って声を掛けたんだった。
 背が高くてイケメンで、こんなお伽噺の中の王子様みたいなヤツもいるんだなぁって、当時は先輩だって思っていた都築一葉に、恐る恐る声を掛けたんだけど、都築は唐突に不機嫌そうな顔をして突っ慳貪に大講堂の道順を、それでも丁寧に教えてくれた。
 その時はあんな噂とか知らなかったから、俺もこんな風に、格好いい大人になりたいなって…今からじゃ考えられないけど、都築に憧れたんだよなぁ。

「憧れは儚く散ったけどさ」

「?」

 照れ臭さの残った頬を冷やそうとでもするかのように片手でパタパタ扇ぐ都築は、俺のため息混じりの独り言に訝しそうに眉を顰めた。
 そう言えばコイツ、あの時から俺には不機嫌そうな面をしてたな。

「俺が有難うって言ったら動画が撮りたくなるのか?」

「煩いな!桜が綺麗だって思ったんだッ。それだけだ」

 あくまでその言い訳で乗り切ろうとする都築に呆れはしたものの、どんな答えを期待していたワケでもないから、俺は肩を竦めて納得してやることにした。そうしたら都築のヤツはちょっとホッとしたみたいで、そろそろ夕食の準備でもしようかなと立ち上がる俺をジッと見つめていたけど、徐に俺のスマホを見せながら言ったんだ。

「この、画像と動画が欲しい」

「…は?」

「家の前か?ここで笑ってる画像と、高校卒業の時の動画みたいだけど。これが欲しい」

 都築が俺に見せたのは、大学に入学するからと両親がプレゼントしてくれたこのスマホが嬉しくて、高校の卒業式に弟たちが試し撮りだと撮ってくれた動画と、東京に上京する記念だと言って工場の隣にある実家の前で、これまたやっぱり弟が撮ってくれた一番古い画像と動画のファイルだった。
 自分の隠し持っていた動画がバレたと思ったのか、都築はもう隠す必要もないと高を括ったみたいで、大っぴらにそれまで欲しいと思っていたけど我慢していたんだろう要望を隠さなくなった。

「高校は学ランだったんだな。これはレアだ」

 俺のスマホを差し出して頷いている都築に、俺の写真はバトルカードじゃないぞと言いたいのをグッと耐えて、まあ、別に何かに悪用されるってワケでもないから画像や動画のひとつぐらいどうってことないからくれてやることにした。

「なんだ、画像の送信とか知らないのか?」

「興味がなかったんだ。セフレはよく送ってくるけど、オレは送ったことはない。欲しがられても送る気にはなれなかったし」

「ふうん」

 都築ぐらいのリア充になったらSNSとか当たり前で、エッチ問わず動画の送受信ぐらいしてるんだろうと思っていたけど…そう言えば、コイツのスマホの中身って今のところ全部俺のファイルばっかだったな。

「都築ってスマホはこれ一台なのか?リア充ってさ、スマホを何台も持ってるんだろ?」

「はあ?スマホなんて一台あれば充分だろ。姫乃に言って、お前も献立の送受信はこっちでやるようにしたら面倒臭くないぞ」

 それって自分が確認する手間が省けるからじゃないだろうな…

「でも、画像を撮るから俺のスマホの容量だとすぐにいっぱいになるよ。あ、でもそうか。撮って送信したら消せばいいのか」

「消すなんて勿体無いだろ。SDカードを使えばいい」

 都築は容量のあるSDカードを使用しているらしく、あの大量の動画と画像はそっちに格納しているんだとか。だから、一台で事足りると言うんだけど、なんか見られたくないメールとかあるだろうにさ。

「見られたくないメールとかどうするんだよ」

「オレはセフレにスマホを見せる気はない」

 俺んちにいる時は外しているそうだけど、セフレと会う時は前もってパスを入れるんだとか。聞けば、セフレに俺の画像を消されたりするのを防止するためだってことらしいけど…そこまで俺のファイルに価値はないと思うぞ。それよりも、お前自身の個人情報を護るとか言えよ。

「まあ、お前がいいんなら一台でいいんだろうけどさ。ほら、送ったぞ」

 都築のスマホがピロンッと鳴って、受信を告げたらしく、ヤツは満足そうに何やら操作をしているみたいだった。

「そう言えば最近お前んちに行ってないけど、あのダッチワイフとかどうしてるんだ?セフレが気味悪がらないか??」

「…」

 俺の素朴な疑問に一瞬都築は動作を停止したけど、すぐに不機嫌そうに眉を寄せて淡々と聞かせてくれた。
 なんでも、あのダッチワイフを部屋に置いたままセフレを呼んだら、俺が言うように気味悪がられるし貶されるんでムカッとして、仕方ないから実家に持って帰ったんだと。そうしたら姫乃さんともう1人のお姉さんの万里華さんと妹の陽菜子ちゃんが興味津々で、ちょうど泊り込みで護衛に当たっていた属さんに抱いてみろと言ったらしい。

「属はお前を好きだからな。喜んで二つ返事だったらしい」

 都築は不機嫌と不満を併せ持った複雑な表情をして腕を組むと苛立たしそうに話を続けてくれるんだけど…属さん、確かに都築と離れてる時にお世話になったから食事とかご馳走していたけど、最後らへんで付き合ってくれと告白されたんだよな。でも、どうして都築家に関わる連中はみんなゲイを公言するんだろう。
 おまけにエロシーンを三姉妹に見せるなんて…今後、属さんとは絶対に口をきかないし目も合わせない。

「その事実を翌日実家に戻って知ったんだけど、属の野郎、隠しモードまで見つけ出して充分堪能した、あざーっすとか言いやがったんだぞ。姫乃の命令じゃなかったらぶっ殺してやるところだったけど、安心して実家にも置いておけないし、仕方ないからマンションに持って帰ったんだ。で、もう面倒臭いからセフレを家に呼ばないことにした。そうしたら、室内も充実できるって気付いたしな」

 …室内も充実できるだと?

「え?今のお前んちってどうなってるんだ??」

「別に普通だけど?」

 うん、判った。

「明日、お前んちに行ってみてもいい?」

「来るのか?!もちろん、いいぞ」

 都築は俺が都築んちに行くことをすごく喜ぶ。俺んちなんてお前んちみたいに寛いでるくせにどこが違うのかいまいち判らないけど、だけど、そんな都築が気持ち悪くてできるだけあの高級マンションには近付かないようにしていたんだけど…なんか一抹の不安に駆られたんだ。

□ ■ □ ■ □

 高級感満載の煌びやかなマンションを見上げていると、自分の存在が相変わらず浮いてんなぁと思いながらエントランスを潜り抜けてエレベーターに向かった。途中で、何があっても逃がすなと言われているコンシェルジュたちが、素直にエレベーターに乗る俺を見て、みな一様にホッとしているみたいだ。都築がお世話をかけてすみません。
 自分のせいではないはずなんだけど、なんだか申し訳なくてしかたない。
 このマンションは通常のセキュリティと違っていて、エレベーターの横にガードマンが居て、その人が全員の顔を覚えているもんだから、顔パスでエレベーターに乗れる人と乗れない人がいる。乗れない人はどうするかと言うと、なんとホテルみたいに受付に行ってから部屋番号と自分の氏名を名乗って呼び出してもらわないといけないシステムだそうだ。
 顔パスは住民だけで、お客さんはみんな受付へ行けってことらしい。
 信じられるか?ピンポーン、はい?ガチャリ…じゃないんだぞ。
 ピンポンすらない俺んちでは考えられないシステムだ。
 ホテルか会社みたいに電話で呼び出しがあって、約束の相手なら会うし、約束していない相手なら会えないとかって感じなんじゃないかな。いきなりの凸はお断り仕様だ。
 俺の場合は都築が俺の後頭部を押さえつけて青褪めるコンシェルジュとガードマンにくれぐれもと念を押したし、興梠さんにコピーさせた写真を全員に配布すると言う徹底ぶりだったから、誰も同情と遠い眼差し以外は引き止める人なんかいない。それどころか、今みたいに素直にエレベーターに乗り込めば心の奥底から喜ばれる。だいたい、都築のメールや電話にイラッとして引き返そうとするからなんだけど…
 都築はこんな感じでいいんだろうかと、何時も最上階の都築んちに軽い抵抗を受けながらスムーズに稼動するエレベーターで向かう度に、もっと真っ当な道を歩まないと、人間的にも都築グループ的にも拙いんじゃないかと思うんだけど、当の本人が何も気にしていないのでいいんだろうけどとちょっと理不尽な気持ちになってしまう。
 あの時投げつけられたまま俺が何も言わずに可愛らしい月と星のキーホルダーの付いた合鍵を使うのを、都築も黙っているけど、アイツの場合はちょっとご機嫌で黙っているところがある。何か言ったら、きっと俺が返してくると踏んでいるんだろう。
 まあ、何か言ってきたら返そうとは思っているから、最近、都築に俺の生態を把握されているんじゃないかと不安になる。
 特殊なシステムだから非常階段からもエレベーターからも不審者の侵入が、恐らく世界一困難なマンションなので、鍵は特殊な暗証番号だとか指紋認証とかは必要ない、普通のディンプルキーだ。あ、鍵自体は複製し難いディンプルキーだけど、それだって複製されても行き着けなかったら意味がないんだよな。
 鍵を開けて室内に入ると、広い玄関の右手がプライベートエリア、左手がパブリックエリアになっていて、正面にお客さん用の客室に行ける扉がある。俺が「お邪魔します」と声をかけて靴を脱いでいると、リビングから都築がムスッとした顔付きで顔を覗かせて、ご機嫌の不機嫌面とは違うから俺は首を傾げてしまった。

「どうしたんだ?」

「お前、お邪魔しますって言うよな?こう言う場合は、ただいまだろーが」

「…」

 なんだ、そりゃ。

「俺んちじゃねえもん。お邪魔しますで正解だろ」

「ブッブー、不正解です。はい、やり直し」

 脱ぎかけていた靴を履き直して遣り直せと言うことらしくて、このまま靴を履き直して帰ることこそが正解のような気がしてきた。

「…ただいま」

 それでもこのマンションは都築邸なので都築が王様らしく、一応お呼ばれしている俺は素直に靴を履き直して指示に従ってやった。
 だいたい、何時も玄関で小芝居が入るよな。
 変だよな、都築邸って。

「よし、お帰り!大学から直行したんだろ?偉い偉い」

 途端に上機嫌になった都築は呆れ果てながら靴を脱ぐ俺をひょいっと抱き上げて、片手でポンポンッと脱がせた靴を放ると、起き抜けの猫よりもぐったりしている俺を肩に担いで寝室に向かう。
 俺の意思はあからさまに無視らしい。
 ちょっとリビングで一息吐かせてもらおうとか、ジュースやお茶を出せとは言わないから、せめて水ぐらい飲ませてくれたら嬉しいんだけど、俺が来る=都築がやりたいことをするがデフォなのでもう何も言わない。

「お前が珍しくオレの部屋に興味を示したから、模様替えした寝室を最初に見せてやる」

 俺は別にお前の寝室に興味を示したワケじゃない。お前んちがどうなっているのか見たかっただけだ…けど、この場合は寝室を見るで正しいのかな。
 コイツ、家にいる時は殆ど寝室から出ないって興梠さんが困ってたからさ。

「お前、いつも寝室で何をやってるんだよ?興梠さんが引き篭りじゃないかって心配してたぞ」

「興梠、篠原に何を吹き込んでるんだ…別に、ただのネットだよ。株式を見たりイロイロだ。リビングより落ち着くし」

「あー、まあ広すぎるよね」

 都築の肩に揺られながら頷く俺は、興梠さんと2人でも此処は広すぎるよねと思ったりした。
 都築が主寝室のドアを開けて電気を点けると、室内は特別何処かが変わっている感じではなかった。ただ、大きなベッドの向こう、窓辺に机が配置されていて何台かのモニターとかパソコンが配置されているし、その手前に2人掛けぐらいの大きさのソファがある…ぐらいか?
 よかった、セフレを呼ばないとか言うから部屋中に俺の写真とかあったらどうしようかと思った。

「都築、もう降ろしてくれよ」

 いい加減、肩に担がれたままってのはおかしいだろ。
 小さな舌打ちが聞こえたけど、敢えて聞かなかったふりをして、渋々オレを降ろす都築を無視した俺は相変わらずベッドをこんもりさせているダッチワイフに嫌気がさしていたら、その横に見慣れないものを見つけて眉を寄せた。

「なんだこれ?」

「ヲタが偉そうに勿体振るからオレも作ってみた。抱き枕カバーと言うんだそうだ。写真があれば大丈夫だったけど、お前の場合は山ほどあるから選ぶのが大変だった」

 大変だったじゃねえ。駄目だろ、これは。

「ダッチワイフから写真を撮ってねえだろ、これ。どうやって撮ったんだよ?!」

 ムッツリと不機嫌そうな都築に食って掛かったのは、抱き枕のカバーが俺になっていたからだ。それも表に向いている方は何時ものパジャマ姿で眠りこけているけど、裏面もあって、そっちは全裸の俺が眠りこけている。
 よく見ると部屋の片隅にはそんな抱き枕が幾つかあって、お洒落な感じに配置されているけど全部俺の顔だとかバストアップの画像がプリントされたクッションがあった。
 前に来た時はなかったソファも、どうも都築がパソコンに向かっている時は、ダッチワイフの俺がこのソファに座らされているようだ。
 なんか、思い切り気持ち悪い部屋になっているような気がする…

「加工だ!…そう、お前が風呂に入っている画像と眠っている画像をコラしたんだ。うん、いい出来だろ?」

 締め上げていた都築の胸もとから手を離した俺が唖然として見渡した部屋は、壁一面の写真よりもさり気なく気持ち悪い仕様に変更されていた。そんな気持ち悪さに呆気に取られている俺に、都築はベッドの上の抱き枕について嘘くさい説明をしている。

「パソコン…パソコンの中を見てもいいか?」

「いいぞ」

 抱き枕から意識が逸れると思ったのか、都築はすぐに電源を入れてパソコンを起動した。起動した画面を見て、その場にガクーッと跪きそうになってしまった。
 まず壁紙が笑顔全開の盗撮された俺の写真だし、気になってスクリーンセーバーを確認すれば学ラン着用で照れくさそうに笑っている俺の動画…あの時送ったヤツか。
 デスクトップには幾つかフォルダがあって、起業に必要なものや大学用と思しきもの、その他雑多なものと、あからさまに怪しい『KS』のフォルダ…俺のだろこれ。
 そう思って開こうとするとパスワードを聞かれる。

「…都築、これのパスは?」

「……全部見ていいワケじゃない。パスが掛かっているのは見たらダメだ」

 少し動揺したような顔で不機嫌そうに言う都築を、冷ややかに見返した俺は無言のまま前に向き直る。自分が全開で笑っている顔とご対面はかなりHPを削られるな。

「……」

 カタカタとまずは思いつく数字を打ち込んでみる。俺の誕生日だ。
 これは開かないか。
 ああ、もしかしたら俺と都築が初めて会話したあの入学式の2日後の日付はどうかな。都築はそう言う記念日的なモノを大事にしてるからな…ダメか。前に都築が聞いてもいないのに教えてくれた誕生日…適当に俺の誕生日と都築の誕生日と入学式の2日後の日付を入れてみたら、すげえ開いた!

「なんで開けるんだよ?!」

 都築もビックリだ。

「お前、頭いいけど単純だな。こう言う時はアナグラム的にさ、数字を並べ替えるとかしたらいいんだよ」

 あ、余計なこと言っちゃったかな。
 でも、都築のヤツは開いたことに動揺しているみたいで、俺の台詞なんか一向に聞いちゃいねえみたいだ。だったら、よし。
 開いたフォルダを見てそれでも俺はちょっとホッとした。
 都築が隠したがるから何か見てはいけないモノが隠されているんだろうと思ったけど、中にはただ膨大な量の俺の画像と動画があるぐらいだ。いや、もちろん、この量の画像も動画も気持ち悪いけど、見た感じ、肌色っぽいのはないので一安心だ。

「ん?なんだ、この記号みたいな文字のフォルダは」

「あ、それは開くな!」

 都築が思わずと言った感じで電源を強制的に落としやがったから、俺はそのフォルダを見ることができなかった。
 怪しいぞ。
 非常に怪しいぞ。
 確かharjoitellaって書いてたよな。
 少し青褪めて唇を引き結んでいる都築を疑いの眼差しで見上げていた俺は、それから徐に立ち上がって都築をビクつかせてから、都築の肩から降ろされたところに放置していたデイパックのところまで行くと持ち上げた。
 スマホを取り出して翻訳アプリを起動する。

「えーっと、H、A、R、J、O、I…」

「ハリオイデッラ、harjoitellaだ。日本語で練習って意味のフィンランド語だ」

 俺の行動の意味を知ったようで、都築は諦めたように答えを呟いた。

「練習?…俺はお前と何か練習してたんだっけ?」

「…」

「パソコンのハリオイデッラのフォルダを見せてくれるよね?」

 俺がスマホを持ったままでニッコリ笑うと、都築は息を呑んだようにそんな俺をジックリと見据えていたけど、やっぱり諦めたように溜め息を吐いたみたいだった。

□ ■ □ ■ □

「都築、前から変態だ変態だって思ってたけど、本当にどうかしてるな!」

 傍らでしゃがみ込んだまま両手で顔を隠している都築を、椅子に座ったままで胡乱に見下ろした俺は呆れを通り越して溜め息すら出ない。
 都築は確かに練習していた。眠っている俺を相手に。
 前に寝ぼけた俺にフェラさせた時に閃いたらしく、都築は俺に睡眠学習をさせているのを赤裸々に一部始終録画してパソコンに保存していたんだ。
 内容は大半がエロいことではあるけど、目を背けたくなるほど酷いものじゃないのが却ってリアルで、都築が俺に何をさせたいのかいまいち判らない。
 夜中にすやすやと眠っている俺を半覚醒状態で起こし、ひとつずつ指示を出してキスさせたり抱きつかせたり甘えさせたり…たまに乳首を抓んだりチンコを擦ったりしているんだ。

「…都築って俺のこと好きなのか?」

 そうじゃないとこんなことさせる理由が判らない。
 首に両腕を回して抱きつかせると、俺が都築の頬にすりすりと頬擦りしたりしている気持ち悪い動画や、都築の無精ヒゲが痛いとむずかるのをあやすように抱きかかえると、俺の頬にキスを落とす動画などなど。
 都築じゃなくて俺のほうが真っ赤になって顔を覆いたい。

「別に好きじゃない、タイプでもない」

 顔を覆ったままの真っ赤な首筋を見下ろす俺の耳には、相変わらずの都築節がくぐもった声音で届いてくる。

「じゃあ、どうしてこんな動画撮ってるんだ?なんの練習なんだよ」

 一見すれば、まるで付き合い始めたばかりの恋人が、2人きりで甘い時間を過ごしているような設定のなんかアレな動画なんだよな。エロビデオとかのストーリーものの最初に流れそうないちゃラブシーンみたいだ。気持ち悪い。

「…お前が28歳になったら幸せな結婚をするとか言うから、その希望を叶えてやるために睡眠学習をさせているんだ」

 見られて恥ずかしいと思っているくせに、饒舌に言い訳を口にするところを見ると、どうやら随分と前から見つかった時の講釈は考えていたみたいだな。

「お前は本当に初心な処女だから、人肌に慣れる練習をしていたんだ」

「…そっか。俺が28歳でラブラブな結婚をしたいとか未来予想図を言ったのが悪いのか。だったら都築が眠っている俺を半覚醒状態にして気持ち悪い動画を撮ってても仕方ないんだよな。今後絶対にソフレを解消する」

「巫山戯んな。善意の練習だ。ソフレはやめない」

「じゃあ、もう二度と睡眠学習とかするな」

 …と言っても、眠っている俺が今後何をされるかなんて判りっこない。
 だから、俺は半ば諦めの境地で首を左右に振った。

「何かさせたいなら、どうせ眠ってるんだから何をされても気付かないからもういいけど、でもエロいことは絶対にするなよ。この間のフェラみたいなのは勘弁して欲しい。暫く食欲がなかったんだからな!」

「…判った。善処する」

 善処するって何だ、善処するって。そこは判りました、絶対にしませんが正しいだろ。
 だいたいこの動画の数はなんだよ、ほぼ毎晩、俺を弄り倒してキスしたり甘えさせたりしているんじゃねえか。

「都築、こんな動画撮って何か面白いのか?」

 俺が頬杖を付いて見つめる先、モニターの中で胸を揉んだり乳首を抓まれたりして頬を染めて嫌がる俺を、都築がうっとりしたように目尻を染めながらじっくり観察して、それから気分が昂じたのか口を塞ぐようにしてキスする動画が流れていて頭を抱えたくなった。

「…別に面白くてやってるんじゃない。お前に人肌を慣れさせるためにやってるだけだ」

 体育座りでプイッと不貞腐れて外方向く都築が本気でそんなことを考えているんだろうかと首を捻りたくもなるけど、こんなことで本当に人肌に慣れるもんなんだろうか。

「こんなことしててもただ都築に慣れるだけで、女の子に慣れるとは思えないんだけどなぁ」

 ソフレしてて都築の匂いに慣れ始めてからは、コイツが傍にいても嫌な気もしないし、肩に抱え上げられても最初の頃みたいな違和感もなくなったから、睡眠学習なんかされても都築の存在にますます慣れるだけで、女の子には相変わらず軽いコミュ障のまんまだと思うんだけどね。

「ふうん。でもまあ、それもいいと思うけど…」

「は?」

「なんでもない。もうお前にもバレたし、これからは堂々と睡眠学習をするからな」

 開き直った都築のヤツは、いや少しは遠慮しろよと俺が慌てるのを無視して、いくつかの動画をピックアップして俺に観せようとする。
 もう、動画はお腹いっぱいですと言っているのに、隠すものがなくなると大胆になるのが都築で、俺からマウスを引っ手繰って嬉々として観たくもない動画を山ほど観せてくれた。
 俺の身体中を隈なく撫で擦る都築の両手に、ぴくんっと身体を震わせながら反応する俺を舐めるようにカメラが移動しているのを見ながら、都築に触られても最近、全く嫌じゃなくなったのはこの睡眠学習のせいじゃねえだろうなぁと胡乱な目付きになっていた俺は、それから唐突にハッとした。
 この動画、何かおかしい。
 俺は動画から自分の両手に目線を落として、それで何かをサワサワ触る素振りをしてみた。そんな俺をマウスをクリックして動画を早送りしたり消したりしている都築が訝しそうに怪訝な目付きで見下ろしてくる。

「…ああ!これ1人で撮ってないだろ?!!深夜の俺んちにいったい誰を入れてるんだ。興梠さんか?!」

 興梠さんだろうなぁ、こんな変態都築に協力するのなんか。

「……」

「なんで答えないんだよ?答えられないことやってんのかよ」

 都築がそそくさとマウスで動画を消してOSをシャットダウンさせると、素知らぬ顔の胡散臭さに苛ついてその胸もとをグッと掴んで睨み据えた。そうされると、流石に都築もしらを切りとおせないと判断したのか、観念したように白状した。

「…属だ」

「属さんと高校のときはブイブイしてたって言うけど、こう言うあくどいことする時は何時も属さんだな」

 お前たち仲良しだな。
 もう絶対に属さんを食事に招待なんかしてやらない。

「それから、暫くお前、俺んちの入室禁止な」

「は?!嫌だッ」

「嫌だじゃない!家主に断りもなく他人を入れて、家主を裸に剥いて動画を撮るような危険極まりない要注意人物なんだぞ。俺の心の衝撃が去るまでは立ち入り禁止だッッ」

 本当に属さんなのか確認するために、もう一度都築を押し退けてパソコンを起動すると、俺の笑顔の壁紙にHPを削られながら動画を再生した。
 何時から属さんを入れているのか気になったし…それに、色々とありすぎて俺の脳が軽くブルーバックしかかっていたせいで、ファイルの日付を確認するのを忘れていた。
 一番古いファイルは…これフェラ事件前じゃねえか!
 コイツ、こんな前から俺の寝込みを襲っていたのか。

『寝惚けてら…可愛いなぁ。そうだ、坊ちゃんに報告しよっと』

 一番最初の動画は先生事件後のフェラ事件前で、その動画に入っている声はどう聞いても都築じゃない。属さんだ。
 属さんは眠っている俺の唇を撫でると、モグモグと何かを食べているように口を動かしている俺を撮っているみたいだ。
 頭を抱えたくなったけど、無作為に選んだ次の動画を観ようとしたら、慌てたような都築に止められてしまう。

「それはダメだ。面白くない」

「…よし、観る」

 都築が止めるなら観るしかないだろう。
 マウスで再生をクリックすると、都築はまた両手で顔を覆ってその場に蹲ってしまった。

『坊ちゃん、カメラ固定した方がいいですか?』

 属さんの声がわりとクリアに聞こえるから、これだけ普通に喋っても起きないとか、俺、なんかの病気なんだろうか。

『いや、オレが撮るから属がやれ』

『はいはーい。喜んで』

 動画は声だけでまだ真っ黒い画面が出ているだけだったけど、ちょっと陽気な属さんの声がして、カメラなのかスマホなのか、ちょっと判らないけど画面がガチャガチャと揺れたら、何故か全裸の俺が自分のベッドで横たわっている姿が映し出された。
 今までが服を着ていた状態だったから安心していたけど、全裸もあったのか…ガクーッと床に両手を付いて蹲りたいのはこっちなのに、都築は若干青褪めて目線を泳がせている。

『こんな感じでどうッスか?ザ・寝取られって感じでよくないッスか』

 俺の横に下半身裸の半裸で横たわった男前の属さんが、ひとの悪い笑みを浮かべて俺の片足を抱え上げると、既にオッキしている逸物を尻から前方に擦り出しながらカメラのこちら側にいる都築に言っている。

『挿れるなよ。処女じゃなくても経験は1人で止めておきたい』

『了解でーッス!でも、先っちょぐらい挿れないと臨場感がないッスよ』

 そう言って属さんは、どうやらローションでも使っているのか、少し滑る先端をわざとらしくグニッと俺の尻の穴に擦り付けたんだ。画面が少し揺れて都築が何か言おうとした時だった。

『や…いや、やめて、くれ……』

 最初、これが例のダッチワイフならいいのにと儚い希望を持っていたけど、瞼を閉じたままで尻穴の危機を察して身体を捩る俺の額には汗が浮いていて、これが生身の人間、つまり俺自身だと如実に物語っていて腹の底が冷えた。

『拒絶されると犯してるみたいでヤりたくなりますね。ちょっとだけ突っ込んじゃダメっすかね?もう、処女じゃないんでしょ』

 唇の端をペロリと舐めながら、属さんが不穏な笑みを浮かべて俺の顎に手を当ててグイッと顔を上向かせると頬に口付けて、尻に逸物の先端をこれ見よがしに擦り付けて逡巡している都築を煽っている。どちらかと言うと、都築はお坊ちゃまだけど、属さんはワルイ男って感じだな。

『坊ちゃんを蔑ろにして男とホテルに行くなんてワルイ子はお仕置きしちゃいましょうよ』

 さらに唆す属さんに都築は考えているようだったが、それでもやっぱり、何か気に食わなかったのか、都築は属さんを止めたみたいだった。

『もういい。今日はここまでだ』

『ええ~、これからじゃないッスか!…はいはい、そんな睨まなくても止めますって』

 属さんは残念そうに肩を竦めて俺の足を下ろした。どうやら都築には忠実なようで、それ以上の悪戯はしないまま、画面が黒くなって動画が止まった。
 ファイルの日付を見ると、都築が先生とイチャラブしていて、ムカついた俺が柏木とホテルに行った2日後の深夜の日時になっている。
 属、あの野郎…

「都築、すぐに属さんを呼べ」

「…悪かった。あの日はどうかしていたんだ。柏木に寝取られとか言われて頭に血が昇って、属と話したらお仕置き動画を撮ろうってことになって」

「お前の言い訳はいい、属を呼べ」

 都築はその時になって漸く、俺が心底腹を立てていると言うことに気付いたようで、ちょっと青褪めながら息を呑んで、それからスマホを持って連絡したみたいだった。

「5分で来る」

「…」

 怒りのオーラを漂わせた俺を巨大な図体をしているくせに、都築は恐れているような態度で見下ろしてくる。
 都築がアワアワしている時に合鍵で入ってきた警護の属さんは、相変わらずな若干チャラ男っぽい男前のツラをして、スーツでバッチリ決めて姿を現した。

「あ、篠原様だ!相変わらず、すげえ可愛いッスね」

 長身の男前は嬉しそうに顔を綻ばせたものの、都築の青褪めた相貌と、俺の胡乱な目付きで逸早く何事かを察したようにすぐにグッと言葉を飲み込んだみたいだった。

「都築、属、そこに座れ」

 ゆらりと座り心地のいいハーマンミラーの椅子から立ち上がった俺の背後に立ち昇る陽炎のような殺気を感じ取ったのか、都築と属さんは何も言わずに大人しく床に正座をした。
 都築が目線でバレたと伝えているらしく、属さんは思い当たることが山ほどあるのか顔を顰めて肩を竦めたみたいだ。

「属さん。その節は護衛の任務を有難うございました」

「…いえ」

 慇懃無礼な俺の態度に短く答える属さんは、以前のような親しみ易さが失せていることに気付いたみたいで、残念そうに眉を顰めている。その傍らにしゃがみ込んで、ギョッとする属さんの肩に気安げに腕を置いて、こんな時なのに地味に嫉妬する都築を無視して俺はニッコリと笑った。

「属さんは当時、姫乃さんの言い付けで俺を護ってくれてたんですよね?」

「…そのとおりです」

「ですよね。でも、おかしいなぁ。属さんが護ってくれていたのに、俺が知らない間に、深夜に都築が家に入り込んでいたんですよ」

「…」

「これって由々しき事態ですよね?しかも俺、都築に裸に剥かれちゃってたんです」

「それはその…」

「で、なぜか裸の俺の横に属さんが寝てるんですよね、フリチンで。非常に拙い事態じゃないでしょうか」

「はい、とても」

「ですよね…さて!」

 ニッコリ笑って頷くと、俺は勢いを付けて立ち上がった。
 あまりの怒りに少し立ち眩みを起こしそうになったけど、頑張れ俺。

「何時もはなんとなく許してる俺だけど、今回は絶対に許しません。事実確認もできたので、この件は姫乃さんにも報告しておきます。それから都築、お前はさっき言ったように暫く俺んちの立ち入り禁止だ。属さんは未だに俺の護衛を姫乃さんが依頼しているらしいので即刻中止してもらいます」

「嫌だッ」

「嫌ですッ」

 俺の言葉が終わるやいなや、まるで申し合わせたように2人が同時に声を上げた。

「嫌だじゃないッ!!」

 激しい怒声に、今回ばかりは俺の怒りが凄まじいことを知ったのか、都築と属さんは青褪めたままグッと言葉を飲み込んだみたいだ。
 だいたいこれだけのことをしておいて嫌だってのはなんだ、一体何歳だお前ら。
 一歩間違えたら犯罪なんだぞ。

「お前たちはひとの良心を逆手に取って、自分勝手に好き放題しやがったんだぞ!誰がニコニコ笑って許してくれると思ってるんだッ。こんなこと、本当は絶対に許されるべきじゃないんだぞッ。特に属さん、あなたは信頼を寄せる人間を護るべきお仕事じゃないんですか?!」

「…」

「その人間の寝込みを襲うなんて…姫乃さんの良心に謝ってください。俺はあなたを見損ないました。軽蔑しますッ」

 都築に似た男前のくせに、正座したままでちょっと情けないぐらい眉を八の字にして縋るように俺を見上げていた属さんは、それから観念したように項垂れてしまったようだ。

「都築も御曹司だからって誰にでも言うことを聞かせられると思うな。俺はお前も軽蔑しているんだッ」

 同じく項垂れる大男2人を見下ろして怒鳴り散らしたせいで酸欠状態になってハアハアと肩で息をしていた俺は、それからフンッと鼻を鳴らして、それ以上は2人の姿も見ていたくなくて都築が「おい」と止めるのも聞かずにそのままデイパックを持ち上げると都築んちから飛び出した。
 コイツ等は少し反省をするべきなんだ!

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●事例13:スマホやパソコンのなかみ・寝室などがいろいろ酷い(属、お前もか)
 回答:お前が28歳になったら幸せな結婚をするとか言うから、その希望を叶えてやるために睡眠学習をさせているんだ。お前は本当に初心の処女だから、人肌に慣れる訓練をしていたんだ。
 結果と対策:そっか。俺が28歳でラブラブな結婚をしたいとか未来予想図を言ったのが悪いのか。だったら都築が眠っている俺を半覚醒状態にして気持ち悪い動画を撮ってても仕方ないんだよな。今後絶対にソフレを解消する。