大きくなったそれに手を添えて勢いよく扱くと、脳天を貫くような快感が押し寄せてきて…
俺はうっとりと目を閉じながらその快楽に酔っていた。
追い詰められる胸苦しさに恍惚としながら自慰に耽る俺の部屋のドアが、その時、突然!いきなり!唐突に!勢い良く開いたんだ。
ギョッとして慌てて起き上がった瞬間…俺はイッていた。
びゅるるっ…と濃い白濁が勢い良く飛んで、俺は全身をブルブルと震わせた。
「…ッ…あ、はぁ…」
名残惜しそうにヒクヒクと鈴口を抉じ開けて、白濁の名残が零れる様をその突然の闖入者はバカにしたような目で見下ろしている。
よ、よりによって本当に久し振りにした、そのたった一回が見られちまうなんて…うわぁあ!誰か俺を消してくれーッ!!
真っ青になって両手でベッドのシーツを掴んでいると、ソイツ…立原俊介は片方の口角をクッと釣り上げた。
嫌味たらしい笑いかただ。
「おやおや…一人遊びが上手だな、柏木光太郎くん。なんなら肛門にも指を突っ込んでみろよ。前立腺ってのがあって、案外気持ちいいらしいぜ」
「なっ!…つーか、なんでお前がそんなことを知ってるんだよ。てめぇこそ、自分でそんなことしてんじゃねーだろうな!?」
羞恥だとかそんなものが入り混じる厄介な感情を押し殺そうと必死になって胡乱な目付きをすると、顔を真っ赤にしながらベッドの上から立原を見上げる俺に、ヤツは鼻先でバカにしたように笑った。
「まさか!俺は相手に事欠かない。なにより、同室の野郎が毎晩そうやって俺を誘うのさ」
「…同室って。琴野原?」
「そ。男子のアイドル。男のくせに」
バカにしたように笑って腕を組んでいた立原は、下半身がスッポンポンのままで蹲るように両手でシーツを握っている俺を暫く無感情に見下ろしていたが、色素の薄い双眸を僅かに細めて片眉をクイッと上げると、何でもないことのように顎をしゃくってみせる。
「ズボン穿いたら?それとも、お前も俺を誘ってるワケ?」
お前なら相手にしてもいいぜ。
そう言って冗談に取れないことを無表情で嘯く立原の前で、俺は慌ててパジャマのズボンを穿いた。
冷えてパリパリになったシーツのアレは…後で始末しよう、うん。
□ ■ □ ■ □
「なんだよ。話があるから来たんだろッ」
照れ隠しに怒鳴るように言うと、俺の部屋を物珍しそうに見渡していた立原はクルリと振り返って、片方の眉を器用に上げると馬鹿にしたような目でジロジロと見るんだ。
「当たり前だ。そうでもなきゃ、どうして俺がお前なんかの青臭い部屋に来るんだ」
「う」
ピシャリッと言われて、もはや前科者に成り果てた俺は何も言えずに下唇を噛み締めたが、ん?ちょっと待てよ。なんか引っ掛かる…あ!
「おい、待てよ!なんで鍵のかかってる部屋に入れたんだ!?お前、どうやって入ってきたんだよ!」
「…」
部屋の真ん中で正座をして立原を見上げる俺を、ヤツは暫く何かを考えてるような表情で見下ろしていたが、すぐに首を左右に振ると無表情で言いやがる。
「魔法で」
思わず咽そうになったけど、天才で、同じ寮に暮らしていてもいまいちよく生態の判らない立原のことだ。
噂では黒魔術を駆使して嫌な奴を追い出してると聞いたこともある。
青褪めて退きそうになる俺を、立原は馬鹿にしたように小さく吐息して、肩を竦めて見せた。
「そんなことあるわけないだろ?せめて超能力ぐらいで反応してくれよな。合鍵だよ」
チャラッと、誰の趣味かわからないキーホルダーをぶら下げた鍵を持ち上げて見せると、興味のなさそうな双眸で鍵に向けていた視線を俺に戻す。
「まあ、誰かさんは別のことに気を取られていて、俺が入ってきたことにイくまで気付きませんでしたけどね」
「あう!」
そ、それを言うな、それを!
顔を真っ赤にして項垂れる俺の前で屈み込んだ立原は、本当になんとも言えない無表情でジーンズの尻ポケットから無造作に取り出したプリントを差し出してきた。
「今度の登山の件だってさ、班長さん。まあ、せいぜい頑張っておくんなさい」
小さくフッと笑って立ち上がった立原のヤツは、用件だけ言うとさっさと部屋を後にしようとして、唐突に思い直したように立ち止まるとクルリと顔だけ肩越しに振り返る。
「?…なんだよ」
プリントを握り締めて訝しそうに首を傾げる俺に、立原は何でもないことのように呟いた。
「別の頂上に登りつめないようにね。あんまりしすぎると、太陽が黄色くなっちゃうよ」
「?」
何を言われたのかよく判らなくて首を傾げる俺に、立原はクスッと鼻先で笑ってから出て行った。
なんだったんだ?
俺はいまいち要領を得なくて、仕方なく手渡されたプリントに目線を落とした。
なんにせよ、立原ってのは一種のエイリアンのようなヤツなんだ、俺に理解しろって方がどうかしてる。だいたい、男の一人エッチを見ても驚きもしなけりゃバツが悪そうな顔もしない、まるで他人事(いや、確かに他人事ではあるんだけど…)のように我関せずって顔して嫌味だけはキッチリ言う。ホント、なんてヤツなんだろう、立原って。まあ、いいや。
目線を落としたプリントには小さな文字でビッチリと、1年の寮生で行く今度の春の登山大会の概要が書き並べられている。
くじ引きで引き当てた輝かしき班長の座!…なワケないか。ある種の罰ゲームだぜ。くそぅ。
立原はいわゆる登山大会終了までの俺の相棒なんだ。
副班長。
みんなは同情してくれたけど、俺は別になんてこたねーんだけど。
あのズバリと嫌味を言うのが、クラスの連中は嫌いらしい。
女子の一人でもいれば華やかなんだろうけど、全校の半分以上が寮生と言うこの私立璃紅堂学院は由緒正しき名門校だ。その名門校にどうして落ちこぼれの俺がいるのか?
決まっている。
体育特待生ってヤツだ。
文武両道を重んじるこの学校に入学できるのは、まあそんなもんしかないだろう。
何を好き好んでこんな山奥に…クラスメイトは花背負った深窓の王子さまぶぅわっかりだし。
漸くいた、まともそうなヤツはあの立原と数人の悪友どもだ。
ああ…なんか帰りたいんすけど。マジで。
薄暗くなってきた部屋の中に、俺の諦めたような溜め息がやけにハッキリと響きやがった。