結局あの後、俺は部屋でそのまま寝てしまったし、それから小林のじっちゃんが来て一通りの診察を受けて、夕食の時にはもう、みんな蒼牙と何かの話し合いをスッカリ済ませちまってたからな。
小林のじっちゃんの話では、女の子に付きものの例のアレは、本来なら一週間は続くんだそうだけど、秘薬で女になってしまった俺の場合、初潮は数時間で終わってしまうんだそうだ。で、すぐに身篭れる身体になるってんだから、恐るべし秘薬!…だよなぁ。でも、その後は本来の周期に戻るから、やっぱり例のアレは一週間は続くんだそうだ。
暢気に笑ったじっちゃんが戻った後、俺はぼんやりと部屋の中に座っていたんだけど、蒼牙たちが集まって、いったい何の話をしたのか、気にならない…って言えば嘘になる。
嘘になる…ってことは、やっぱ気になってるってことなんだから、食事が終わって蒼牙が早々に仕事部屋に引き上げたのを見送ってから、俺は満腹に猫みたいに目を細めながら行儀悪くゲプッ…っと咽喉を鳴らす繭葵を掴まえた。
「ちょい、待ち」
「ゲ、光太郎くん」
なんだよ、そのあからさまに嫌そうな顔は。
「飯ん時も横に居ただろ、なんだよそのゲってのは」
ムッとして見下ろせば、小柄な繭葵はニャハハハッと笑って「嘘だよん」と言いやがった。
なんかホント、この妖怪爆裂娘は雲を掴むようなヤツだと思う。
「蒼牙と何を話したんだ??」
溜め息を吐きながら聞いたら、繭葵は「おや?」と首を傾げるような仕種をして、途端に眉を寄せちまったんだ。
なんだよ、その態度は。
「あれ?光太郎くん、蒼牙様から何も聞いてないのかい??」
「へ?あ、ああ。あの後、まだ一度も話をしていないんだ」
なんだそうなのかーと、繭葵は驚いたように大きな目を更に大きく見開いていたけど、すぐにニヤッと嫌な目付きで笑いやがったんだ。
「じゃあ、蒼牙様ってば。愛妻に心配掛けたくないからってコソリとしてるんだねぇ」
「何をコソリとしてるんだよ?」
すっげー、気になる言い方をしやがる繭葵を見下ろせば、ぬるい夜風にピンクのチュニックを揺らしながら、繭葵のヤツはニヤニヤと笑うから、底知れぬ何かを感じた俺はうんざりしたように首を傾げてやった。
僕が話してもいいのかなぁ…と、それでも一抹の不安を感じているような繭葵ぐらいにしか、実は聞ける相手がいないってのは内緒だ。
こんな時に限って、楡崎の護り手だとか言ってほんわか笑っていた座敷ッ娘もいないしなぁ。
ましてや眞琴さんに聞こうとしても、あの物言わぬアルカイックなスマイルで薄っすらと微笑んで見詰め返されただけで、悪くもないのにごめんなさいと謝ってその場から逃げ出したくなる、あの威圧感を打ち破って聞き出す根性なんか俺にはない。
桂は…問答無用で俺を無視するだろうしなぁ。
蒼牙に止められていれば、たとえ何が起こっても、貝よりも固く口を噤んで、死ぬその瞬間でさえ何も喋らないだろうと思う。そんな人の口を割らせるだけの要素が今の俺には皆無だ。
と、なればだ。
今にも話し出したくてウズウズしてそうなヤツが、丁度手頃にゴロゴロ目の前にいるじゃないか。
コイツを使わない手はない。
と言うワケで、掴まえた繭葵に事の真相を聞いているワケなんだけど、当の繭葵も何故かあまり話したがらなかった。
「なんだよ、そんなに俺には言えないことなのか?」
「うーん…そゆワケじゃないと思うんだけどねぇ。ただ、蒼牙様も言ってないことを、僕が言ってもいいのかなぁって心配になってるワケだよ」
そっか…そうだよな、無理に繭葵から聞き出して、それが蒼牙にバレちまったらアイツのことだから、相当繭葵を怒るに違いない。
それじゃ繭葵にあんまり気の毒だ。
しょうがない、こうなったら直談判でもするか。
俺がそう考えていたら、繭葵のヤツはちょっと苦笑して、それから縁側に腰掛けようよと促してきた。
「まま、少しぐらいなら話しても蒼牙様は怒らないと思うから。このやっさしー繭葵様が話してあげようじゃないか」
なんだ、やっぱ話したかったんじゃねーかよ。
「む。なんだい、その目は。僕は別にどっちでもいいんだよ?」
ニヤニヤ笑いながらそんなこと言われると、俺は慌ててちゃっかり座っている繭葵の横に腰を下ろすしかない。
「で、ちょっとってどんな話だよ?」
「んー、まずは直哉のおっちゃんと小雛についてかな…」
小雛!
それで俺は唐突にハッとした。
俺が余計なことをしたばっかりに、小雛まで巻き込んでしまったんだ!!
すっかり、蒼牙と結ばれて浮かれぽんちになっちまってて忘れてたけど、そう言えば小雛はどうしたんだろう。この際、直哉はどうなっても知ったこっちゃないけど、小雛は違う。彼女は俺を憐れんで、力を貸してくれたんじゃないか。
「繭葵!蒼牙はその、小雛をどうしたんだ??」
そう言えば姿を見ていない。
まさか、そんなまさか…
「もう、ホンットにキミってば優しいんだよな。だから、蒼牙様は光太郎くんにだけは聞かせなかったんだよ」
「って、もしかして小雛は…」
俺がハラハラしているように繭葵を見下ろしたら、小柄な彼女は目線だけを上げるようにして俺を上目遣いに見上げてきたんだけど、まるで猫みたいに双眸を細めてニッと笑ったんだ。
「そりゃぁ、激怒してる蒼牙様にメッチャクチャに怒られるに決まってるでショ?」
ああ、やっぱりそうなんだ。
あの強い意志を持っている、小さな少女は、愛する男に激怒されてどれだけ傷付いてしまったんだろう。
そうさせてしまったのは俺なのに…その俺はこんなに幸せを噛み締めている。
こんなこと、あっていいワケがない。
「コラコラ。どこに行こうっての?蒼牙様のところ?それとも小雛??彼女なら、もういないよ」
決心して立ち上がろうとする俺の腕を掴んだ繭葵は、呆れたように溜め息を吐きながらそんなことを言った。
え、今なんて…
「小雛、もういないのか?」
「うん。結局、ご当主はちゃっかり楡崎の者を娶っちゃったじゃない?だから、じーさんが諦めて連れ戻しちゃったんだよ」
「…蒼牙が帰したんじゃないのか?」
繭葵は呆気に取られている俺をチラッと見たけど、肩を竦めて頷いた。
「怒りはしたけど、蒼牙様も愛する心を知っている人だからね。それに、呉高木の分家と仲違いしても具合も悪くなるしねぇ。結局、今回の件は不問として、呉高木の分家に帰しちゃったんだよ。じーさんを使って」
ああ、蒼牙のやりそうなことだな。
小雛は、泣いていたと繭葵は言った。
初恋の淡い心を直向に傾けて、小雛は真摯に蒼牙を愛していた。
蒼牙もその気持ちを知っていたんだろう、だから、禁域を侵すと言う絶対的タブーを行ってしまった小雛だと言うのに、実家に戻すだけでお咎めなしにしたんだ。
「そもそもねぇ。悪いのは勘違いした光太郎くんだからね。今回の件は不問で丁度いいんだよ」
ホッと胸を撫で下ろす俺の傍らで、足をブラブラさせていた繭葵が唇を尖らせてそんなことを言うから、ちぇ、俺だってちゃんと判ってるって。
「ああ、そうだな。でも…お礼も言えなかったなぁ」
強い意志を秘めた、優しい双眸をしたあの少女。
何処か、桜姫に似た潔さを持っていたから、きっと俺を見つけなければ、蒼牙は彼女を妻にしたんじゃないのかなぁ…いや、違うか。
蒼牙は俺と出逢わなければ、龍雅の花嫁になっていたんだっけ。
なんつーか、どっちにしても、報われないよなぁ、小雛。
だからせめて、今度はちゃんとした幸せを掴んで欲しいと、心から祈っているよ。
滲むように微笑んだ小さな顔を思い出して、俺は心からそう思っていた。
「んで、直哉のおっちゃんだけど…」
思わず物思いに耽っていた俺は、ああ、そう言えば、あのおっさんはどうなったんだろうと繭葵の勝気そうな双眸を見下ろして頷いた。
「眞琴さんや伊織さんのこともあるし、何より、眞琴さんはこの家にはなくてはならない人だからさぁ。やっぱこっちも不問だったんだよね」
「なんだ、そっか。ま、それが一番いいよな」
俺が思わず笑ったら、繭葵のヤツが不意にジトッとした目付きをしやがるから…う、なんだよ?
俺、なんか悪いことでも言ったかよ。
「ったくさー、蒼牙様に光太郎くんが禁域にいるとかチクッて、更に禁域に入れちまった張本人だってのに…蒼牙様のご心労も判らなくもないよね」
可愛い唇を尖らせてムスッと呟く繭葵に、いやまぁ、そうかもしれないんだけどさぁ…と、俺は何故か言い訳めいた調子で頭を掻いてしまう。
そもそも、本当はアレは全部蒼牙が悪いんだ。
幾ら、俺が人間にフラフラ靡く楡崎の血の持ち主だからって、龍雅を警戒してヤツに抱かれていた蒼牙の計画ミスなんだよ。俺こそ、ホント、そんなにフラフラしたヤツじゃないぞ。
取り越し苦労だったなと、いつだったか、蒼牙がそんな風に言って笑ったけど、まさにその通りだったんだ。俺は龍雅に絶対に惚れたりしないし、できれば近付きたいとも思わない。
いや、蒼牙と抱き合うアイツを見たからかもしれないけど、そもそもだ。蒼牙は肝心なことを忘れている。
俺、男なんだぞ?…いや、正確にはだったと言うべきなのか??なんつーか、ややこしい身の上になっちまったけど、男だったのになんで龍雅なんかにフラフラすると思うんだよ。
蒼牙にでさえ、俺は警戒しまくってたってのに…アイツが、傲慢不遜のアイツが心を砕いてくれたから、俺はそんな蒼牙を好きになって、それだってかなり葛藤したってのにさぁ。
蒼牙はやっぱり心配性過ぎるんだよ。
「あの一件は蒼牙が悪い。小雛を巻き込んだのは確かに俺だから俺も悪いけど、でも、禁域に行く羽目になったのは蒼牙のせいだからな」
フンッと鼻で息を吐き出して外方向くと、繭葵は呆れたように肩を竦めたけど、そろそろ星が瞬きだした夕暮れの空を見上げて、ちょっとホッとしたように笑った。
「でも、何もかも、あるべきところに納まったような感じじゃないかい?僕は、なんだか大役を果たしたような気分だよ」
だからもう、この村を出て行ける…言外にそのニュアンスを感じ取って、俺は急に不安になったんだ。
確かに、蒼牙もいるし、座敷ッ娘もいる。
でも、この村で唯一、バカ騒ぎしたり肩を張らずに面と向かって話せたのってさぁ、繭葵だけなんだよなぁ。
「そっか。お前も、もう行くんだな」
「ははは。光太郎くんの祝言を見て、蒼牙様との約束どおり、蔵開きしてからね」
一抹の寂しさを含んだ双眸は、星を浮かべる夜空のようにキラキラしていて綺麗だった。
繭葵はもう、心残りは何もないんだろう。
「たまにはさ、思い出したように遊びに来いよ?」
ちょっと寂しくてそんな風に誘ったら、繭葵のヤツは、ニコッと笑ってから大きく頷いてくれた。
「うん。光太郎くんに可愛いベビーが誕生したら、真っ先に来るからさ!」
そんな感じでドンッと背中を叩かれて、新米のお嫁さんは頑張れよって言われてるみたいだった。
結局、蒼牙の話はそれだけで、後は有耶無耶に誤魔化されちまったんだけど、俺はそんなことよりも、繭葵との別れが寂しくて仕方なかった。
こんな小さな女の子なのに、俺は随分と助けられて、依存してたんだなぁと今更ながら溜め息が出た。
それでも、繭葵は世界にだって飛び出しちまうような、飛び切り頑丈な精神の持ち主で、あらゆる民俗学的な価値あるものを見て、そして発見してその名を轟かせるんだろうなと思う。
そんな自由な生き方にも憧れるけど、俺としては、可愛い子供たちに囲まれながら、ちょっとヤキモチ焼きの子供っぽい、そのくせ凄く頼り甲斐のある旦那様の傍でゆっくりと暮らす生活の方がいいと思う。
「繭葵、頑張って新発見とかしろよ」
「…やだなぁ、まだお別れじゃないのに。そんなこと言われちゃうと、出発できなくなっちまうよ」
照れ照れと頭を掻きながら、それでも、繭葵も寂しさを感じてくれてるみたいだ。
コイツ、ホントにいいヤツだよな。
性格とか妖怪爆裂娘なんだけど…でも、繭葵はいい女だと思う。
「欧とか言ったっけ?お前の相棒、ソイツも待ってることだしな。行かなきゃいけないだろ?」
「欧くん?うん、そうだね。世紀の大発見も待ち構えちゃってるよ~?ウシシシ」
歯をむいて笑う繭葵の頭にヤツはそれほど入っちゃいないんだろう。だが、いつかお前も気付くよ。
直向な視線に、その意味に。
んで、いつかさぁ。
お前とその欧とか言うヤツが仲良く訪ねてきてくれたら、俺は嬉しいと思う。
そんな日が来ればいいな。
俺と繭葵は、夕暮れから満天の夜空に移り変わる空を、暫くそうして見詰め続けていた。
◇
夜半過ぎに俺を起こさないように布団に潜り込もうとする蒼牙の着流しの胸元を、俺はムンズッと掴んで起き上がると、その驚いた顔を見上げたんだ。
「捕まえたぞ、この野郎。昼はズーッと仕事なんかしやがって!説明とか全然してくれないんだなッ」
唇を尖らせて悪態を吐けば、蒼牙のヤツはやれやれと苦笑して、着流しを掴んでいる俺の手を大きな掌で包み込んだりしやがるから、思わず顔が赤くなってしまった。
「そんなことでアンタは起きてたのか?」
「そーだよ!俺の旦那様は秘密主義だからな。奥さんとしては心配で夜が眠れねーんだよッ」
ムムムッと眉を寄せると、蒼牙はクスクスと笑って、それから掴んだ俺の手を引き寄せるようにして抱き締めると俺の肩に顔を埋めて、疲れたように溜め息を吐いたんだ。
「別に秘密主義じゃない。婚儀の日取りを決めていたのさ」
「…え?」
ビックリして目を見開いたけど、俺の肩に顔を埋めている蒼牙には見えなかったと思う。
婚儀…あ、そうか。
そう言えば忘れてた、俺、ついつい晦の儀とかやらかしちまったから、結婚した気でいたんだ。
そうだ、俺、蒼牙と朔の礼を挙げないといけないんだ。
「繭葵にも出席して欲しいだろ?それと、眞琴と桂に日取りなどの打ち合わせをしていたんだ」
ああ、そうだったのか。
「だったら、俺も参加するべきじゃねーのかよ」
だってさー、結婚式ってのは夫婦になる初めての共同作業だろ?
なんか、取り残されたみたいでムカツクんだけどよー
納得いかないんだと言う顔をして蒼牙の掌をゆっくり離して、その背中に腕を回したら、俺の肩に顔を埋めたままの、綺麗な青白髪のご当主さまはクスクスと笑っているみたいだ。
「アンタは大事な身体だ。朔の礼までゆっくり休んでいるべきだ」
「…そうか、朔の礼」
眉を寄せたままで、俺は蒼牙の身体のぬくもりを感じながら、やっぱりちょっと納得いかないまま唇を尖らせてしまう。
せっかく蒼牙と結ばれたのに…
「そっか、俺、まだ蒼牙のお嫁さんじゃなかったんだな」
ポツリと呟いたら、不意にガバッと蒼牙が身体を起こして、目を白黒させている俺の顔を覗き込んできたんだ。強い意志を秘めた男らしい、神秘的な青味を帯びた双眸で挑むように睨まれて、う、俺なんかとんでもないことでも口走っちまったのかと焦ってしまう。
「なんだと?誰がそんなことを言ったんだ?!」
「へ?い、いや誰も言ってないけど。ただ、朔の礼を挙げないと、俺、蒼牙の奥さんにはなってないじゃないか」
両の手首を握られて、俺は困惑したように眉を寄せて首を左右に振ったんだけど、蒼牙のヤツは思い切り腹を立ててるみたいだ。
「朔の礼など、本当はどうでもいいんだ。ただ、眞琴や桂たちが執り行わないとアンタに申し訳ないと言うから、素直に従っているだけなんだぞ!俺にとって、アンタはもう妻だ。それは誰にも変えられないッ」
ムスッと、本当に腹立たしいんだろうなぁ、この青白髪の鬼っ子は。
いや、違うな。
龍の子だ。
俺は思わずプッと噴出して、俺の手首を掴んで引き寄せている蒼牙の、その不機嫌そうな顔に目蓋を閉じて顔を寄せたんだ。
やわらかく触れた、少しかさついた唇にキスをしたら、あれほど激怒していたくせに、蒼牙はすぐにキスを受け入れてくれた。
舌で頑なそうな真珠色の歯に触れたら、その城門はすぐに開いて、俺からの口付けを蒼牙は嬉しそうに楽しんでいるみたいだ。
俺だって、そうなんだ。
別に婚礼の儀式とか行わなくても、あの時、蒼牙に俺の身体の奥深いところに触れられたあの瞬間に、俺の心も身体も全て、蒼牙のものになったんだから。
俺の心はもう、蒼牙のお嫁さんだと認識している。
でも、なんだか儀式とか残ってしまうと、まだそうじゃなかったのかと寂しい気持ちになっちまっただけだよ。
お前が違うんだと否定してくれれば、本当はそれだけで安心できる。
だから、言っちゃったのかもしれないけどな。
「…ん、ふ……ッ、ぅん…」
弄るように戯れる俺の拙い舌の動きなんか、易々と蒼牙に攫われてしまって、主導権は奪われてしまう。ちょっと楽しかったけど、でも、それでもいいと思ってしまうのは惚れた弱みだ。
掴まれていた手首が離されたから、俺は蒼牙の首に噛り付くようにして腕を回したら、俺の旦那様は浴衣の裾から悪戯な指先を忍ばせてくるんだ。
うん、何度でも。
俺は蒼牙に抱かれたい。
蒼牙が触れやすいようにちょっと足をずらしたら、キスはますます濃厚になって、大胆な俺の身体を隈なく辿るように空いている方の手で愛撫してくれる。
「…ぁ」
キスの合間に思わず声が漏れたのは、まだ慣れていない女性器に蒼牙の無骨な指先が触れたからで…でも、俺のそこはもう、蒼牙を求めてねっとりと粘る粘液を溢れさせていた。
「アンタは俺の妻だ。ここに誰かを受け入れるとすればそれは、俺だけだ」
ゆっくりと指が挿入されて、俺は腰をもじもじさせながら、逞しい背中に抱きついてしまう。
「うん、俺、蒼牙だけしか知らない」
それでいい。
ぎゅうっと縋りつくと、ねっとりと纏わりつく内部を掻き回すようにぐるりと指を回されて、俺はあられもない嬌声を上げてしまった。
ハッとして慌てて唇を噛み締めたけど、蒼牙がそれを許してくれず、女になってからやたら涙腺が緩くなった俺の目からポロポロと涙が零れるけど、お構いなしにキスしてくれる。
「アンタは凄いな。どんな姿でも、俺を欲情させてしまう」
「そんな…ッ!…んぁ…や、……ぁん」
官能を刺激するような湿った音を響かせる下腹部が、どんな状態になっているのか触らなくても良く判る。俺の息子はヒクヒクと震えながらガチガチに硬くなって筋張ったまま屹立して、先端から悲しいと粘る涙を零しているし、女性器もそれに反応して愛液を溢れさせてるんだから、凄まじい惨状になってると思う。
にも拘らず、蒼牙は興奮を物語るように目許を朱に染めて、口許に淫らな笑みを浮かべたままで俺に覆い被さってくるんだ。
「アンタは俺の妻であり、生涯の伴侶だ。これからは毎晩でもここに俺を受け入れて、俺の子種を受け止めるんだ。何が嫁じゃないだと?こんなことをされてもアンタはまだ、俺の妻になっていないと思っているのか?」
恥ずかしい台詞を抜け抜けと言いながらも、蒼牙はひくんっと震える淫らな部位に、猛々しく屹立している灼熱の杭を押し込んできた。
「んあ!…や、いた…あ、あぁ……ッ」
まだ慣れていない挿入の衝撃は痛みを伴うけど、それでもすぐに濡れた女陰は絡みつくようにして硬度を保つ筋張った雄を咥え込もうと、淫らに蠕動を繰り返す。
蒼牙がゆっくりと腰を押し進めると、まるで逃げるみたいにずり上がる俺の身体を押さえて、挿入を更に深めようと押し入ってくる。その凶暴な仕種にポロリと涙が零れて、俺は頭を左右に振りながら、蒼牙の背中に爪を立てた。
しかも、挿入をスムーズにするつもりなのか、どうかは判らないんだけど、これ以上はない快感に翻弄されているって言うのに、蒼牙のヤツは、俺と蒼牙の腹の間で揺れている息子を掴むと、先端の鈴口をぐりっと指先で抉るようにするから…
「ひぁ!…や、あぅ!…い、だめ…や、いやだッ…あぅ……んッ」
強烈な快感に脳内がスパークして、もう突き上げられる快感に悦んでいるのか、雄を掻き毟られる快感に泣いているのか、頭がぐちゃぐちゃになって、もう許してくれと懇願しても、俺の身体に夢中になってくれている青白髪の、御伽噺から抜け出してきたような男は許してくれないんだ。
「あ、あぁ…も、ゆるし…ッッ……ひぃ、…んッ……ぅ」
掻き毟るように背中に回した指先に力を込めて縋りつく俺の身体を抱き締めるようにして、絡みつく肉の欲望をじっくりと堪能する蒼牙は唇を扇情的にペロリと舐めると、その顔を見上げて涙を零している俺の頬を同じようにペロッと舐めたんだ。
「何度でもアンタを抱いてやる。この身体の隅々に、いったい誰のものなのか。烙印を刻み込んでやる」
蒼牙は嗤った。
俺を奈落に突き落とすような快楽に喘がせながら、子宮に叩きつけるように熱の奔流を流し込んで。
そんな、淫らな顔で笑って欲しくない。
そうしたら俺は、何度だって抱いて欲しくなるし、一度射精してしまってもまだ硬度を保っているこの灼熱の雄を、身体の中から出して欲しくなくなってしまうから。
「お、俺の旦那様…あぅ…ん、も、と、もっと抱いてくれ…」
蒼牙の腹に思い切りぶちまけても、まだ硬度を失わずに震える雄を擦り付けながら、まだ咥え込んだままのそこに力を込めて、きゅぅっと収斂させて引き止めると、内部の締め付けを愉しんでいる蒼牙は嬉しそうに笑うんだ。
揺らめかす俺の腰を掴んで、どうやら蒼牙は、今夜はもう離してくれないみたいだ。
俺は嬉しくて、傲慢で自分勝手な愛しい青白髪の龍の子に縋り付いて、頬に涙を零しながら蕩けてしまうキスをした。