子供のように喚きたてる佐渡に小林は閉口気味に、180センチはありそうな長身をこれでもかってぐらい縮めて、お姫さまの機嫌を必死でとっていた。
ざまーみろ。
俺は腹の底でそうは思ったが、小林の行動力には呆れたもんだ。
ゴールデンウィークの一番込み合うときに、俺たちの隣りの部屋を取ったってんだからすげぇよ。
だけど、佐渡はそれが気に食わないみたいだった。
つーのも、どうして変更してもらえないんだと怒っているんだよ。
フロントのおっさんも困ったように眉を寄せている。
「翔、もうそれぐらいにするんだ。いくら言っても同室にはできませんって言ってるじゃないか」
洋太が困惑したように人の目も憚らずに喚きたてる佐渡に教え諭すように言うが、綺麗な天使のように可愛らしい佐渡はそんな洋太をキッと睨みつけると、大きな腹をポクポクと殴りつけて駄々をこねる。
「うるさいな!洋ちゃんはいいよ!里野くんと一緒の部屋なんだから!せっかくみんなで旅行に来たって言うのに、別々の部屋なんて面白くもなんともないよッ」
微妙に里野くんと一緒のところに力を入れた佐渡は、それでも上手な言い訳でチラリとフロントのおっさんを見るが、彼は困惑したように眉を寄せて変更がきかないことを暗に示している。当たり前だ、今日は満室だって言ってるじゃねーか。しかも、俺たちの部屋は3人部屋で狭いの!
…ったく、仕方ないな。
「もうよせよ、佐渡。夕飯を一緒に食えばいいだろ?行くって時に返事を渋ったお前が悪いんだ」
後半はもちろんウソ。
それならと言って頷いてさっさと手配にかかるフロントのおっさんのホッとしたような顔を見ながら、悔しそうだが、それでも仕方なさそうに溜め息を吐いた佐渡は小林の長い足を行儀悪く蹴飛ばした。
「うッ」
お前が悪いんだと胡乱な目つきで睨む佐渡に、小林はバツが悪そうな顔をして項垂れているが…微妙に嬉しそうだ。コイツ、やっぱマジでマゾかも。
「こちらでございます」
綺麗な仲居のお姉さんに促されて、俺たちはそれぞれの部屋に案内された。
続き部屋まで案内された俺はニッコリ笑った顔でくるりと佐渡を振り返ると、マジでキレそうな剣呑な顔をしてその可愛らしい顔を覗き込んだ。
「いいか、てめぇ!30分は俺たちの部屋に来るんじゃねぇぞ!」
「う、うん…」
ギョッとして後退さって部屋から出て行く佐渡を、よく聞こえなかった仲居のお姉さんは首を傾げて見送ったが、ニッコニッコと笑っている俺を不審そうに見ながらも、お茶だの部屋の説明だの非常口の説明だのを一通りして部屋から出て行った。 これで俺たちは2人きりだ!
やっと俺様の念願がかなう!!
畜生ッ!嬉しいぜッ!!!
そう思いながら、俺は徐に立ち上がると浴衣の入っている小さな押入れに近付いた。そう、ここはなぜか押入れに浴衣が入っているんだ…って、そんなこたどうでもいい。
俺はそれを手にするとクルリと洋太を振り返った。
奴はのん気にお茶を飲んでいる。
よしよし。
ニヤリッと笑って俺は着ていた服をさっさと脱ぎ始めた。
ああ、俺さまの念願が…念願が叶う!
「あの仲居さん、俺たちのことをどんな目で見てたんだろうな?片やヤンゾー、片やデブ。不思議そうな顔をしてたぜ?」
そう言って、浴衣を羽織るようにして洋太の傍らに座った俺に、奴はちょっとドキッとしたように見下ろしてきた。下から覗き込むようにその大きな顔を見上げながら、俺は悪戯っぽく笑って鼻先にキスをしてやった。
男なら、このまま押し倒せ!
俺の内心の声なんか聞こえもしやがらねぇ洋太の奴は、ドキドキしてるように顔を真っ赤にして俺の浴衣に隠された腰に太い腕を回して抱き締めてきた。
押し倒さずに抱き締める…か、この野郎。
まどろっこしさに苛々しながら、俺は洋太の首ともいえない首に両腕を回して抱きつきながら、その少し厚めの唇に口付けてやった。唐突な行動で肩に引っ掛かっていた浴衣がハラリと落ちて、洋太の腕の辺りで蟠る。
素肌が晒されて、洋太はやっと俺のソノ気に気付いてくれたようだ。
この鈍感野郎!
「なぁ…洋太。浴衣をきっちり着たほうがいいか?ひん剥いて、俺を犯す?なんだっていいんだぜ、俺は…」
長いキスに息を荒く吐きながら、俺は抱き締めた洋太の首に縋るようにしてその欲望に濡れる両目を覗き込んだ。俺の目だって、きっとそんな風に濡れてる…
「光ちゃん、エッチしよう。たくさん抱き合って、いっぱいキスをして…2人で幸せになろうね」
「洋太…ああ、幸せになろう」
今でもじゅうぶん幸せだけどな。
首筋にキスされて心地好さにブルッと震え、そのまま洋太の顔は胸元まで降りてくる。こんな風に俺は、追い立てられるように快楽のポイントを刺激されてアイツを感じるんだ。
「洋太…」
溜め息のように名前を呼べばキスをしてくれる。
ゆっくりと畳に押し倒されると、そのザラッとした質感が直接肌に触れてゾクッとする。もう、なんだって刺激になる。
洋太がそこにいて、俺を抱いてるってだけで興奮するんだから…全く、俺って奴は。
まだ服も脱いでいない洋太に、浴衣を腰の辺りに蟠らせただけの全裸の俺。
浴衣…グチャグチャになって、これで今夜は寝るのか。嫌だな。
とか考えているうちに洋太が圧し掛かってくる。
思考が洋太だけになる。
愛してる…なんて、素面で言やぁマジで恥ずかしい台詞でも、どうしてだろう。お前に言う時はちっとも恥ずかしくない。それどころか、もっともっとと言って、もっと違う、身体の奥深い部分でお前を感じたいとさえ思うんだ。
今みたいに、身体が2つに折れちまうんじゃないかってほど折り曲げられて、晒された部分に洋太を奥深くまで受け入れたりなんかすると、生きてて良かったって泣きたくなる。
生理的な涙が零れる目元を洋太のキスが拭ってくれるのが嬉しい。
「洋太!畜生ッ!…好きだ、お前が好きだよ」
身体を激しいリズムで揺すられながら、甘えるようにキスを強請れば、洋太は慈悲深く深く口唇を合わせてくれる。奥から出てくる逞しい奴の舌に舌を絡めて、翻弄するように貪れば、緩やかな気分なんか吹っ飛んで、頭の芯がグラグラするほど激しく追い立てられるんだ。
洋太を受け入れた部分を激しく擦り上げられて、上と下で、ああ…頭がブレちまうぜ。
高く掲げるように伸ばされた足の爪先が、俺の意思とは無関係に宙を蹴っている。
リズムに合わせて揺れる爪先にすら気を止める余裕がない俺は、もう、ただ必死に洋太の顔を見つめていた。汗の浮かぶ男らしい顔、何度見たって見飽きることなんかねぇ。
洋太もそうかな。
洋太も俺の顔、見飽きてねぇかな?
覗き込んでくる洋太を見上げながら、俺は熱に浮かされた双眸で幸せにうっとりと笑った。
洋太が好きだ。
ああ、旅行に来てよかった。
これから5日間、ずっと一緒だ
まあ、クソ面白くもねぇコブが2匹もくっ付いて来てるけどよ。畜生。
身体の最奥に洋太の灼熱の飛沫を受け止めながら、俺は痺れるような幸福に身体を軽く痙攣させて洋太を受け入れているそこを意識せず蠕動させた。
最後まで…俺に入れて、洋太。
ああ、ダメだ。
熱が出そうだ…