今日は思ったよりもお客の入りが多くて、最近別のバイトくんが辞めちまったってのもあったもんだから、こうして午前様も仕方ないってワケだ。
なんつっても24時間営業だから文句は言えないんだけど…
カンカンと古びた金属製の階段を上がって安っぽいアパート2階の自室、やっと息のつける昭和初期も真っ青な狭い部屋に入る為の木製のボロッちぃ扉の金属のノブに、やっぱりいつも通りコンビニのビニール袋が下がっている。
アイツもマメだよなぁ…とか思いながら、思わずニヤける顔に叱咤して。
「あり?今日は俺がバイトしてるコンビニの袋だ…そっか。これを買うためにわざわざあんな遠くまで買い物に来たのか」
それを知るともっと嬉しくなって、俺はなんの疑いもなくぶら下がっているビニール袋に手を出した。
「…?」
ビニール袋の中の異質感。
なんだ、これ?
俺の見慣れたビニール袋の中、珍しく500ml入りの牛乳パックとパン、それから…ビデオ?
なんだってビデオテープなんか入ってるんだ?
レンタルで返すのを忘れてこの中に入れたとか?でもおかしいな、黒いケースに収まっているそれは背面にタイトルを示すテープが貼っていない。明らかに…もしかして。
「アダルトかよ!?辻波ぃ~勘弁してくれよぉ」
とか言いながら、本当は興味津々だったりして…
巻き戻して返せば、アイツも気付かないだろうしなぁ…見ちまおうか?
鍵穴にキーをさして、開けるのももどかしく思いながら金属のノブを回す。
案の定、いつも通りゴキちゃんと仲良く眠れそうな散らかし放題の部屋の真中、万年床の少し上の方に無造作に置いてある電話には留守電ランプが赤い点滅を繰り返していた。
20件以上も無言の上に、辻波の陰気な声でのお出迎えよりも、今はやっぱりビデオでしょう!
はあはあ言いながら楽しませてもらいます!!
…けど、うーん。
やっぱりいつも通り聞いておこうかな。
せっかく、辻波が連絡くれてるんだし、無精者でぶっきらぼうで愛想なしの仏頂面のアイツが。
気付いたら留守電の赤いランプを押していた。
巻き戻しが終わって、機械的な女の声で件数が告げられる。
『13件です』
ああああ…またしてもこの回数かよ。縁起悪ぃし多過ぎだっての!
ムカツキながらも根気良く無言電話を無視して辻波の声を待った。
ピーと言う発信音の後…
『お帰り…えーっと。じゃ、また大学で』
拍子抜けするほどあっさりと切れたメッセージに、俺はポカンとしちまった。
いつもならちょっとした感想だとか、労いとか入ってんのに…そっか、アイツ。俺が声の相手が自分だと知ってるって思ったから、バツが悪くなっちまったのかな?
だとしたら…このビデオを観る行為ってのはもしかして、かなり拙いのではなかろうか?
まんじりともせずに布団の上に置いたビデオテープの黒いケースを睨みつけていた俺は、それでもと言うか、やっぱりと言うか…好奇心に負けてしまった。
し、仕方ないよな?風が吹いただけでも勃つお年頃…からは少し時期が外れてるけど、それなりに女の身体には興味あるし、辻波のヤツがどんなタイプが好きなのかとか気になる要素大だから無視するわけにはいかないだろう。
『観てください』ってスタンバってるワケなんだし。
よし、観よう!
決心して、それでも愚図る手には愛のお仕置きをしてから、俺は黒いケースからなんの変哲もないカセットを取り出した。
どんなに俺が貧乏と言えど、なぜかビデオデッキだけは置いてあるんだよな。DVDとか洒落たものはないんだけど。
挿入口にカセットを押し込んで、薄い壁だし、ボリュームは極力絞って画面を待つ。
砂嵐が暫く続いて、すぐにその映像は現れた。
『…ぅあ!…ん。あん!…あ、あ、あ…あぅ…』
絞った音量はのっけからお楽しみの真っ最中だと教えてくれたけど、俺の耳はもう、そんな音を聞いてなんかいなかった。ただただ、画面の中で必要以上に喘ぐヤツの、男のナニを受け入れて気持ち良さそうにヨガるヤツの、その顔を食い入るように見ていたんだ。
男を咥え込んでヨガるソイツ…まさに俺だったんだ。