「ほほう、心配していた奴が人の飯まで腹に収めていると?」
案内された別室では、既にプリプリと腹を立てていた佐渡と小林とが座っていて、酒盛りならぬジュース盛りをしていやがった。
仲居さんはクスクスと申し訳なさそうに笑って出て行ってからの発言だ。
「でも!里野くんたちの分はちゃんと取ってるもん」
ツンッと外方向く。
ああ、確かに俺たちの飯はある。
飯はあるが…洋太と食おうと思って奮発した舟盛りが何で消えてるんだ!?
「マジかよ…5000もしたのに」
畳にガックリと膝をついて、項垂れるように両手をついた俺の悲愴な肩に手を乗せながら、洋太はのほほんと笑って言ってくれやがる。
「ご飯は残ってるからいいじゃない。僕もうお腹ペコペコだから、早く食べよう?」
「そうじゃねぇだろ!畜生!俺の、俺のファンタジーがぁぁぁッ!!!」
がるるる…っと、その渾名のように牙をむいて洋太に食って掛かる俺を、ヤツはまるで子供にするように頭をポンポンと撫でてくれて、両手を持って立ち上がらせてくれた。両手を持って促すと着席させられて…気勢の殺がれた俺は泣きたい気分で頭を抱えるしかねぇんだ。
うう…覚えてろよ、佐渡。
「さ、里野先輩。俺、半分持ちますんで…」
小林が申し訳なさそうに胡乱な目つきの俺に言いやがるもんだから、さらに腹が立つ。つーか、洋太!のほほんと合掌して飯を食ってるんじゃねぇ!
ああ、もうマジで苛々するぜ!
「うるせぇっ!クソ後輩。黙って飯を食ってろッ」
片膝を立てて頬杖をついた俺がコーラをビンのままで飲みながら胡乱な目付きで睨んでやると、小林のヤツは怯えたように身体を竦ませる。
これじゃ、ただの酒飲んでくだをまいてるオヤジじゃねーか!
俺って…
佐渡の無法地帯とかした惨劇の部屋を後にして、さすがに初日で遊び疲れた俺たちは眠い目を擦りながらそれぞれの部屋に戻ることにしたんだ。
外エッチして疲れてたけど…俺としてはもう一度風呂に入りたかったから、布団の上で大の字になっている洋太にそのことを告げて、傍らに屈み込むとその少し厚めの唇に口付けた。
洋太はちょっとビックリしたようだったけど、眠いのか、目を擦りながら気を付けてねと呟いたようだった。
何を気を付けるんだか…ま、行って来ますのキスを盗めたんだ。よしとしておくか。
俺は鼻歌交じりに洋太を部屋に残して意気揚揚と風呂場に向かったんだ。露天風呂は時間外でもう無理だけどさ、内風呂も結構広くていい感じだったんでそこに向かったってワケだ。
後始末したとは言ってもまだ体内に残ってるもんはある。
部屋の風呂でもいいんだけどさ、やっぱこう、開放的な気分で入りたいよなー。
部屋の風呂だと主成分が違うだけで家の風呂と変わんねぇだろ。
狭いし…
内湯はそれでもまだ早い時間だってのに誰もいなくて、開放的と言うか、ちょっと広すぎて怖い。
…誰もいないのか、そうか。
チッ、洋太を連れて来りゃ良かった。
俺ってばホントに洋太が好きなんだよなぁ…つくづく、そりゃもう感心するぐらいには好きだと思うよ。
あのでかい身体に組み敷かれて、身体の最も奥深い部分にアイツのでかい灼熱を捻じ込まれて…熱い飛沫を受け止めたりしたら…やべ、勃ってきた。
今夜はもう、抱いてくれないだろうなぁ。
疲れてたみたいだからなぁ…でもま、初っ端からガンガン犯りまくったらあとの4日間がもたないだろう。アイツのミルクタンクを空にするまで毎日だって頑張るつもりだったけどさ…アイツは、アイツはどうなんだろう?
俺ばっかりが頑張ったって意味がねぇんだよ、アイツは俺の身体を抱きたいって思うんだろうか?
毎日、壊れるまで抱き締めたいって思ってくれてるのかな…
熱く火照った身体の熱を持て余した俺は、冷たいシャワーを頭から浴びながら目を閉じた。
こう言う風に無防備にしていると、身体の奥に注がれた洋太の名残が足の間を伝って流れ落ちていく。何か大切なものが流れ出ていくようでソコに思わず力を入れたくなったんだけど、後始末を怠ると大変なことになるのを身を持って経験しているからな、出てしまうまで身体を震わせて待っていた。でも、最後の方は…やっぱ指で掻き出さないと出てしまわないだろう。
いつもは洋太がしてくれて、それでまた興奮するんだけど。
俺はパーテーションに区切られたシャワー室のような個室の壁に手をついて、目を閉じたままで後ろに指を這わせた。自分で自分のソコを触るのは、いつもドキドキするんだ。
「…ッ」
なんだか1人エッチしてる気分に呆れながら、俺は最奥まで指を突っ込むと、ドロッとしたそれを掻き出したんだ。
シャワーに流されたそれは排水溝に吸い込まれてしまう。
「…ぅ…ッはぁ」
張り詰めていた息を吐き出して、思わずその場にへたり込みそうになった俺の肩を、唐突に誰かが掴んだんだ。
「うわ!なんて冷たいシャワーを浴びてるんだい!?風邪を引いてしまうよ」
見知らぬ男だった。
誰だコイツ?
慌てたようにコックを捻ってシャワーを止めたソイツは、ボンヤリしている俺の腕を引いて熱い湯船に浸けやがったんだ!うっわ!マジで熱い!火傷しそう・・・つーか、心臓麻痺でも起こしそうだぜ!
「な、何をしやがるんだッ!」
「風邪を引くよ…君。やっぱり本当に男の子だったんだね」
「あぁ?」
俺を見下ろしてくる得体の知れないソイツを胡乱な目付きで睨みあげると、ソイツはちょっとドキッとしたようにギクシャクと目線を逸らしちまった。
「なんだってんだ?」
「その、ああ言うことは…その、君は…あんな風に1人で…」
いまいち要領を得なくて、俺は広い浴槽に伸び伸びと足を伸ばしてうつ伏せのように縁に両肘をついて頬杖をしたんだ。
「尻に指を突っ込んで1人エッチしてるのかって聞きたいのか?」
直球で首を傾げると、ソイツは顔を真っ赤にして慌てふためいた。
おもしれぇヤツだなぁ、コイツ。
「男が…好きなの?」
言いよどんでるくせにそう言うことはハッキリ聞けるんだなぁ、まあ、いいか。
「いや、男が好きと言うよりもむしろ、俺は洋太が好きなんだ」
「洋太?あの、一緒にいた女の子みたいに可愛かった?」
「…ん?あんた、佐渡を知ってるのか?」
俺が訝しそうに首を傾げると、ソイツはモジモジとしながら頷いた。
顔を真っ赤にして…なるほど。コイツは佐渡が好きなんだな。
まあ、それも仕方ねぇか。あいつ、ホントに守ってやりたくなるほど可愛いからなぁ。
「いいや、違うよ」
「え?じゃあ、あの背の高い…」
「それは小林。俺の愛してるのはあんな連中じゃねぇ!」
「…って、まさか」
なんだよ、なんでそんなに驚くんだよ、このクソ野郎。
俺がムチャクチャ不機嫌そうに眉間にしわを寄せて唇を尖らせると、ソイツは慌てたように両手を振って俺の横に滑りこんできた。
ケッ、こんなヤツとは少しだって一緒にいたくなんかねぇぜ!もう、上がろうっと。
そう思って立ち上がろうとしたら、急に腕を引かれてバランスを崩してしまった。そのままヤツの上にこけた形で…うっわ、鼻先がくっ付きそうな近くに顔があってムカツク。マジで、ムカツク。
「なにすんだ!」
「あんな、あんなデブ野郎と犯ってんのか!?」
「悪いかよ?つーか、お前!手を離しやがれッ」
関係ないだろうがよ!
暴れようとしても思った以上に力が強くて…この野郎。俺を本気で怒らせる気かよ、コイツ。
俺が本気で暴れようとしたその時、バシャンッ水飛沫を上げてソイツは俺と身体を入れ替えるようにして組み敷きやがったんだ。両手を掴まれて、石の縁が背中に当たって痛いんだけどよ。
…何をしてるんだ?
何をしたいんだ?
「あんなデブ野郎に…こんな綺麗な…」
「あぁ?」
眉を寄せて睨むと、唐突にソイツの顔が近付いてくる。
こ、これは、まさか…
き、キスなんか冗談じゃねぇぞ!行って来ますのキスをもらえたって言うのに、いや、実際は盗んだんだけどな!いや、そんなこたどうだっていい!取り敢えずコイツの手から逃げねぇと…急がねぇと俺、逆上せそうだ!
どう、どうしよう。
逃げるんだ俺!なんで旅館の内風呂でワケの判らねぇ野郎に組み敷かれてキスされんといかんのだ!?
ったく、なんだって言うんだよ!?
クソッ!逃げろ!逃げるんだ、俺!
うう…洋太!助けてくれ!!