8  -Forced Encounter-

 FBIが用意したホテルはそこそこ設備の整った機能性のある広い部屋を持つ、港に面したそれなりに豪華そうなホテルだった。

(おおかた、モーテルあたりだろうと踏んでいたんだが、奮発したところを見ると幾許かの罪の意識はあるとみえる)

 その思うより広い室内の窓辺で腕を組んで眼下に広がるクルーザーの浮かぶ港を見下ろして内心で皮肉気に笑う惟貴の背後で、テーブルの上に山積みになっている資料を見下ろして光太郎は若干絶句気味に青褪めている。

「これを一週間で全部読むのか…あれ?容疑者の写真がない」

 幾つかにファイル分けされた資料を片手にほぼ絶望感を感じているようだったが、ふと、手にした書類から写真が剥されていることに気付いて首を傾げた。

「ああ、余計な先入観が入ってはいけないからな。資料にある容疑者の写真は全て剥している」

「そうなんだ…」

 少なからずどんな凶暴な面構えなのだろうかと、覚悟を決めるつもりで見ようと思っていただけに、写真が全て剥されていることには少しガッカリした。
 その割には、まだ耐性がないと言うのに胸元をバックリと割られている血まみれの被害者の写真は確り貼り付けられていて、思わず目を背けそうになってギュッと双眸を閉じ、それからああダメだ…と思い直したように双眸を開いて手にしている書類に目線を落とした。

「人好きのする憎めない顔立ちをしているからな。写真を見て先入観有りでの状態で太刀打ちのできる相手ではないんだよ」

 これから対峙するのは平気な顔でこれらの残忍な行為を行った凶悪犯なのだから、殺された被害者がどんな無念を感じて志し半ばで倒れたのか、きちんとこの目で確かめなければならないのだ。それを覚悟して、遺体すら見つかっていない、何処かでひっそりと殺されてしまった名も無き人を助けるんだと自分で決意したではないか。

「…なんだ。すごいおっかない顔付きの人かと思った」

 資料から目線を上げた光太郎は、恐らく今回の自分のお願いに物静かに怒っているに違いない兄の、その皮肉っぽい笑みを浮かべる顔を見上げて悲しげに微笑んだ。
 少し意地悪をしてしまったかなと惟貴は言葉を詰まらせたが、それでも光太郎は、唐突にムッとした顔をして、やわらかなアイスグレーのセーターの袖を捲りながら資料と格闘することを決意したようだ。
 真剣そのものの真摯な双眸を傍らで見つめながら、惟貴は遠い昔に見失ってしまった記憶にある弟の、その泣き虫だった姿が随分と成長してしまったことに少し残念に思いながらも、いつの間にか意志の強い確りとした芯を持っている男に成長していることに嬉しくもあった。

(私は少し気を遣い過ぎているのかもしれないな…)

 ゆったりとした大き目の椅子を引っ張ってきて、光太郎はその椅子に体育座りをするような形で乗っかると、ファイル分けされている書類に目線を落とした。
 まず光太郎が目を通したのは名無しの殺人鬼の犯行に関しての詳細が纏められた資料だった…が、彼にしてみれば見なければいけない資料はほぼこれのみと言っても過言ではないようだ。
 なぜなら、膨大な資料の殆どがその内容で、その他の生い立ちや素性に関しては全て『unknown』となっていて、何一つとして名無しが名前を有する人間へと繋がるはずの証拠や書類が一切ないのだから。

(まあ、だから名無しの殺人鬼なんだよなぁ…でも、こんなにも綺麗に人間としての証拠を消すことってできるものなのかな?この情報化社会で盗聴国家とか言われるぐらい物騒なアメリカで、DNAも指紋も何一つどこにも登録せずに残さないで、誰も知り合いさえ作らないで生きていけるのか…まるで透明人間みたいだ)

 軽く溜め息を吐いて考え込んでいた光太郎は、その悍ましい事実が綿密に羅列されている資料を捲りながら、何もかもが闇の中に存在しながらも、まるで警察を嘲笑うかのように姿を現して捕まっていると言う名無しの殺人鬼は、何処にでも居るごく平凡な天羽光太郎と言う存在を連れてきたら全部話すと言い切ったそうだ。
 自分の存在のどこにそんな価値があるんだろう…
 日本に居れば、恐らく一生お目にかかることなどないだろう無残で凄惨な猟奇殺人事件の報告書は、あまりに悍ましく胸が悪くなったが、兄の心配を余所にこの事件の全容に隠されている何か、それのどの部分に自分が絡んでいるのか、唇を噛んで必死で読み解こうと読み進めていた光太郎の、ある被害者の書類に通していた目線が止まった。
 年の頃は恐らく15~6歳ぐらいの少年で、身長も体重も殆ど自分と同じで、ただ違うのは彼が白人でありその写真に写し出されている姿が亡骸であると言うことだった。
 しかし彼は明らかに他の被害者とは違う扱いを受けていることは、その埋葬方法に関する詳細な報告書を読めばよく判る。
 この名無しの殺人鬼と言うサイコキラーは、一様に白人を獲物としていて、殺害方法も一貫している。
 まずレイプし開胸術を行い心臓を取り出して殺害、そして彼はその心臓をその場で調理して食している。驚くことに殺害後は入浴し、何食わぬ顔で遺体を放置して立ち去っているのだ。
 レイプに関しては犯人の性的興奮は見受けられず、体液の検出はどの遺体からもなかった。

(この子には体液の痕跡が残っているのか…それに、なんて綺麗に埋葬しているんだろう)

 そう、いったい何人目になるか皆目見当もつかないが、その少年はまるで穏やかな顔をして瞼を閉じ、どす黒く口を開いているはずの胸元は死後丁寧に縫合されているようで、真っ白い純白のシャツとズボンを着用した姿で鳩尾の辺りで指先を組ませて、噎せ返るような何本もの真っ赤な薔薇の中でまるで幸せな夢でも見ているような顔をして眠っているように見える。
 血塗れだったに違いないシーツまで丁寧に替えて、どれほどその少年が特別で、その死を悼んでいるのか光太郎ですら判るほどだった。
 体液の痕跡は…恐らく涙ではないかと記述があった。

(泣いてしまうほど大事だったに違いないのに…どうして名無しは彼を殺してしまったんだろう)

 それは光太郎には理解できない、抗えない衝動だったのか。

「24か。後にも先にも、ヤツが几帳面に死を悼んでいるのはこの少年だけだな」

 無言で光太郎の好きに資料を見せていた惟貴だったが、ふと、捲る指先が止まり、何処か遣る瀬無い表情で見つめている写真に気付いてポツリと呟いた。
 身元が判明していない被害者は全て発見順のナンバーで呼ばれることを知らなかった光太郎は、ああ、そんな風に死後までも辱めを受けることになるのかと、それまであまり考えていなかった名無しの殺人鬼に対して仄かな怒りを覚えたようだった。

「この少年が光太郎に似ている…と言うワケではないのだろうが。何か思い至るところがあるのかもしれないな」

(俺に似ている?そんな、馬鹿な。どう見ても完全に白人だし、それにとても綺麗な顔立ちをしてる)

 兄は母に似て氷の美と称えられるほどハンサムで綺麗な面立ちをしているが、光太郎は父親似だったらしく、初めて会う人は2人が兄弟とは最初から判らないと言う有り様なのだ。
 爽やかな部分はよいのだが、穏やかそうな表情が童顔の甘ったれのように見え、可愛らしいとは表現されても綺麗とは口が裂けても言って貰えそうにない自分が、この眠り姫のように美しい少年に似ているとすれば、それはとんでもなく失礼なことだと思えた。

「勿論、似てるワケがないよ」

 ムッとして吐き捨てる弟の態度に、ふと、惟貴は目を瞠った。
 喧嘩や言い合いを極力避けて、だからこそ穏やかだと評される光太郎の、その逆鱗に何が触れたのかと首を傾げてしまったのだ。
 胸が悪くなるような資料を立て続けに見ているせいで、少し神経が尖ってしまったのだろうか。

「少し休んだらどうだ?根を詰め過ぎてないか。まだ時間はたっぷりあるんだぞ」

「そんなことないよ。たった一週間だから、ちゃんと読まなくちゃ」

 24の資料を逡巡したように彷徨わせて、そして、そのままファイルに収めた光太郎は、それからまた次々とある限りの被害者の書類に目を通した。
 どれも無残に胸元にポッカリと穴をあけ、肋骨が露出し、肺があふれ出ているような感じで写し出されている様は、吐き気すら催す不快なものでしかない。
 だがどの遺体も、麻酔を使用しているためか、穏やかに瞼を閉じて眠っているようだ。
 その異様なギャップが、さらに心の奥に仕舞っているはずの恐怖心を呼び起こしてしまう。
 愛もないセックス…そう、強姦と呼ぶに相応しい性交渉を行い、だが、少なくとも被害者はその時まで幸せであったに違いないことが…それがレイプではないのではないかと思わせるのだが、一種独特の儀式のように性交渉を交わし、躊躇いのない淡々とした手つきで開胸術を行うと、脈打つ心臓を取り出して、その強靭な筋肉の塊を料理して食すのだ。
 被害者は死を感じることもなく絶命するのだが…死を意識できずに死ぬことは辛くはないのだろうか、哀しくはないのだろうか…それなのにどうして、そんな夢見るように幸せそうに微笑んでいるのだろう。
 光太郎は長い溜め息を吐いて、両腿に肱を付いて前のめりになると髪に指先を埋め込んだ。

(普通、被害者は自分が死ぬことを思い知らされて、苦痛に歪んだ顔をしているんじゃないのかな。なのに、此処に居る被害者はみんな、どうして幸せそうな顔をしているんだろう)

 駆け出しですらない臨床心理士見習いの経験値もない光太郎は、まるで化け物のように厄介な犯人に兄ですら手古摺っていると言うのに、どうして自分が名無しの殺人鬼の思考内に入り込むことができるなどと考えてしまったのか、今更になって身震いしてしまう。
 そして、ふと思うのだ。
 兄やサモンズ捜査官は名無しの殺人鬼から情報を引き出すことを望んでいて、この膨大な殺人の記録を読むように指示してきた。
 確かに基礎知識は必要だと思う。
 だが、【彼】が望んでいるのは本当はそんなことではないのではないか。
 天羽光太郎と言う人間を通して、何かを見たい、何かに語りかけたいだけなのではないか…

(ああ、そうか。きっとそれは24なんだ。彼は24にとても執着していて、彼が大事だったから、同じような背格好で犯罪心理学を学んでいる俺に、面会を依頼したんじゃないかな。ただ、話したいだけなんじゃないのかな)

 それは単なるこじ付けでしかない。
 背格好は同じでも、ブロンドでもなければ碧眼でもない、ましてや白人種でもない光太郎の中に24を垣間見ることなど不可能なのだから。
 だが、もしやと考える。
 自分の性格は、お前が思う以上に優しく穏やかで気遣う心を持っていると、思わず赤面モノの褒め言葉をもらうことがよくあるが、24がその性格であるのなら、いつか何処かで触れ合う切欠があったとして、その時にそれを感じたのであれば…名無しの殺人鬼が光太郎に執着することも頷けなくもない。

(もしかすると彼は俺みたいな性格をしていたんじゃないのかな。それだったら、もう一度会いたいと思った時、俺と言う存在は貴重になるもんな)

 誰かの身代わりなど冗談じゃないが、それでも、名も無き被害者たちの無念を晴らす為であるのなら、それも仕方ないと光太郎は溜め息を吐いた。
 ただ、名無しの執着はその話で何となく自分を納得させることはできるが、では、どうして光太郎はその他のシリアルキラーたちに狙われるようになってしまったのだろうか。

(それが判らないんだよなぁ)

 上体を起こしてからドサッと背凭れに背中を預けながら天井を見上げ、光太郎は不満そうに唇を尖らせてプリッと腹立たしそうだ。
 その姿に惟貴が苦笑した。

「どうやら行き詰ったようだな。お兄ちゃんを頼るかい?」

 ベッドに長くなって本を読んでいた兄がニヤニヤ言うのを聞いて、弟はムスッとした顔のままでペロッと舌を出して見せた。

「まだまだだよ。だって、時間はいっぱいあるんでしょ?」

 ニッと笑う光太郎に、惟貴は一瞬呆気に取られたようだったが、やれやれと苦笑して肩を竦めて見せた。

「では役立たずの兄は読書を再開しようかな?何か用事があれば呼べばいい」

 軽く吐息して本を読もうとする兄に、光太郎はちょっと悪戯っぽい表情をしてエヘヘッと笑ったようだ。

「それじゃあ、兄ちゃん。早速なんだけど、俺、お腹すいちゃった」

 散々な報告書を読み漁っていると言うのに空腹を訴える光太郎に、惟貴はそれこそ本気で呆気に取られたような顔をした。自分でさえ、最初の頃は食欲を失くしていたと言うのに…
 ともすれば光太郎は思う以上に順応力があり、もしや尤もこの職に特化した性格の持ち主なのではないかと、惟貴ですら疑ってしまうほどの豪胆ぶりなのだから、兄は目を瞠り、それから可愛い弟の為に電話に手を伸ばした。

 光太郎がホテルに缶詰めになってそろそろ7日目に突入し、いよいよ件の容疑者との接見の日となった朝、惟貴のスマホに着信があった。
 惟貴がディスプレイを見ると発信者はヒュイット捜査官となっていたので、ちょっとした胸騒ぎに似た嫌な予感がした。
 何か拙いことでも発生したのだろうか?
 今まで経験したことのない事態の展開に、最近の惟貴は疑念ばかりに苛まされ、些か憂鬱になっている。その主な原因は他の何ものでもない弟の光太郎が、この事件に深く関わることになるからなのだろう…その場合、まずは捜査やその他、事件に関わることから自分は遠ざけられてしまうのが現在の司法機関の取り決めである。
 だが、今回は異例の事態が起こっていると言うことで、異例の処置が取られているワケだが、そうでなかったら惟貴は光太郎を差し出すことなど考えもしなかっただろう。

「はい?」

『ああ、アモウ博士!レビン・ヒュイットです。朝早くにすみません』

 耳元でホッとしたような、若干草臥れた口調の若い捜査官の声がして、そう言えば…と惟貴は思い出していた。
 レビンはマーカスの件の洗い出しをしていたはずなのだ。

「何か掴めましたか?」

『ええ、大収穫ですよ!既に…っと、失礼。既にサモンズ捜査官には伝えてあるんですが、マーカスはフェアリーキル連続殺人事件の容疑者…と言うか、ズバリ犯人でした』

「フェアリーキル連続殺人事件?」

 どうやら移動中に電話を寄越したようで、誰かにぶつかりつつ歩いているのか話の途中で障害物に断りを入れているが、歩きに合わせて声が若干弾んでいるもののレビンは大きく頷いたようだ。

『そうです。男娼や家出少年を対象にした連続殺人事件のことなんですが、その容疑者がマーカスではないかと狙いを付けたんです。しかし既に容疑者であるマーカスが死亡しているので確定的なことは言えないんですが、ある店が設置していた防犯カメラにバッチリ姿が映っていたんですよ』

 ああ、なるほど。
 惟貴はその報告を聞いて暗い気持ちになった。

『…これで、残念ながら名無しの殺人鬼の言っていたことは真実と言うことになりました。それからもうひとつ』

 レビンが言うように名無しが異常なまでに警戒していた言葉が事実となって、惟貴に重く伸し掛かってくる。事実であるのならば、光太郎はあらゆるシリアルキラーに狙われていると言うことになるのだ。
 奥歯を噛み締める惟貴に、レビンは申し訳なさそうに言葉を継いだ。

『マンハッタンのコータロー君のアパートに急行した現地の警官の話では…』

『おい、レビン!車が来たぞッ』

『ああ、判った。すみません!続きはボルチモアで報告します。それではまた後ほどッ』

 遽しく電話を切ったレビンの行動に呆気に取られつつも、惟貴は深い溜め息を吐いた。
 大方、光太郎のアパートに何者かが潜入でもしていたのだろう…こうなってしまえば、聞かなくても手に取るようによく判ってしまう。

「兄ちゃん、今のレビン捜査官だったんだろ。どうだったの??」

 粗方の書類を鞄に押し込みながら不安そうにこちらを見詰めてくる、夜空に点在する星を閉じ込めたような双眸を見返して、惟貴は困ったように苦笑するのだ。

「残念ながら杞憂だったよ…とは言えないんだ。おいで」

 ふと、昔のような仕草で手招く兄に素直に従って近付いた光太郎を、羽ばたかせたくないと日本に閉じ込めていたはずなのに…と惟貴は眉根を寄せて重く瞼を閉じながらその華奢な身体を抱き締めた。
 兄に抱き締められることに慣れている光太郎は、それでもその心の震えには気付いてしまうから、やはりとんでもないことが起こっているのだろうと言うことはよく判った。
 惟貴の腕をギュッと掴みながら、どうしてこんな風に取り返しのつかないことになってしまったんだろうと考えてみても、思い当たることは何もないし、自分が発言した言葉など実際はいちいち覚えているはずもないのだ。

「兄ちゃん、ごめん。本当は兄ちゃんが俺を日本に置いておきたいって知ってたんだよ。でも、どうしても兄ちゃんに逢いたくて…」

「馬鹿だなぁ、光太郎。そんなことはよく判っているよ」

 追い縋る手を離したのは惟貴だった。
 一度だって目を逸らすことなく、穏やかにやわらかく見詰めてくる光太郎の視線を、痛いと感じるようになっていたのも惟貴だったのだ。
 光太郎はあの日から本当に何も変わっていない。ドロドロした大人へと醜く変貌を遂げてしまったのは、哀しいかな、彼が一番信頼している兄である惟貴の方だった。
 咲き初めの花が早朝に物静かに朝露を零すように、頬に一滴零れた涙を唇で掬えるのなら、惟貴はきっと愛しい光太郎を日本になど置き去りにしたりはしなかった。
 手折ってしまえば呆気なく萎れてしまうと心の何処かに、この劣情は仕舞い込まねばならなかったはずなのに…運命は時にとても残酷で、心から大切な弟を悍ましい腕が手折ろうとしているのだ。

「…今日はいよいよ決戦日だぞ。準備はできてるのか?」

「うん!俺、ちゃんと名無しと話してくるよ。それで、どうして俺が殺人鬼たちに狙われているのか聞いてくる」

 そう、何時までもこのぬくもりに縋るように頼っていては駄目なのだ。
 きっと、名無しの殺人鬼の異名を持ってしまった容疑者…いやもう、犯人なのかもしれないけれど、彼も本当はただの話し相手として自分を求めたにすぎないのだから、だったらその特権を活かす方法がきっとあるはずだ。
 兄やいろんな人を巻き込んでしまって自分の不甲斐なさに唇を噛み締めながら、光太郎は抱き締めてくる兄の腕をギュッと掴んで決意するように力強く頷いていた。