Level.5  -暴君皇子と哀れな姫君-

 初めの1日目は班長と副班長が集まっての簡単なミーティングだけだった。そりゃ、当たり前か。
 ここに着いたのがもう夕暮れだったからな。
 明日はオリエンテーションがあって、翌日が登山大会、そのままキャンプファイアーになだれ込んで…アレだ。
 そう、口にだってしたくない、アレだ。
 何が悲しくてヘトヘトに疲れたその晩に、蚊にやられながらコンニャク垂らした釣竿持って、浴衣に着替えて山ん中で蹲ってなきゃならんのだ!?
 たった今配られた、肝試し大会計画表なるものを見下ろしながら、俺は人目がなかったら泣いていただろうと思う。

「柏木、泣きそう」

 クスッと、鼻先で抑揚もなく笑う気配がして、俺は胡乱な目付きで傍らのパイプ椅子に退屈そうに腰掛けている立原を睨んでやった。

「うるせーな。こう言うときは音楽聴かねーのかよ?」

「聴いてるよ」

 片方のイヤホンは抜け落ちていたが、反対の、向こう側ではちゃっかりシャカシャカ鳴ってる。
 ちぇっ!呑気なもんだよな。
 いいよな、立原は。そう言うことにまるで無頓着で、凡そもう五感なんかねぇんじゃねかって思うぐらい、ケロッとしてるんだ。怖くないのかよ、山ん中で2人っきりなんだぞと聞いても、アイツは別にどうでもいいことだとばかりに肩を竦めるだけで、お前が邪魔しなければ恙無く終るだろうと仰って下さった。
 このエイリアン立原のことだ、五感はなくったって第六感が研ぎ澄まされてるのかもしれねぇ…つーことはだ!コイツと2人なら幽霊も拝めるってことか?
 ひ、ひえぇぇ~

「青くなったり赤くなったり…まるで信号機みたいだねぇ」

 気のない様子で呟く立原は、やっぱり気のない様子で明日の予定を詳細に確認している委員長を眺めている。その横顔はとり止めもなくて、俺はぼんやりと眺めるぐらいしかできない。
 ホントこいつ、何を考えてるんだろう?
 俺は手持ち無沙汰で弄んでいるクシャクシャのプリントを見下ろして、狼男と書かれている項目を見た。
 玩具の耳に着ぐるみを着て、どんな面で脅かすんだろう。
 どうせ、この無表情で耳にはウォークマンをしてシャカシャカ、シャカシャカ…暗闇でその音を聞きながら膝を抱えて蹲ってるんだろうな、俺。虫の音とか聞きながら…夜行性の動物の気配を肌に感じながら…幽霊だってすぐ傍にいるかもしれねぇのに?
 ひえぇぇぇ~!!!

「立原。肝試しの時、俺にもウォークマンを聴かせてくれよ。できるだけ、あっかるい曲がいいな、俺」

「…」

 一瞬黙り込んで俺を見ていた立原は、何かを考えてるようだったが、すぐに頷いて興味のなさそうな双眸を向けて呟いた。

「…別に構わないけど。どうする?」

「は?何が??」

 唐突に聞かれても…俺はウォークマンを聴かせてもらえればそれでいいし。どうする?って、今はいいけど…えーっと?
 そして俺は、唐突に自分の勘違いに気付くんだ。いや、立原の言葉を聞いてから…だけどな。

「ウォークマンからこの世ならざる世界からの声が誘うように…」

 語尾が途絶えたのは俺が躊躇わずにその口許を塞いだからだ。
 それでもまだ何か言おうとする立原の口許を塞いだままで、そのハッキリ言って無気力そうな双眸を睨み据えた。顔色は…クソッ!立原の言う通り青褪めてるだろう。

「お前ってヤツは…ひゃっ!?」

 ビクッとした。
 突然、そう唐突に立原がその口を塞いでる俺の掌を舐めたんだ。ペロッと別に気にしたようでもなく。
 俺だけが真っ赤になってバッと掌を離すと、パイプ椅子のギリギリまで身体を引き離して立原を見た。ななな…何をするんだ!?
 普通、掌なんか舐めるかよ!?

「て、てめぇ…何、何を…」

 動揺して何がなんだか判らないことを口走る俺を、立原は別にどうでもいいような無表情で肩を竦めて見せた。本当に、どうでもよさそうだ。
 なんか、こんなことでヘンに意識してる俺の方がおかしく見えるんだけど…

「柏木が悪いんだろ。苦しいって言ってるのに…」

 本当に苦しかったのか!?…と聞きたくなるほど冷静に呟く立原に、なんか1人でドキマギしている俺って…もしかして滑稽か?
 思い切り脱力して肩を落としていると、我慢も限界と言わんばかりに額に血管を浮かべた委員長の鋭い叱責が飛ぶ。立原じゃなく、俺に。

「柏木くん!静かにしないと肝試しの後片付けもお願いするよ!」

「ひえぇ!それだけは勘弁!!」

 後片付けって言ったら山の中腹の道標代わりの大きな石碑の前にある、みんなが置いてきたローソクの残りを始末する係りだ。無理、1人なんて絶対に無理だ。
 ったく、こう言うとき得体のしれないエイリアンってヤツは、一見大人しく見えるから、とばっちりはいつだって俺に降りかかるんだ。近頃、立原と一緒だからいつもこうだ。
 コイツは声も低いし、それほど目立つってワケでもない。
 そのくせ存在感はどっかりとその場にあるってのにな。
 なんでも注意されるのはこの俺だ。
 とか言って、アレの怖さに立原に当たってるだけッスよ、マジで。
 俺ってばサイテーな奴だけど、今はなんだか世界中が敵のように思えていかん。
 ああ、何だって班長なんかになったんだよ、俺!
 項垂れている間にも、委員長の神経質そうな声は淡々と響いて、楽しいはずの新入生歓迎強化合宿の最初の夜はこうして静かに深けていく。

□ ■ □ ■ □

 …はずもなく。
 俺は解散した後部屋に戻るのも億劫だったから、ちょっと、この少年自然の家の中を勝手に散策することにした。
 夜の9時をすっかり回った館内は不気味なほど静まり返っていて、昼間の賑やかさがない。
 ロビーのような、受付になっているフロアには人影もなく、受付のところに明かりが点ってるぐらいで、省エネ対策なのか電気は全部消えている。ぼやぁっと明るいのは、自販機のおかげだ。

「ホンットに何もねーところだよな」

 俺は青紫のジャージのポケットに手を突っ込んで、ブラブラとその辺を歩き回ったけど、けっきょく真新しい事は何もなかったから踵を返して部屋に戻ろうと思っていた。
 夕方に見たときは他校の生徒も来ていたような気がしたんだけど…連中も確かどっかの男子校だって聞こえたんだけどなぁ、誰にも会わないや。ま、俺たちのような名門校だったら大人しくお部屋で仲間とトランプでもしてるんだろう。
 ちッ、クソ面白くもねーな。
 ブチブチと小声で悪態をつきながら歩き出した、その時…

「…ッ…んぅ…あぁ」

 押し殺したような、咽ぶような泣き声が確かに聞こえて、俺は、俺は…
 落ち着け、俺よ!これは幻聴だ。空耳だ。俺には何も聞こえちゃいねぇ!
 自分に言い聞かせながら顔を真っ青にして踵を返そうとする俺の耳に、咽び泣きとはまた違った声が響いてきた。どちらにしても、押し殺してるのに変わりはないから良く聞き取れねーんだけど…
 …このまま逃げ出せ、と本能が警鐘を鳴らして教えてくれるけど、人間てのには厄介な感情があって、俺にだってその怖いもの見たさの好奇心ぐらいはある。
 何をしてるのか気になるじゃねぇか。

「…ゃ、だ、…んぅ…誰か…来たら…」

 それは、薄暗い館内の死角になる階段の下にある、狭い空間から聞こえていた。
 恐る恐る近付くと、耳朶をやらしい息遣いが打った。

「うるせってんだよ、この淫乱野郎!…お前が、クソッ!誘うから…」

「やぁ…」

 小柄な栗色の髪には見覚えがある。
 琴野原に良く似た奴だと…確か、夕方見た男子校にいた奴じゃなかったっけ?
 う、うえぇぇ…何をやってんだ、コイツら。
 湿った音が微かに狭い空間に響いていて、その湿気た水音はやけに腰にくる。
 なんだろうコレ、どこかで聞いたような…

「あぅ…んん」

 栗色の髪の奴が切なそうな声を上げると、その背中に覆い被さる男は荒い息をつきながら腰の辺りを忙しなく動かしている。その度に、猫が水を飲むような密やかな湿った音が響く。
 腰が抜けそうな甘い声…とでも言うのか、その2人は俺がそこにいることにも気付かず、その犯っちゃてんじゃないでしょうか?
 これは、この音は。
 友達ん家で観た、AVで聞いたことがあるし…
 その唆すような、甘えるような…なんとも言えない耐えているような密やかな声は、確かにAVほどわざとらしくはないけど…ああ、それで下半身が熱くなってきたんだ。
 や、やべぇ!
 このままここにいたらヤバイことになるのは確実で、俺は慌てたように踵を返そうとして口を塞がれてしまった。背後から突然、伸びてきたその腕で。

「んん!?」

 抗議の声を上げようにも無理な話で、俺は必死にもがいて暴れたけど、ソイツの腕は力強くて半端な抵抗なんか蚊が止まったぐらいにしか思っていないようだ。つーか!何なんだよいったい!?
 ヤロー同士のエッチシーンを目撃して、日頃たまりまくってる悪環境の中で、下半身を熱くしてるなんつー恥ずかしい姿は誰にだって見せたくなんかねぇ!変態だ!それってマジで変態みてぇじゃねーか!
 男ってのはどうしてこう、こんなに節操なく勃たせることができるんだ!?っつーぐらい、熱くなった下半身をもじもじさせる俺を引きずるようにしてソイツは、薄暗い廊下を俺の口を塞いだまま暫く行くと、何やらワケの判らん…コミュニティルーム?と書かれたプレートが貼ってある部屋に突き飛ばしやがった。

「なにすんだ!?」

 突き飛ばされて倒れこんだ俺が上体を起こしてキッと睨みつけると、ソイツは…誰だ、コイツ?
 はぁはぁと肩で荒い息をしながら慌てたようにジャージのズボンを脱がしに来る熱い手に嫌悪感を抱きながら、俺は見たこともないニキビ面を非常灯の薄ぼんやりとした緑の明りだけを頼りに思い切り抵抗しながら睨みつけた。

「だ、誰だよ!」

「だ、誰だっていいじゃねーか。ほら、お前だって勃ってるし。あんなの見せつけられたらたまんねぇよ」

 いや、だからってどうして俺がお前とサカらなきゃならんのだ!?
 この野郎!俺は男となんかぜってぇに嫌だってんだ!そりゃ、あんな音を聞かされたら寮で禁欲生活をしていた10代の若い身体にはそうとうな刺激はあったけどさ…だからって!

「…ぁうッ!」

 不意に外気に晒された下半身の素肌を汗でぬるつく掌に撫でられて、不覚にも声を上げちまった俺をソイツは嬉しそうにニヤニヤと笑いながらダイレクトに触ってきやがった!

「…んぅ…」

「ほら、感じてんだろ?…すっげ、マジであんた色っぽいな」

 はあはあとさらに息遣いを荒くしたソイツは、抵抗力の萎えてしまった俺の下半身を思い通りに弄りながら、自分のおっ勃ったナニを背後から尻に擦り付けてきやがる。俺は素肌だけど、ソイツはまだズボンを穿いたままだから一部を突っ張らせた布地が尻をダイレクトにすりあげてくるんだ。

「ん…やめ…い、嫌だ!」

 俺はその感触にハッと我に返ったけど、抵抗しようにも大事な息子は奴の掌の中だ。
 先走りでぬるつく指先で、こともあろうに奴は、俺の尻を弄りはじめたんだ!
 長らく、立原に見つかっちまったあの一発以外はずっと禁欲生活だった俺の若い身体は、嫌がる意思を無視して本能で喜びに震えながら、この得体の知れねー男に身体を摺り寄せている。
 満更でもねぇ…耳元で囁かれた言葉に吐き気がしたけど、俺の身体の如実な変化は誰の目にも明らかだった。やめろ!嫌だ、抵抗しろよ!俺!
 シュッシュッと扱く音を響かせて、俺のナニは限界まで膨れ上がってるってのに決定的な一撃を与えてもらえずに、切なそうに涙を零しやがる。うう…情けねぇ。

「い、挿れてやるからな。辛ぇーんだろ?」

 はあはあ言いながら、辛いのはお前だろうがよ!クソッ!
 慌てたようにズボンを引き摺り下ろしたソイツのナニが、俺の尻に擦りつけられる。先走りに濡れてぬるつく先端は、まるで焦らすように尻の際どい部分を往復するんだ。期待…なんかするわけもなく、俺は唐突に熱が冷め、恐怖に青褪めながら首を激しく左右に打ち振るって嫌がった。

「ちっ!大人しくしやがれッ!」

 バシッと尻を思い切り殴られて、俺は微かに悲鳴をあげる。
 非常灯の明りだけが頼りの暗い室内で、変態野郎の喘ぎ声とかクチュクチュと湿った音が響いていて、気持ちいいんだか恐ろしいんだか、もうよく判らない感情で俺は泣きたくなった。
 尻の敏感な部分を灼熱の先端で擦られるうちに、俺の中で奇妙な感情が生まれた。
 これはもしかしたら…けっこう気持ちよくないか?
 ああ!男って生き物は…

「…ん…あぁ」

 俺の声かよ!?…ってぐらい甘い溜め息が零れて、背後から覆い被さっている男は嬉しそうに笑った気配がする。耳の後ろを舐めながら、前に回した掌で俺の息子を強弱つけながら扱いて、空いている方の手で俺の尻に擦りつけてるモノの照準を定めているようだ。
 俺、挿れられるのかな…

「気持ちいいんだろ?お前さ、夕方見たときから狙ってたんだよなぁ」

 …と、欲情に濡れる荒い息を吐きながら、ねっとりと首筋に吸い付いてくるヤツの性急さにゾクッとした。
 や、やっぱ、嫌だ!
 そこは出るとこであって入れるところじゃねぇんだ!!
 俺が反撃しようと身体を捻った時だった。

「ヒッ!」

 身体が動いたせいですぐそこにあったヤツのモノの、その先っちょが入っちまったんだ!

「うッ!…な、なんだよ?もう、我慢できねぇのか」

 ソイツにもけっこう衝撃がきたんだろう、とっさに腰を掴んでそれ以上の侵入を食い止めた。それは俺にとってもありがたいことだったけど、結果的に自分で入れちまって、愕然としている俺の尻を揉みながら、ヤツはゆっくりと挿入を開始した。
 あ、あ…嫌なのに。嫌なのに…

「い、やだ!やめろ!入れるんじゃねぇ!!」

 まだ先っぽだってのにすげぇ痛さで、俺は涙ぐみながら暴れてやった。
 俺が喚いて暴れるもんだから、先っぽから次に進まなくて、ソイツは焦れたように俺の尻を思い切り叩きやがる。ジーンッとした痛みに、明日には真っ赤な掌の痕がついてるだろうと確信したけど、そんなことに構ってるヒマはねぇ!
 なんだってこの俺がヤローなんかに犯られなきゃならん!

「離せ!離しやがれッ!!」

「うるせぇッ!じゅうぶんソノ気だったじゃねぇか!」

 バシッともう一度、尻が叩かれて…俺は布団だとか座布団じゃねぇぞ!

「うっうっ…クソッ!」

 尻を打たれた痛みに増す身体の痛みに、俺は尻を突き上げるような形で床に押さえつけられて、ギチギチと軋む挿入部に捩じ込まれる苦痛にギュッと目を閉じた。

「男を犯るのって楽しい?」

 不意に背後にかかった声に、俺の中に何とか自分を捩じ込もうとしていた野郎の動きが、ビクッとしたように唐突に止まった。俺は、無様に野郎に尻を突き出すような形で押さえ込まれて、頭を床に押さえつけられていたから背後を振り返ることなんかできないけど、その声には覚えがある。
 近頃よく聞く声だ。
 決まって、シャカシャカと耳障りな音と一緒に。

「だ、誰だ!?」

「ただの見物人。だけど、柏木が嫌がってるから救世主」

 抑揚のない声で言ってクスッと鼻先で笑う、あの独特の無気力さがなんかいまいち頼りないんだけど、今はすっげぇそれがありがてぇ!

「た、立原…」

 苦しく息を吐き出すと、唐突に男の身体が上から退いた。
 立原がヤツの耳元に何かを呟いたら、ソイツはまだ入ったとも言えないモノを引き抜くと、慌てたようにズボンの中に仕舞いこみながら「覚えてろよ!」の捨て台詞を吐いてその部屋から転がるようにして出て行った。

「…ッ、…うう」

 緩慢な動作で軋むように上半身を起こした俺を、抑揚もなく見下ろしていた立原は暫く何かを考えているようだったけど、羞恥で俯く俺にやけにあっさりと言いやがった。

「ズボン穿いて、歩けるようになったら部屋に戻ろう。歩けなくても部屋に戻りたいならおぶってやるよ?それで、ウォークマンを聞こう。あっかるい曲」

 俺はポカンッとして立原を見上げた。
 恥ずかしいのも忘れてマジマジと見上げると、別になんの興味もなさそうな目付きのままで立原のヤツは屈みこんで俺の顔を覗き込んできた。馬鹿にしているのでも蔑んでるのでもない、かと言って哀れんでるってワケでも同情してるってワケでもねぇ、いつも通りの無表情な目付きだ。
 ポーカーフェイスって言うんだろうけど、今の俺にはホント、コイツはありがたいヤツだ。

「でも…部屋に戻るよりもここで大人しくしておいた方がいいかもね。落ち着くまで。じゃ、ウォークマン聴く?」

 いつも垂らしてる片方のイヤホンを差し出して首を傾げる立原はニコリともしない。
 だから、却って俺は噴出しちまった。
 無表情な立原は、これでも精一杯気を遣ってくれてるんだろう。それがありがたいし、もちろん無下にする気なんかねぇ。
 でも、なんかおかしかった。
 大いに笑えた。
 すげぇな、立原マジックだ。
 俺は、深く落ち込むこともなく痛む身体で立ち上がって服装を整えると、反対に立原の腕を掴んで立ち上がらせた。

「サンキューな。思ったほどは酷くねぇから、戻れるよ。ただ、ちょっと風呂に入りたいかな…」

「入る?」

 首を傾げる立原に、さすがにそこまではできんだろうと首を振った俺はニッと笑うことができた。
 引き攣らなかったのは、相手が立原だからだ。もう、恥ずかしい部分は殆ど見せたコイツがなんだかすごく身近に感じて、俺は軽口も叩けた。

「班長が規則を破っちゃマズイだろ?」

 散歩に出てたってだけでもじゅうぶん規則違反なんだけど、敢えて立原は何も言わずに気のない様子で肩を竦めただけだった。
 俺はベタベタに汚れて気持ちワリィ下半身をモジモジさせながら、溜め息をついて立原と部屋に戻った。
 幸い誰にも気付かれなかったから、俺は真夜中にこっそりトイレでパンツを穿き替えた。
 波乱に満ちた…幕開けだぜ。とほほ…
 …ああ、色んなゴタゴタで忘れてたけど、俺の部屋割りの組合せは、俺、立原、琴野原、宮本、村田の5人だ。まあ、そんなこたどうでもいいんだけどさ。
 疲れた…もう寝よう。
 初日はそんな風に、とんでもない幕開けとともに暮れていった。