カランコロンッと石畳にお約束通りの下駄の音を響かせて、クソッ!何を嬉しそうな顔をしてるんだこのデブ野郎!
湯上りの火照った肌に5月の風は心地よくて、俺はボンヤリと街灯の脇にある、下に川が流れてるから橋みたいになっているんだよな。その欄干?らしきものに凭れながら町並みを見渡していた。
それなりに由緒のある温泉町は、昼間見たときには家族連れや恋人らしき男女、俺たちみたいなグループで来てる連中でごった返してて、そんなに風情だとか趣だとか、綺麗だなんて思いもしなかったのに…なんだろう。
両脇にずらりと、洋太が言ったように街灯が並んでいて、石畳の道路を幻想的に浮かび上がらせている。
土産物屋も何時までやってるのか、軒先から洩れる明かりがどこか懐かしく感じる。
ああ、綺麗だな、この通り。
綺麗だと感じられるのは、それは、俺が洋太と2人だから…
「あ!このキーホルダー見て?オーソドックスだよねぇ」
観光地の地名とキャッチコピーが刻まれた鉄製で真ん中にちっこい砂時計の入った、温泉町に行けば必ずありそうなキーホルダーを振り回してキャラキャラと楽しそうに笑って店員に睨まれている佐渡を、小林が慌てたように何かを言って注意しているようだ。ムッとした顔をして下駄の先で向こう脛を蹴った、うっわ!
ありゃあ痛そうだ。
楽しそうだよな…あれ?なんでこんなに虚しいんだ、俺。
つーか!当たり前じゃねぇか!クソッ、何が2人だ!余計なコブが2匹もくっついてきてるんだぜ?2人なんて浮かれてるなよ俺!
そんなことに浮かれる自分が情けない。泣きそう。
もう、泣きたい。
いや、泣く。
俺の悲しげな表情にも気付かねぇであのデブ野郎は…あーあ、センスのわりぃバンダナなんか買ってら。
それと…チッ、よく見えねぇな。
俺は連中の輪に入って、来た早々から土産物なんか買う気にもなれなかったから、土産物屋の外で手持ち無沙汰にブラブラしていた。ブラブラって言っても歩き回ってるってワケじゃない、そんなことできるかよ!
洋太を待って、ただボンヤリと立ってるだけさ。
することもなくて…でも目線だけは絶対に離さない。
アイツが行く気になった時にすぐに横に並べるようにしておかないとな。
「彼女、1人?それともグループ?」
「あぁ?」
それでなくても苛々してるってのに、今時、軟派なヤツだってそんなこと言わねぇよってな台詞で誰かが声をかけてきやがった。胡乱な口調だからって気分を悪くしたって知るかっての!
大学生か、もしかしたらサラリーマンかもしれないソイツは、振り返った俺を驚いたようにマジマジと見ている。なんだよ、コイツ。失礼なヤツだなぁ。
「っと、ごめん。男の子だったのか。こんな温泉町でやたら色っぽくて綺麗で切なそうな女の子がいるなーって思ったんだけど…失礼」
言うなり、ヤツは俺が何か言おうと口を開く前に、いきなり両手でワシッと胸を揉んできやがったんだ!…って、おい。こんな薄っぺらな胸を掴んでお前、何が楽しんだ?変なヤツだ。
洋太の胸ならまだしも、アイツの胸はふっくらしててヘタな女の胸を揉むよりは気持ちいいんだ…つーか、女にだったらホントに失礼だぞ。
しかし、この俺さまが女に見えるってのか?バッカじゃねぇのか。
こいつの目はきっと卵だ。
それも温泉卵。
腐ってそう。
「あーッ!!僕の里野くんに何やってるの!?誰だよ、君!許さないッ!!」
思うさま土産物屋を物色して小さな紙袋を持った、けっきょくあのキーホルダーを買ったんだろう、なのに嬉しそうな顔もせずに酷い剣幕で走り寄って来た佐渡の、その上気した頬が人形のようなピンク色で可愛らしい顔を見て、ギョッとしたヤツは唐突に自分のしている行為が恥ずかしくなったんだろうな。慌てたように両手をパッと離した。
照れた顔は…今度は佐渡を女と勘違いしたのか?
そうそう、それが正常な反応なんだ。
「光ちゃん、大丈夫?」
こんな軟弱ヤローは2秒でマット…もとい!石畳に沈めてやれるんだが、突然後ろから腕が引っ張られて、ハッとして顔を上げたら日頃は穏やかなくせにムッとしたような表情の洋太の顔があって、すぐに俺をそのでかい背後に庇いながらズイッと前に出るとヤツを睨むもんだから、なんかそんな気になれなくなった。
だって、それどころじゃないって!
少し厚めの唇を不機嫌そうに突き出して、ムッとしてる顔の洋太…って、まさか。
まさかお前、ヤキモチか?洋太、アイツにヤキモチを妬いているのか?
俺は俄かに嬉しくなって、ドキドキしながら洋太のその顔を見上げていた。
可愛い佐渡と巨漢の洋太の双壁に立ちはだかられて、思いきり怯んだソイツは慌てたように仲間のところまで走って行っちまった。いや、ご愁傷様だがアンタには感謝だ!
洋太の知られざる嫉妬の顔を見られたからな!
そうだお前、少しは俺でハラハラしろよ。
満足でニヤニヤ笑う俺を、洋太のヤツは不機嫌そうに少し厚めの唇を尖らせて見下ろしてきた。
う、そんな顔で見られるとドキッとしちまう。
男らしい両目を細めて…睨むような熱っぽい目は…その、イロイロと想像しちまうじゃねぇか!
だって、その目は…アノ時の。
うっわ、ヤベ…勃ちそう。
ドキドキしだした胸元を押さえて、俺は洋太を見上げた。
佐渡はまだヒステリックに何か言って小林を困らせてるけど、そんなこた気にもならねぇ
男ってのは欲望のベクトルが本能に向くと、ダイレクトに下半身が変化しちまうもんなんだ。
俺は頬を湯上りってだけじゃない熱で上気させながら、掴まれた腕をそのままに、モジモジして空いている方の手で洋太の浴衣を掴んだ。
「なあ、洋太。その…戻らねぇか?」
思い切り誘ったつもりだったのに、洋太のヤツは突然ハッとしたように目を見張って俺を見下ろしてきた。
「こ、光ちゃん?もしかして、風邪を引いちゃったの!?身体が熱いよ。それとも、アイツにもっと変なこと言われたのかい?」
な、なぬ?言うに事欠いて風邪だと、この野郎…
泣きそうな顔で呆気にとられた俺は、それでも無言でその胸元に額を当てながら目を閉じた。
「光ちゃん!?」
俺のソノ気に全く気付かないこの鈍感野郎!
それが頭に来るんだ!…つーか、俺の火の粉をコイツにも被らせたい!!
「アイツに胸を揉まれたんだ…やらしくさ。感じそうだった」
つーか、感じないって。
痛いことはちょっと痛かったけど、それだけ。
ぜーんぜん、これっぽっちも何も感じませんでした。
「光ちゃん?」
ゴクッと咽喉を鳴らして俺を見下ろす洋太。
潤ませた目で俺が見上げたからだ。
欲情に濡れた目はおたがい様だ。でも、その原因が洋太だってことはナイショ。
「忘れさせろよ…」
囁くように呟くと、洋太は俺から一瞬も目をそらさずに…頷いた?
よく判らなかったけど、怒りの矛先を小林に向けている佐渡たちをその場に残して、洋太は俺の手を引くようにして2人で人込みに紛れたんだ。
□ ■ □ ■ □
人のいないところなんかなかった。でも、町には死角になる場所がけっこうあって、喧嘩慣れしている俺はそう言うところを敏感に見つけ出す特技があるんだ。大立ち回りだけが喧嘩ってワケじゃねぇ、そう言うことは頭の悪ぃ連中がするもんだ。
ああ、でも喧嘩もしておくもんだな!
「ん…」
狭い路地裏の壁を背にして、俺は洋太の首にかじり付くように腕を回してキスをしていた。
洋太の熱っぽい指先が浴衣の裾を割って、既に形を築いているそれに指を絡ませるから…それだけでもう、身体が震えてしまう。
「光ちゃん…すごい」
先走りで滑るそれを緩やかに扱きながら、洋太が耳元に熱い息と声を吹き込んできた。
「胸を揉まれたせいかも…」
溜め息のように嘘を呟いたら、洋太は途端にムッとした。
すげぇな、あの兄ちゃんにはホント、感謝だ。
洋太が俺のことで妬いてるんだぜ?それだけで身体の芯が真っ赤になりそうだ。
性急な、と言うか、少し乱暴な仕草で右足を持ち上げられて、パンツなんかっとくに下ろされて足首で蟠ってるから尻が丸見えになって…うう、ちょっと恥ずかしいかもとか思ってたら、乱暴なくせに、先走りで濡れる指先をそんなに優しく擦り付けたらお前、それだけで…
「ん…よ、洋太!」
生理的な涙を目尻から零しながらキスを強請ったら、すぐにやや厚めの唇が激しく塞いでくれる。逞しい舌が俺の舌を捉えると、積極的に煽ってくる。
ああ…いつもこんな風に俺を求めてくれたら嬉しいのに。
小さな吐息を漏らして唇を離しても、洋太は決定打をくれようとしない。
酷いヤツだ。
俺は洋太の耳元に口を寄せると、舌でそこを舐めてみた。
確かそうすると気持ちがいいんだって、何かの本で読んだことがあるからな。
はじめ舌先に苦味を感じたけどそれだけで、やりはじめると楽しいな、これ。
洋太はちょっとビクッとしたようだったけど、嫌じゃなかったんだろう、俺の中に埋めた指を器用に動かして快楽のポイントを刺激してくれる。
「んぁ…洋太、早く…こんな風に…ッ」
ちょうだい…と囁いて舌を耳の中に差し込んで動かすと、洋太は焦ったような性急な仕草で指を引き抜いたんだ。ちょっと溜め息をつくと、今度は熱い灼熱が入り口を擦ってくる。
焦ったように性急なくせに、入り口をゆっくりと擦りやがって…クソッ!それだけでイッちまったらお前を殺す!そんなことを思いながらギュッと両目を閉じて快楽の波をやり過ごしていたら…
「あ?よ、洋太…や…うぅ」
よくほぐれたソコに洋太の灼熱の一番太い部分が潜り込んできて、思わず見開いた目から涙を零して、それから俺はうっとりと快楽に酔いながヤツの肩に頬を寄せた。
両手で必死にすがり付きながら、洋太のくれる激しくて気持ちいいリズムに涙を零しながら、キスを強請って顔を上げたら、洋太の切なそうな両目とかち合った。
洋太…
「光ちゃん…ッ…気持ち、いい?」
滅多にそんなことを聞いてこないくせに…ったく。
「サイコー!…も、俺…ッ…めろめろ」
舌先で唇を舐めながらそう言ったら、はにかんだようなキスをくれた。
「よう…たは?洋太は…俺を感じてる?ちゃんと…気持ちいい?」
熱に浮かされたように潤んだ目で見上げながら肩で息をして切なそうに聞いたら、洋太はグッと強く抱きしめてくれて微かに頷いたようだった。
「うん…光ちゃんの中は熱くて…優しくて…きもちいい」
その言葉が嬉しくて泣き笑いみたいな表情になったら、洋太は貪るようなキスをくれた。舌と舌を熱く絡めて、溶けてお互いの身体に混ざり合って、そしていつかきっと一つになるんだって。絶対に無理なのに…そんな風に思えるから、俺はキスが好きだ。
洋太もそうなのか、俺がなんとなく強請ってもキスはいつだってしてくれる。
ああ…幸せだ。
あの兄ちゃんには感謝だぜ。
俺はこっそりニヤッと笑った。
身体の一番奥深い場所に灼熱の飛沫を受け止めながら、これ以上はないってぐらいの幸福に酔いしれて、俺は洋太にしがみ付きながらしてやったりと笑うんだ。
日頃は俺が誘わないとエッチしてくれない洋太の、知られざる顔が見られたんだ。
これが笑わずにいられるかってんだ。しかも、洋太はけっこう乱暴なコトが好きみたいだし…今度、嫌がるフリをしてみようかな。
もっと酷く…情熱的に抱いてくれたりして。
そんなことを考えてたら自然と顔がニヤケてくる。
うう、初めての外エッチv
サイコーだぜ!もちろんじゃねぇか。
いえーいvだ。