と言うか、都築が折角実家に来たんだから、自分の部屋を見て行けと言うんだ。
もう、悪い予感しかしない。
「…そう言えばお前さ、子どもの頃から俺のこと知ってたんだっけ」
「ああ、そうだ」
万理華さんとか陽菜子ちゃんがもうちょっと話したいと言っているのに、丸っきり無視した都築に引き摺られるようにして、何処の舞台設備だと聞きたくなる豪華な宝塚歌劇団みたいな階段を上がって2階に行くと、右手廊下を進んだ先の突き当りの左手にある扉が都築の部屋らしい。
今のマンションに越したのは大学からだそうだから、高校まで過ごしていた都築の部屋に興味がないと言えば嘘になるけど、開けてはいけない深淵の扉のようでもあると思うのは、きっと気の所為なんかじゃないと思う。
都築が開けた扉の奥に、恐る恐る足を踏み入れて…それで俺はちょっと拍子抜けしていた。
豪華なベッドや本棚、学習机がわりのディスク一式、マンションと同じく、この部屋だけで俺んちがすっぽり収まっちゃいそうな広さにはビビった。でも、中はなんにもない。
なんにもって言うのは、もちろん俺に関する何かが何もないってことなんだけど。
まあ、これだけ執着しだしたのは大学に入ってからなんだから、高校までの都築の部屋に俺に関するものがあるワケないか。あったら逆に怖いよな。
家具にしても置いてあるインテリアにしても、どれをとっても一目で高価だってことは判るけど、室内はとてもシンプルで質素だった。
そう言えば、都築のマンションも、俺に関するもの以外は特にざっくばらんで無頓着で、寂しい感じがするほど質素だったなと思い出した。
「何か飲み物を持ってこさせようか?」
「別にいいよ。それより、部屋の探検をしてもいいか?」
自分に関する不穏なブツがないと判ったら、この広い部屋を、都築の弱味が何かないか探したい!とワクワクして振り返ったら、都築のヤツはちょっと呆れたように苦笑なんかして「どうぞ」と言いやがった。
よぉーし、その余裕のツラを青くさせてやるからな!
「AVとかあるかなぁ~?リア充都築の秘密はないかな?」
ワクワクウキウキしながら部屋中をキョロキョロ見渡していると、都築は肩を竦めて「なんだそれ」と呆れたようにブツブツ言うと、本棚から何かを取り出している。
「お前、柏木とホテルに行った時も部屋中を見て回っていたな。そう言うのが楽しいのか?」
見たこともない洋書だとか経済学の蔵書が並ぶ本棚の前で、都築は大学とか会社に必要なモノなのか、何冊かの本を次々に取り出しながら最初は若干腹立たしそうだったけど、笑いを含んだ声で尋ねてきた。
「うん、楽しい。だって、都築一葉の知られざる高校生時代が何か判るかもしれないだろ?」
「なんだそれ」
判らなくていいよ、これは庶民の楽しみなんだから。
クローゼットのところに行って適当な鞄を取ってきた都築は、重そうな本を数冊それに仕舞っているけど、俺はそれを横目に折角都築が産まれてから高校までを過ごした部屋を思い切り漁ってやることにした。
「見事にモデル時代の本がない…ゲーム機もないな。でかいテレビはあるのに…なんか、思ってたのと違う」
「はあ?どう思ってたんだよ?」
「えー…都築はゲームヲタクかと思ってた」
「はは、なんだそれ」
モン狩りは最近ハマったんだとかなんとか、どうでもいい情報には耳を傾けずに、俺はウロウロしていたけど、クローゼットの横に扉があることに気づいて、あれ?こんなところにも部屋があるのかと思った。
あ、そう言えばお金持ちの部屋には物置みたいな小部屋があるって(百目木情報)言ってたから、それかもしれない。だったら、都築の知られざる幼少期の玩具とかあったりして。
俺がワクワクして扉を開いたら…固まっている俺に気づいた都築が「ああ…」と小さく声を出した。
「その部屋はお前の部屋だよ。本当はそこに閉じ込めたいんだけどさ…」
物騒な発言にグギギギ…っと首を回して都築を見ると、ヤツは見たこともないほど良い顔をして、ニッコリと笑っている。
その笑顔を見た瞬間、一歩でもこの部屋に入ったら閉じ込められると直感した。
「ふぅん、気持ち悪い部屋を作ってるんだなお前。まあ、俺には関係ないけど。ところで、もう帰っていいかな?」
「何いってんだよ!折角だから、中も見ていけよ。いや、見せたいんだ」
ガシッと都築に両肩を掴まれたら、タッパもウェイトも勝てる要素がないんだから、力だって負ける俺が嫌がってどうにか逃げ出せるレベルじゃないことは判るよね。
背後にライオンか熊並みに震えるような威圧感を醸している都築が立っていて逃げられないし、押し込まれるようにして俺は、小部屋とは言えない広さの壁中に子どもの頃から現在に至るまでの俺の写真がビッシリ貼られている不気味さしかない部屋、年代別に纏められているんだろうファイルが所狭しと陣取る本棚、大事そうにジップロックに入れられているゴミ(としか言いようのないブツ)、失くしたと思っていたらこんなところにあったのか体操服とか中学時代頃のパンツとか下着(なぜ使用済みがここに?)、あらゆる意味で怖ろしい部屋の壁に寄せられたクィーンサイズのベッドの上には最近作ったんだろう抱き枕とかクッションが置かれていて、自分のバストアップがデカデカと貼られているクッションを抱かせられて座れと言われた。
少し湿ったような匂いがする部屋はそれでも空調設備が整っているんだろう、物凄く快適だけど、ここに住みたいとは思わない。住みたいなんて思うヤツは気が狂ってるとしかいいようがない。
「ははは…ここに例のダッチワイフを置いていたのか?」
「そうだ。そうしたら万理華のヤツが属を入れやがって!…まあ、何も失くなっていなかったから許しはしたけどさ。でも、やっぱりいいな。お前がいるとこの部屋が完成したような気持ちになる」
都築は酷くご満悦でこの狂気の部屋を見渡しているけど、ベッドの頭の方に置いている机にはディスプレイとノート型のパソコンが置いてあって、そこには何故か俺の実家の部屋が映し出されていた。
中学に上がった頃から兄弟別々の部屋になって嬉しかったけど、物置を改造した部屋は狭くて、勉強机とベッドを置いたらいっぱいいっぱいの俺の城は、俺の青春時代そのものなんだけど…もちろん、シコったりしてたよね。それを赤裸々に、ここで上映されていたっていうのか?
「ああ、お前の部屋に防犯カメラを設置していたんだ。何かあったら困るからさ。暗視できるカメラだから、夜間でもしっかり確認できていた」
上映されていたんですね、判ります。
「この部屋に属や万理華が平気で入っても困るから、外から鍵が掛けられるようにしたんだ」
と言うことは、中から開けることはできないってワケか。
まるで狂ったパニックルームみたいだな…あ、アレは中からしか鍵の開閉ができないんだったっけか。
「…喉が乾いただろ?飲み物を持ってくるよ」
さっきは持ってこさせるとか言っていたくせに、自分で取りに出ようってことか?
「有難う。でも、俺をここに閉じ込めたら二度とお前と口をきかないし、キスもハグも全部拒否する」
都築の希望は自分がキスしたりハグする際に、俺が拒絶せずに大人しくされるがままになっていることだから、これを言われるとグッと言葉を飲み込んだみたいだった。
もちろん、ハグの中には背後から抱えて一緒に座ると言う行為も含まれているし、都築の背中を背凭れにすることも含まれる、つまり、今までの全部を白紙に戻して、全力で暴れて拒絶しますよと宣言しているんだ。
「だ、誰も閉じ込めるとか言ってないだろ?ただ、喉が乾いてんじゃないかって思っただけだ」
もし鍵が誤って掛かったとしても、連絡用の設備も整っているから問題ないのにとかなんとかブツブツ言いつつも動揺している都築を無視して、俺はよくもまあ、これだけの写真やブツなんかを集められたモンだと、狂気じみてはいるものの、この奇妙な情熱を変に感心してしまった。
あるところにはある金の無駄遣いだよな…とは言っても、都築にしてみたら他に趣味らしいモノもさほどないみたいだし、これぐらいはやっぱりお小遣いでどうとでもなるレベルだったんだろうか。
「…でも気になるんだけど」
「何がだよ?」
結局、閉じ込めを拒絶したら飲み物を取りに行くことは断念したらしい都築の、その判り易い反応に頭を抱えたくなりながら、俺は唇を尖らせて悪態を吐いた。
「どうして実家の俺の部屋に監視カメラが付けられているんだ?」
「防犯カメラな。お前の様子が心配だったからだ」
いや、そう言う意味じゃない。
「いつ、付けたんだよ?」
「お前が中学に入った頃だ。彼女とか作られたら全力で潰さないといけないだろ?」
いいえ、いけないことではありませんよ、都築さん。
「……俺に彼女ができたらどうするつもりだったんだ?」
なんとなく嫌な予感しかしないけど、俺は閉じ込め失敗を引き摺って若干不服そうではあるものの、自分が集めた宝物の山をまるで子どもがそうするように満足そうに見せびらかしてでもいるかのような都築に息を呑みながら聞いてみた。
「オレか属が転校して、お前の彼女を誘惑しただろうな」
「…属さんて中学から一緒だったのか?」
「いや、チビの頃からだ。幼馴染みなんだよ、アイツは」
そうだったのか…確かにあの気安さは高校からの親友には有り得ない親密さがあるもんな。チビの頃からの幼馴染みならちょっと判るか。
「ふうん。じゃあ、お前のことならなんでも知ってるんだな」
「とは限らない。お前のことは黙っていたからさ」
珍しいな。
「どうしてだよ?」
「アイツとオレのタイプがかぶるんだよ。だから黙っていた」
都築は心底嫌そうに眉根を寄せて唇を尖らせるけど…タイプがかぶるってお前。
「は?お前、俺のことは好きでもなければタイプでもないんだろ??」
「そうだけど?」
俺の指摘にもケロリとしている都築に、却って俺のほうが怪訝そうに眉を寄せて首を傾げてしまう。
「今お前、タイプがかぶるって…」
「ああ、言い方が悪かったかな。オレが興味を持つものに必ず興味を示すからさ。手を出されたら困るんだ」
なんだそんなことかとでも言いたそうな都築にあっさり否定されて、そりゃそうだよね。コイツは俺のことなんか好きでもなければタイプでもないって常に公言しているんだから、ここにきて実は…なんてことがあるワケない。
「あ、なんだそう言うことか…でもお前、この監視カメラは外せよ。今は志郎の部屋なんだから」
「防犯カメラな。この部屋は今物置になっている」
「…は?」
「だから、今は物置になっているんだよ。光瑠と志郎は実家の庭に勉強部屋としてプレハブを建てたからそっちにいるし、浩治は元の部屋にいる。だから…」
「ちょっと待て。庭にプレハブ?建てたって??」
「…………安かったから」
都築は普通に話しているつもりだったんだろう、俺の指摘にハッと琥珀のような双眸を一瞬閃かせて、それからバツが悪そうに目線を逸らすとブツブツと言葉を濁そうとしている。
そもそもどうしてお前がやたら気安げに俺の弟たちの名前を呼んでいるんだ。しかも呼び捨てで。
誰かとそんな風に気安い遣り取りをしているってことだよな??
「そう言う問題じゃないだろ?しかも、物置とか言ってるけど、俺が暮らしてた時のまんまじゃないか…お前、もしかして」
俺はひとつのことに思い至って、それがあんまり気持ち悪くて一旦言葉を切ったけど、それでもやっぱり確かめずにはいられなかったから、戦々恐々でコクリと息を呑むようにして聞いてみた。
「もしかして、俺の部屋を温存しておきたくてプレハブを建てたんじゃねえだろうな」
「…お前が大学に進学した直後に、防犯カメラの件で篠原の親父さんに会いに行ったんだよ。その時に相談したら、プレハブの設置を快諾してくれて、お前の部屋は当時のままで保存してくれるって言うから」
…気安い相手は親父だったっていうのか?!
しかも、俺の部屋に監視カメラを設置するのまで許していただと?!
「あのクソ親父ッッッ!…お前、それだけ親父と親交があったのに工場に手を出すとか酷えことしたのかよ?!」
「あれはわざとだ」
「……………は?」
なんだか聞いてはいけない言葉を聞いてしまったみたいな気持ちになったけど、俺は気持ち悪い都築の頭が本気でどうかしてしまったんじゃないかと思いながらも、呆気に取られたようにポカンっとしてしまった。
頭がどうかしてしまいそうなのは俺のほうかもしれないけど。
「あの日…前の日に篠原のお袋さんに依頼してお前に電話するように言ったんだ。実際親父さんは、普通に病院で寝ていたと思う」
「え?でも姫乃さん…」
「あれは予想外だった。ちゃんと親父さんに相談してから取引中止関連の通達をさせていた。この話に信憑性を持たせるためにな。ただ、それはあくまでも表向きなことで、裏では普通に取引はしていたんだよ。だから親父さんが慌てて取引先に行くなんてことはなかったんだ。ただ、大学とかバイトはオレに思惑があったから本当のことだったんだけど…あわよくばあのままお前が大学とバイトを辞めて路頭に迷ったら望み通りだったんだけどさ。姫乃から阻止された」
都築は最初、言い難そうにぶつぶつと言っていたけど、後半は姫乃さんの登場で思惑が外れてしまったことが腹立たしいんだとでも言いたげに、不服そうに舌打ちなんかしやがっている。
「…あの一件にそんな裏があったのか」
思わず拍子抜けして呆然と俯く俺に、都築はちょっとバツが悪そうに唇を尖らせた。
「お前、大学とバイトを辞めたら九州に帰っただろ?その帰り道で拉致…」
「聞こえない!」
不穏な台詞が飛び出しそうになったから慌てて都築を見上げて声を上げると、都築は少しホッとしたように肩を竦めている。
「仕方ないから正攻法でいくことにした。まずはオレの実家に挨拶だろ?」
「やっぱり挨拶だったのか!騙したなッ」
ギッと睨むと、都築はどこ吹く風とでも言いたそうに、腕を組むと偉そうにじっくりと俺を見下ろしながらトンチンカンなことをほざくんだ。
「騙される方が悪い。それから篠原の実家に挨拶に行く。それで結納を交わして婚約って手はずだ」
「…えーと、その情熱って何処から来てるんだ??」
もうこのまま床に滑り落ちてガックリと両手を突きつつ泣きたい。
「何いってんだ」
都築は呆れたように溜め息なんか吐きやがるけど、ここに来てからの余裕な態度にはどうしても引っ掛かるし、なんだか俺の将来はもう決定済みなんだと思いこんでいるような仕草にもムカついたから…
「親父と話しができてるんだな?」
「…」
確信を持って言うと、案の定、何時もは一瞬だって逸らさない目線を外す都築をギリギリと睨み据えながら、俺はポケットに突っ込んでいたスマホを取り出した。
「あ、親父?俺やけど…なんで電話に出ちょんの?」
コール2回で颯爽と通話する相手…親父に胡乱な声を出すと。
『おう、光太郎か。なんか知らんが都築の坊っちゃんがお詫びち言いよってな。特別室に入れちくれたんよ。特別室は携帯が持ち込めるけ、電話に出られるんよ』
意気揚々とした親父の声に若干イラッとした。
そんな俺を、都築はハラハラしたように見据えてくる。
「…親父さぁ、都築となんか話ししちょるやろーが」
『なんか、もうバレたんか。あんな、坊っちゃんがお前と仲良くしたいち言いよるけ、父ちゃんがひと肌脱いでやったんじゃら。浩治らも坊っちゃんのこつ気に入っちょるけな』
不審な俺の声に、あっけらかんとした親父の明るい声がかぶさって、俺をますますイラッとさせる。
しかもなんだと、弟たちまで手懐けてるのかよ?!
「ひと肌脱ぐな。そもそも、その仲良くちなんよ?」
『坊っちゃんに聞いちょらんのか?お前、坊っちゃんなお前んこつ好きち言いよってな。子どもん頃からずっとやけ、もう認めてやるしかねえやろーが。やけ、お前が納得するように坊っちゃんと家族で話しおう…』
ブツっと通話を切った。
最後の不穏な台詞が俺の思考回路をショートさせかかったからだ。
親父だけが都築と話してるのかと思ったら、コイツは俺以外の家族全員と交流を持ってやがったんだ…だから、弟が俺の動画や画像を送ってきたのか。
なんつーか、背筋が震えた。
「…都築さ、親父は判る。弟とも交流を持ってるとか言わないよな?」
「ラインとか電話はしてるぞ。お前のことを相談したかったし。あ、篠原のお袋さんとも話してる」
「ぐはッ!」
陽菜子ちゃんでもどうかと思ってたのに、まさかの弟たちとも相談してるとか!!
思わず吐血しそうになっている俺を、都築のヤツは怪訝そうな表情をして見据えてくるもののちょっと心配そうだ。
俺が都築のことをそれとなく話していた時、アイツ等はニヤニヤしながら聞いていたってことか…酷い。
義母さんまで何を話しているんだ。
「判った。お前が俺んちの家族と俺が知らないところですげえ仲良しだってのは理解した。でもお前さぁ、子どもの頃から俺のことが好きだったの?」
虚しい通話終了の音を響かせるスマホをポケットに仕舞ってから、溜め息を吐きながら首を左右に振って、バレてしまったと思って、だったらもういいかと開き直ったんだろう都築の熱心な双眸を見上げて聞いてみた。
囲い込んで囲い込んで…そこまでの情熱は何処から来るんだ。
俺は、それが知りたい。
「別に好きじゃない」
キッパリと言う都築の違和感にソッと眉が寄る。
「でも、親父がそう言ってるんだけど…」
「あれは…そう言ったほうが協力してくれると思ったんだよ」
「じゃあ、嘘吐いたってことだな」
「…」
グッと眉間にシワを寄せて睨み据えても都築にはイマイチ堪えていないようで、無言で肯定するその態度が癪に障った。
「そこどけよ。俺は帰る」
不意にスクッと立ち上がった俺が大柄な都築の身体を押し遣ろうとしたけど、案の定、ピクリともしないから余計に苛立たしさが募るんだ。
「はあ?!なんでだよ。まだ話しは終わってないだろ!」
俺の腕を掴む都築は、都築にとっては理想のこの気持ち悪い部屋に、大人しく俺がベッドに腰掛けていると言うシチュエーションが最高だったんだろう、なんとか元のように座らせようと試みるけど、完全に心が拒絶している俺は何時もみたいに仕方なく流されるなんてことはない。
それに話しなんてもう終わりだ。
こんなヤツと話すことなんてなにもない。
「うるせえ、離せ!俺は何が嫌いって嘘吐きが一番キライなんだよッ。騙されるヤツが悪いなんて言いやがるお前も大嫌いだッッ」
「…ッ!」
不意に都築の顔が強張った。
それまで俺が何を言っても泰然自若…と言うか寧ろ小馬鹿にしてるぐらいの態度を取っていたくせに、今の都築はこっちが驚くほど動揺しているみたいだ。
「お前の顔なんて二度と見たくない」
だからと言って俺が許せるかと言うと、珍しい表情と態度に驚きはしても、許せるはずなんかないんだから、まるで力の抜けた都築の身体を押し遣りながら狂気の小部屋を出ようとした…のに、できなかった。
電光石火みたいな速さで俺の身体を引っ掴むと、都築は俺ごとクイーンサイズのベッドに傾れ込んだんだ。
「うっぷ!…都築、離せ!離せないんなら少しでもいいから力を抜けッ、苦しい!」
バンバンっと背中を叩いてもますます力を込めて、まるで縋り付くようにして抱き締めてくるから、それまでカッカしてた感情がゆっくりと波が引くみたいに冷静になってきた。
いや、このままだと俺がヤバいだろ。
「なんだよ、急にどうしたんだよ?」
「…ごめん」
「!」
素直に謝るなんて芸当は、都築財閥のお坊ちゃまは絶対にやらないってのに、今日は都築の有り得ない態度で調子が狂いっぱなしだ。
「嘘を吐いて悪かった。そうでもしないと、お前を手に入れられないと思ったんだ」
「…いや、子どもの頃から好きって言ってるだけで、男のお前に男の俺をくれてやろうって俺んちの家族も悪い」
ホント、アイツ等はどうかしてる。
俺は若干緩んだ腕の力に溜め息を零してから、ほんの少し震えている都築の背中をポンポンッと叩いて、仕方なく宥めてやった。
「お、お前…オレのこと、き…きら、嫌いって言った。初めてだ。顔射の時も土下座の時ですら言わなかったのに…お前、オレのこと、本当に嫌いになったのか??!」
最初は動揺しすぎていたのか、要領を得ないひとみたいに吃っていたけど、話している間に冷静になったのか、さらに不安が募ったようで、直向きな縋るような目をして俺を見つめてくる。
なんだ、そんなことで動揺したのか。
「ああ、大嫌いだね」
だからって俺が労ってやると思ったら大間違いなんだからな。
フンッと鼻を鳴らして視線を外してやると、都築のヤツは愕然としたように双眸を見開いてから、それから、背中に回している腕にやっぱり力を込めたみたいだった。
「どうしたら…」
「?」
「どうしたらいいんだ?オレはお前にだけは嫌われたくない。好きになってくれとは言わないから嫌わないでくれ…」
まるで縋るようにギュウギュウと抱きしめてくる腕に眉を寄せながら、こんな風に必死になるくせに、これで俺を好きでもなければタイプでもないんだから、都築が本気で好きになったらどれぐらいの凄まじい束縛が待ち受けているのか…本気で惚れられる相手は可哀想だなぁと思っちゃったよ。
まあ、俺じゃなくて良かったけど。
「…ったく。反省してるのか?」
「してる。嘘吐いてごめん」
「じゃあ、俺の家族に嘘吐いてましたってちゃんと言えよ」
「…」
呆れながらも妥協案を出してやったってのに、不意に都築は黙り込んでしまう。
「なんだよ?ちゃんと言うんだぞ」
「…それは、できない」
いやいやするように首を左右にふる都築を怪訝そうに見上げていたけど、ははーんと閃いた俺はニヤニヤしてしまった。
「どうしてだよ?…あ、お前。正直に言うと反対されるって思ってるんだろ?」
「…」
「まあ、もしかしたら反対されるかもしれないけど。でも、ちゃんと本当のことを言えよ。好きでもタイプでもないけど、俺と一緒にいたいってさ」
だって、それが真実なんだから。
「……嫌だ」
「どうしてだよ?本当のことを言うだけだろ」
「こ、子どもの頃は本当に好きだったんだ。そう言う意味だったかどうかは判らないけど、確かに好意は持っていたから嘘じゃないだろ」
必死に言い募る都築には違和感しかないけど、別に都築家の連中にはあっさり言い切ってたくせにどうして俺んちの家族には言えないんだよ。
お前のそれは、もう一種の信念みたいなものなんだろうが。
「なんだよ、その屁理屈は。もう、仕方ないな!じゃあ、今は好きでもタイプでもないけどってちゃんと言えばいいじゃないか」
「…言わないと絶対にダメなのか?オレを嫌いなままなのか?」
言い方を変えることで妥協案を出したってのに、それでもまだグズグズと言い募る都築には呆れ果ててしまう。
「だって、もし俺とお前が添い遂げるなら、お前は俺んちの家族になるワケだろ?家族にはちゃんとお前が俺のこと好きでもなければタイプでもないけど一緒にいるんだって知っておいてほしい…って言うかお前、自分の家族にはちゃんと言ってたじゃないか」
俺の思惑としては、これで家族が激怒したり呆れたりして反対してくれることを願っているワケだから、何時もだったら口が裂けたって言わない台詞をポンポン言って都築をはめてやろうとしてるんだけど、都築のヤツは「家族になる…」とかちょっと嬉しそうに頬を緩めたけど、すぐにムッと口を引き結んでしまった。
手強いな。
「お前の家族には軽蔑されたくない」
「なんだ、ちゃんと判ってるんだな。セフレがいることもこの際だからちゃんと言うんだぞ」
「…お前は酷いやつだ」
都築だって本当はちゃんと判っているんだ。
好きでもない、タイプでもない、しかもタイプなセフレまでいる自分が俺を欲しいなんて言って、何処の親が「いいよ」って軽く下げ渡してくれるなんて思えるんだよってな。
「何が酷いんだよ?お前はそれでいいと思っているからそうしてるんだろ。俺は酷いことなんか言ってないよ」
俺は本当のことしか言ってない。
抱きついてきている都築の胸元にフンッと鼻を鳴らして、やれやれと何時ものように頬を寄せていると、欲しいものは絶対に手に入るはずの、人生順風満帆のお坊ちゃまは初めて迎えるだろう難局に頭を抱えているみたいだ。
ふん、悩め悩め。
「…かれる」
暫く逡巡していた都築は、それから不意に、なにやら閃いたみたいにハッとしてブツブツと聞き取れない声音で呟いたんだ。
「は?」
首を傾げる俺の肩を掴んでから、まるでチェシャ猫みたいにニンマリと笑いやがる。
あ、俺この顔が一番イヤなんだよね。
「セフレとは別れる。だから、これからはお前と寝る」
「はぁ?!嫌だよ!」
案の定、斜め上の思考で宣言する都築をキッパリハッキリと振ってやったんだけど、そこでめげるようなヤツは都築じゃない。
「挿入は初夜までしない。愛撫したりキスしたりフェラしたりで我慢する」
「我慢しなくていいからセフレと犯っちゃってこいよ!」
「嫌だね。お前の家族には嫌われたくない。だからセフレとは別れるし、お前を好きになる努力をする」
「しなくていいってば!」
自分勝手な思考をぶつけてくる都築から逃げ出したくて、俺は強靭な腕の囲いから身体を引き剥がそうとするんだけど時既に遅かった。
「ベッドもあるし、早速愛を深めようぜ!」
ニンマリと笑ったまま、どうやら本気の都築が俺のベルトを器用に片手で外して、引き摺り下ろそうとするからちょっと待ってくれ!
「嫌だ!判った!!もう家族に言えとか言わないから、だから…ッ」
慌てて都築の腕を止めようと片手で引き剥がしにかかるけど、そうこうしている間にもう片方の手がシャツの裾から忍び込んで乳首に触れてくる。
「オレさ、いい加減セフレと一緒にいるのも飽きてきてたんだよ。アイツ等に挿れたまんま、お前の動画観てるしさ。そうなるとお前の動画観ながらオナホで抜いてるのと変わんないだろ?だったら、もう面倒臭い連中とは別れて、お前独りでいいかなって思ったんだ」
「思うな!!」
俺の頬にチュッチュッとキスしつつ、都築は名案だ!とばかりにニヤニヤして俺の耳を噛んだり、そのまま唇を滑らせて俺が弱い首筋を舐めたりするから…
「んん…ッ」
思わず変な声が出ちまって、都築は嬉しそうにやんわりとおっきしている股間を尻に擦り付けてくる。
「もう、初夜に拘らずに今日ここで犯ろうか?お前もその気になればいいんだ」
ぐいっと下着ごと下ろされた素肌の尻のあわいに、何時の間にズボンを下ろしていたのか、都築の固くてデカイ、通常の野郎が羨ましがるレベルの勃起した逸物を直接擦り付けてきやがった。
「や、嫌だ!バカ都築ッ、離せってば!擦り付けてくんなってッ」
「このままぬるって入りそうだな?」
そんなワケあるか!そこは入り口じゃない、人体の出口なんだぞッ。
出て行っても入ることを許すわけねえだろうが…って、でもユキたちはここに都築のブツを挿れてんのか。人体の不思議…なんて言ってる場合か!
「…挿れたら本気で絶交だからな」
グスッと思わず泣きそうになっている俺が上目遣いで睨みつつ言うと、荒く息を吐いている都築はぼんやりとそんな俺を見つめていたけど、不意に視線を逸して、それからボソッと呟いたみたいだ。
その間も、先走りでぬるつく先端で俺の粘膜を捏ね繰り回してやがる。
「じゃあ、挿れなかったらオレのこと嫌いにならないか?」
「なんだよ、その交換条件…ヒッ」
思わず都築に縋り付いた俺の背中を宥めるように擦りながら、ヤツは逸物の先端をグッと押し込もうとしやがったんだ!
「オレは別に今ここでお前を犯してもいいんだぞ。責任は取るつもりだしさ。困るのはお前だけだ」
こんな身体にモノを言わせるみたいな卑怯な遣り方に思い切り睨み据えても、今の都築はどうやら無敵みたいで、それまで横抱きに抱き締めるようにしていた身体を起こすと、オレを仰向けにして、膝まで引き摺り下ろされていたズボンを邪魔臭そうに下着ごと剥ぎ取るとベッドの下に投げ捨てた。
両足を掴んでグイッと割り開かれることで下半身はスッポンポンの丸出し状態だけど、羞恥より先に都築の股間で愈々充溢しているフルおっきした逸物を見せつけられると恐怖しか感じない。
圧倒的に形勢逆転して不利な状態の俺を、都築のヤツは嬉しそうに見下ろしてきて、それから色気たっぷりに見せつけるみたいにしてペロリと上唇なんか舐めるんだ。
「オレのはさ、人一倍デカイんだよね。だから、よほど慣れていないと切れると思うぞ。でもまあいいか。処女なんだし、少しぐらいは破瓜の血が出たほうが興奮する」
そんな怖ろしいことを完璧に見惚れる満面の笑みで言われたって嬉しくない。
寧ろ、今すぐ俺を殺してくれって叫びそうになる。
「つ、都築…」
「ん?」
ニコッと余裕の笑みを浮かべて俺を見下ろしてくる悪魔に、どうしてそんな台詞を吐き出したのか判らないけど、俺はフルフルと震えながら言っていた。
「お、俺…初めてだから、優しくして…」
途端に都築の双眸がカッと見開かられて、額に血管なんか浮かべながらグイッと上体を倒して俺の顔を覗き込むなり、凶暴な目付きで睨みつけてきたんだ。
「あう!」
その拍子にぬるんっと先走りに濡れた先端が穴の縁に引っ掛かって俺を喘がせた。
「なんだよ?!男に挿れられてもいいぐらいオレが嫌いなのか?!クソッ!…言え」
俺の恐怖に怯えている双眸を真正面で睨み据えながら、都築はグイッと腰を押し込むようにして、肛門から袋の付け根に向けて逸物を滑らせると存在感を強調しながら低い声音で吐き捨てるように言う。
「言え、オレのことは嫌いじゃない…好きだって言え!さもないと、本気で突っ込むぞッ」
「や!嫌だッ、怖いッ」
「だったら言え!」
グリグリと先端で抉じ開けようとされる恐怖に、俺は目尻に涙を浮かべて首を左右に振った。
「…じゃ、ない」
「聞こえない!ハッキリ言わないと挿れるからなッ」
さらにグイッと突かれて、先走りに塗れてぬらぬらと淫らに光る肛門は、それでも大きすぎる亀頭に潜り込まれるには狭すぎるんだろう、ピリッとした痛みが走って俺を怯えさせるには十分だった。
「あう!き、嫌いじゃない!俺は都築を嫌ってないッ」
「嫌いじゃないならどう思ってるんだ?!」
都築のヤツは脅すように低い声で俺に命じる強い口調は支配者のもので、じゅぷっと大量の先走りを塗りつけるようにして刀身で肛門と袋の付け根を押し上げるように前後に揺すっている。
「あ…や、いや…いたッ…いッ……す、き、好き。俺は都築が好きだ」
時折、なんとか潜り込ませようと無理強いをするから、その度に引き攣れる痛みに首を激しく左右に振り立てながら、俺は諦めたようにポロポロと泣きながら言ってしまった。
「クッ!」
その言葉を聞いた途端、激しくなっていた前後に揺する腰が止まって、ぐぅっと膨れていた先端からびしゃっと熱い白濁を飛び散らせて、俺の恐怖に縮こまっているチンコや腹をしとどに濡らしやがった。
ハアハアと肩で息をしながら倒れ込んできた都築は、グスグスっと鼻を啜る俺に口付けてきたりするから、思わず侵入してくる舌を思い切り噛んでやろうと思ったものの、恐怖から解放されて気が抜けた無様な俺にはそんな気概も残っていなかった。
舌を絡ませて唾液を啜り合うキスをしながら、都築はうっとりと俺の萎えている白濁まみれのチンコを揉み込んでいて、最近シコっていなかったソレはアッという間にオッキしてから都築の手にピシャッと迸らせてしまった。
大人しく貪られながら射精した俺に満足したのか、都築は俺と自分の精液を俺の腹の上でぐちゃぐちゃに混ぜると、不意に太い指先にソレを絡めてから肛門に潜り込ませたんだ!
「あ!や、嫌だ…ッ?!」
何やってんだ?!と目を見開く俺を落ち着かせるようにキスしながら、潜り込ませたお互いの精液まみれの指先を奥に擦り付けてから引き抜いて、精液を絡めて突っ込み、突っ込んで奥を探っては引き抜いて精液を…ってなことを繰り返していたけどぐるりと指を回転させて、それから満足そうにゆっくりと胎内から引き抜いてくれた。
何がしたかったんだろうと涙目で唇を離す都築を見上げたけど、ヤツは何だか満足そうにニヤニヤと笑いながら前髪を掻き上げて、そのまま俺の横にゴロンッと大柄な図体を横たえた。
「お前、オレのこと好きなんだからもう嫁になるしかないな」
「巫山戯んな!ひとのこと脅して、股間にぶちまけやがってッ!し、しかも尻に指まで突っ込んで!!…絶対お前なんか好きじゃ……ッ…好きです」
好きじゃないって言ってやろうと思ったのに、グイッと横抱きにされて、何時の間にかやんわりと復活している切っ先に肛門を突かれてしまうと、俺は情けなくも言い換えるしかなかった。クッソクッソ!!
「そうそう、素直にそう言えばいいんだよ。これからも我儘言ったらお仕置きだからさ」
ニヤつくイケボな声音で言われても全然嬉しくない、却って気持ち悪い!と俺がムキッと腹立たしく背後の都築を睨もうとしたら、ヤツは俺の耳元に唇を寄せてから、「それにたった今種付けしてやったから、そのうち孕むんじゃねえか?」とか巫山戯たことを当たり前みたいに言いやがったんだ!
本当はオレのチンコを突っ込んで直接奥に種付けしたかったんだけどさ…とかワケの判らないことをほざく口を、できれば何かで縫い付けてやりたい。
「なんだよそれ?!ひとの貞操をなんだと思ってるんだよッ」
「バーカ、お前の貞操なんてオレのモノに決まってんだろ。篠原家も把握済みだしな、挨拶に行くのが楽しみだ」
「…そっか、俺がお前のモノだって自覚がないから悪いのか。だったら、都築が俺んちの家族とすげえ仲良しでも、貞操を脅かされても仕方ないんだな。絶対お前に後悔させてやる」
「クク…できるもんならやってみろよ」
チュッチュッと頬にキスしてくる都築は、口調こそ俺を思い切りバカにしまくってるってのに、その表情は蕩けてしまうほど甘ったるくて幸せそうだ。
都築のヤツは下半身マッパで、俺は下半身マッパにシャツも捲り上げられて精液まみれにされた腹とか乳首とか晒した恥ずかしい格好だってのにさ、都築は気にしている風でもなく、俺を横抱きにして頬にキスして首筋を吸ってくる。
ぴくんっと反応してしまうのは仕方ない。俺は首筋が弱いんだ。
見上げる天井には桜が舞い散るなかではにかんでいる俺の巨大なポスターが貼ってあって…ああ、忘れていたけどこの部屋って四方八方から自分が見ているんだったっけ。
ほんと、気持ち悪い部屋だな。狂気しか感じない。
コイツ、この部屋でいったい何をしているんだろうと遠い目になった。
「…お前さ、絶対この部屋でシコってただろ」
「は?当たり前だろ。未来の花嫁が声を押し殺して自分を慰めてるところとか見せつけられてみろ、自然と勃起するだろ、バカだな」
何を当然なこと言ってんだとでも言いたげな都築は、一発抜いたら眠くなったのか、フワァっと欠伸なんかかましやがる。
コイツのセフレに言わせれば、何時も1回なんかじゃ満足しなくて、何度も何度も注がれてお腹がいっぱいになるんだと、聞いてもいないのに教えてくれるヤツがいるんだけど、都築は俺にちょっかいを出す時は決まって1回で満足するよな。
まあ、俺なんて童貞だし手管なんて持ってるワケでもないしさ、何より生意気な俺をエッチで凹ませることができれば満足するんだろうから、セックスそのものには特別な意味なんてないんだろう。
それに、最後までするワケじゃないし…ハッ!こんなこと言ってたら俺が最後までしたいって言ってるような感じじゃないか?!
ヤバイヤバイ、都築には絶対に言っちゃ駄目なヤツだ。
「お前さぁ…中出しとか、本気で好きになったヤツ以外にはしちゃダメだぞ…」
フワァっと都築の欠伸と眠気が伝染ったのか、俺もムニャムニャしながらボソッと呟いたら、背後から俺を抱き締める腕にやんわりと力を込めて、都築は本格的に眠る体勢でくしゃくしゃにされてしまったシーツを引っ張り上げる。
「当たり前だ。オレが中出ししたのはお前ぐらいだ」
んん…?そう言えば、あの動画の中で突っ込んではいないものの、肛門に先端を押し付けてビュービュー出してたな。
「バカヤロウ!俺にこそ中出ししてんじゃねえよッ…あれぇ?でもだったらどうして、お前のセフレは何度も腹がいっぱいになるまで出されたとか言ったんだろ」
眠い目を擦りながら首を傾げたら、背後の都築がムスッとしたように低い声音で物騒に言いやがる。
「なんだよそれ?誰が言ったんだ。オレはお前以外にはゴムを使ってんだぞ」
「俺にも使え」
俺に厭らしいことをする時は何時もゴムをつけないもんだから、腹や胸、あと股間なんかが集中的にドロドロにされるんだよな。んで、眠気に負けるから後で乾いてゴワゴワして、それからすげえ臭えんだよ。
「嫌だね。そのうち男同士でも妊娠できるようになった時に、オレの精液に馴染んでたほうがいいだろ」
「お前、頭大丈夫か?」
一瞬、我が耳を疑ったけど、まさか都築が本気でそんな馬鹿げたことを考えてるとは思わないから、取り敢えず、都築の優秀な頭の出来を疑って、気持ち悪いヤツだと俺は欠伸を噛み殺した。
「ったく、セフレが勝手にお前に接触してんだな。注意しとかねえと」
都築は都築で、俺の発言なんかサラッと無視して、勝手に嫁認定している俺と可愛いセフレが接触するのは嫌なんだと不貞腐れてるみたいだ。
だから俺は笑ってしまった。
「はは!なんだよそれ、奥さんが可愛い愛人と鉢合わせすんのは流石に嫌なのか」
男を嫁にしようとか、常識がないお前でもさ。
「…愛人か。そっか、そうなんだよな」
冗談のつもりで笑って言ってやったってのに、都築は抱き締める腕に力を込めてから、不意に「可愛いなんて思ってない」とか「寧ろお前が可愛い」だとか「嫁だって認めるのか」とかブツブツと何か言ってるみたいだけど気持ち悪いから無視することにした。
「ふわぁ…ちょっと眠いんだけど。あとで風呂に入ってもいい?」
噛み殺せない欠伸を盛大にぶちかましてから、俺は目を擦りながら聞いてみた。
昨日から都築家にお邪魔するって言うんで緊張してたし、久し振りに抜いたから眠気マックスは仕方ないよね。
実家のお風呂は洋風と檜風呂、そして贅沢にも露天風呂まであるって都築が自慢してて、一緒に入るなら入らせてやってもいいとか、泊まらせる気満々で言ってたから、この際お泊りでもいいやって思って聞いてみたんだけど。
「おう。ちょっと眠ってから後で一緒に入ろうぜ」
「うん…そしたら頭、洗ってやるな」
案の定、一緒に入る気満々の都築にウトウトしながら呟いたら、何だか都築は嬉しそうに頷いたみたいだったけど、その時の俺は既に夢の中だった。
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●事例17.勝手に俺んちの実家と交流を持っている(しかも仲が良い)
回答:バーカ、お前の貞操なんてオレのモノに決まってんだろ。篠原家も把握済みだしな、挨拶に行くのが楽しみだ
結果と対策:そっか、俺がお前のモノだって自覚がないから悪いのか。だったら、都築が俺んちの家族とすげえ仲良しでも、貞操を脅かされても仕方ないんだな。絶対お前を後悔させてやる。