Level.11  -暴君皇子と哀れな姫君-

 身体が軋むように痛くて、俺は彷徨っていた闇の中から覚醒した…んだと思う。
 けど、どうして俺はベッドの上で寝ているんだ?
 確か、立原と山の中にいて、アイツは狼男で俺は幽霊だったはずじゃ…
 朦朧とする頭じゃ思うようにハッキリしなくて、起き上がろうとしたらズキッと痛む腰に眉が寄ってしまう。

「う、うう…」

 思わず漏れた呻き声が思った以上に掠れていて、いよいよ俺は自分の身体に何が起こったのか不安になっちまったんだ。

「…気が付いた?」

 不意に、頭上から声が降ってきて、それが誰の声なのか、確認しなくても判る辺りが聞き慣れたヤツだって判るよな。

「立原?」

 声が掠れて思うように声が出ないから少し咳払いをして、あの抑揚のない淡々とした声音の持ち主を見上げたんだ。目の周りがバリバリしていて、この感触は…そうか、俺、泣いたんだろうな。
 それもたぶん、この立原の前で!
 きっとコイツのことだ、鼻先で笑って気のない表情をして俺を馬鹿にするんだろう。

「俺…えっと、何があったんだ?」

 何か言われるよりも先に何か…と思ったのは確かで、けっこう男らしい口元の立原に口を開かせる勇気が弱虫毛虫の俺にはなかったんだ。
 ヤツはクスッと、案の定、他人を馬鹿にしたように鼻先で笑うあの独特の笑い方をして、冷たい指先を伸ばして額に触れてきた。

「良かった。熱は下がったみたい」

「熱?…俺、何かあったのか?」

 そう言えば、この腰の痛みとか、少年自然の家の安っぽい部屋から見える窓の外はもう随分と暗くなってるみたいだし…あの後の、毎年恒例だったキャンプファイアーも後回しになったんだけど、そんなものはどうなったんだろう?
 異常に頭が痛くて、なんか腰の辺りがズキズキして…頭にまるでモヤでもかかってるみたいだ。

「…柏木、覚えてないの?」

 覚えてる?
 何を?
 他の連中とかどこに行っちまったんだ?
 なんか…重要なことを忘れているような気がするんだけど…

「立原…俺、覚えてないんだ。何があったんだ?他の連中はどこに行ったんだよ?」

 ベッドに横になったままで見上げた立原の顔はいつも通り無表情だったんだけど、どこか痛そうな…と言うか、ムッとしたように唇を尖らせている、まるで駄々をこねたガキみたいな表情をしやがったんだ。

「立原?」

「…他の連中は大部屋で休んでいるよ。キャンプファイアーも恙無く終わったしね。柏木はその間、ずーっと寝てたんだ。酷くしてしまったから」

 つっけんどんに投げ槍に言う立原が、いったい何に怒っているのか理解できなくて、俺は眉間にシワを寄せながらムスッとしているヤツの胸倉を掴んで引き寄せた…けど、途端に身体の中心を貫くような激痛に飛び上がりそうになって思わず呻きながら手を離すと、立原はケロッとした表情で蹲る俺をベッドの端に腰を下ろしながら馬鹿にしたように見下ろしやがったんだ。

「大丈夫?ムリはしない方がいい。ムリヤリ貫いちゃったから、たぶんきっと、酷いことになってると思うよ」

「…へ?」

 蹲るようにシーツの下で身体を縮こまらせて見上げると、立原はこの上なく幸せそうにニッコリと笑ったんだ。それまで、あの中学の時の親善試合の開会式の時以来、立原のそんな笑顔を見たことのない俺は、突発的な笑顔にドキッとしてしまった。
 あう、なんで胸を高鳴らせてるんだよ、俺!
 いや、確かにこの笑顔に惚れたのは確かだけど…って、惚れたとか言うな。
 顔を真っ赤にして1人で焦る俺の頬を片手で包み込みながら、立原はなんとも綺麗な笑顔をしてこれ以上にない恐ろしいことを言ってくださった。

「今夜から俺だけの姫君になったんだ。ああ、良かった。今まで悪い虫に手をつけられたらどうしよう…とか悩んでたんだけど。もう、誰も手出しはできないね」

「…に、言ってるんだ?」

「何って…山の中でセックスしたじゃない。虫に刺されて大変だったけど…ああ、柏木は別のところを俺に刺されて大変だったから、きっと忘れたんだね」

 頭がスパークして、たぶんこれは、悪い冗談か悪夢なんだと思った。
 パクパク、酸素不足の金魚みたいに口をパクつかせていたら酸素供給できたのか、俺の鈍い頭が少しずつ鮮明に色付いてきたんだ。
 それで、信じたくなくて忘れていた記憶をまざまざと思い出しちまった!
 嫌だ、と喚いて抱きついたのは確かに俺だし、貫かれながらキスをせがんだのも…俺だ。
 わ、わー!!!

「なななななななな…なんてことだ!!俺、俺、お前と!?わーッ!嘘だッ、違う!」

 腰の痛みに怯みながら…つーか、腰が痛いだけでもその事実を如実に俺に思い知らせてるってのに、それでも俺は信じられなくて、恥ずかしくて、シーツを頭から被って暴れてしまった。
 でも、すぐにそのシーツは立原の思わぬ強い力で剥ぎ取られて、真っ赤で涙目になっている顔を覗き込まれてしまったんだ。

「何が違うの?」

「おおお、お前!こんなことになって、なに、平気そうな顔してんだよ!?俺たちは男同士で、お前はエイリアンでッッッ」

「…」

 支離滅裂なことを言って腕をばたつかせるその手を掴んで、立原は馬鹿みたいに間抜けなことをしやがった。
 俺の手を掴んで、案外長い睫毛を伏せながら手の甲にキスをする。
 思わず痛む上半身を起こしてポカンッとする俺に、立原は口付けながら小さく笑ったんだ。

「愛する俺の姫君。この忠誠を永遠に誓いましょう」

「な、に言ってんだよ、立原!ちっくしょう!なんだって男同士でその、え、エッチなんかしないといけないんだ!あ、愛してるなんてそんな冗談言いやがって!!俺は…俺はお前が嫌いなのに!」

 ギュッと目を閉じて、恥ずかしさやら情けなさやら、何よりも信じられなくて思わず在らぬ事を口走ってしまった…って言うか、俺は確かに最初、立原にムカツイてこの高校に入ったんだ。
 でも、立原のヤツは少しもあのキラキラ光り輝くような優等生生徒会長さまなんかじゃなくて!俺のこと…忘れてるようなヤツだったじゃねーかよ!
 なのに、何でいまさら…
 そこまで考えていたら、不意に手をギュッと掴まれたもんだから強い力に眉を寄せて両目を開いたら…立原の、それまで見たこともないような鋭い双眸に勝ち合ってしまった。思わず息を飲んだのは、その凄みが半端じゃなく強烈で、底冷えする殺気に腰が抜けそうになっちまったからだ。

「…嫌い?柏木は、俺のこと嫌いなの?」

「あ、ああ!大ッ嫌いだね!お前みたいになに考えてんのかわかんねーヤツ、大ッ嫌いだ!」

 下手な冗談で俺をからかったり、ドサクサで犯っちまうようなヤツは大ッ嫌いだ!!
 当たり前じゃねーか!そんな、凄んだって負けないからなッッッ!
 …と、面と向かって言えたんなら俺も随分と天晴れなもんだけど、最初の台詞だけで実はびびっちまって後は妄想だけが意気込んだだけで…

「うッ」

 不意に手を掴まれたまま、空いてる方の腕で頬を掴まれて、俺は全身に走る痛みに眉を寄せながら真っ向から覗き込んでくる立原の双眸を睨み返してやった。

「…ずっと好きで、大事にしてやろうって思ってたんだけどな。残念だよ、柏木。手に入らないなら、壊れちゃう?」

 そんなゾッとするような台詞を言ってのけた立原は、問答無用で俺をベッドに押し倒すように覆い被さってきながらキスしてきたんだ!

「…ん!、…ぅ…ッ、めろって!」

 そりゃあもう、全身を貫くような激痛は、実際犯られたヤツじゃなきゃ判らないほど痛いし苦しいんだ!なのに、覆い被さってくる立原の体重を押し返すことは愚か、嫌がることさえ半端じゃなくムリに近い行為なんだよぅ…
 それなのに立原のヤツは、嫌がる俺なんかお構いなしにキチンと着ていたシャツを引き千切るようにして引っぺがしながら、手当たり次第に触りまくってくるんだ。激情だとか、激しく怒ってんだな…ってことはよく判る。でもな、怒りたいのはこっちなんだぞ!
 くそぅ…俺のことなんか、俺のことなんかホントはなんにも考えてないんだっ。
 コイツは、ゾッとするけど、俺の身体だけが目当てなんだ!!
 …なんて情けないこと言ってるけど、もう、マジで勘弁して欲しい。

「…う、ひ…ッく、…うぅ~」

「…柏木?」

 不意に、室内に響く俺の押し殺した泣き声に気付いたのか、怒りに我を忘れていたような立原は唐突に動きを止めて、ボロボロ泣いてる俺を覗き込みながら首を傾げたんだ。

「お…まえ、俺を馬鹿にしてんだろ?中学の時だって俺、お前に会えた時すっげぇ嬉しくって、話せただけでホント、飛んじまうぐらい幸せだったのに!…ッ、でも、…ッく、お前…高校になってスッカリ忘れやがって!!なのに、いまさら…好きとか言うな!俺は、そんなお前は大嫌いだッ」

 両の拳で両目を覆い隠しながら、恥ずかしいのに、くそ!こんなこと言わせやがって!
 ああ、もう、そうだよ!
 俺は、ずっとお前に憧れてたんだ。
 憧れて憧れて…ずっと、好きだったのは俺のほうだ!
 ヘンなとこばっか見られて、でも、飄々としてまるで無視されて…そりゃ、偶然だってあったけど、半分ぐらいは、お前が来るの待ってて見つかるようにコソコソ画策だってしてた。お前に俺、思い出して欲しかったから…なのに。

「おま…え、ぜんぜん俺に気付かないで、最初はヘンなヤツでも見るような目で見てたくせに!す…き、好きってなんだよ!」

 グスグス鼻を啜りながら悪態をつく俺を、立原のヤツはどんな目で見ていたんだろう。
 ヤツは暫く無言だったけど、不意に俺の身体の下にムリヤリ腕を捻じ込むと、いとも簡単にヒョイッと抱き起こしやがったんだ!

「な、なにす…」

 んだ!と、思わず食って掛かりそうになった俺の顔を覗き込んできた立原の表情は、何が嬉しいのか、ニヤニヤと笑っていて、今までの無表情がまるで嘘みたいにコロコロと表情を変えていた。

「う~ッ、まえなんか!嫌いなんだからな…」

 そんな、俺好みの笑顔なんか浮かべやがって…俯いて、エグエグと涙を零しながら片手で両目を擦っていると、立原はそんな俺を覗き込んできながら、困ったようにクスッと笑ったようだった。

「柏木…ねえ?それって、俺のこと好きってことじゃないの?」

 ブンブンッと首を左右に振ってそれを否定する俺の頭を抱くようにして、立原は嬉しそうに、黒い髪に頬を寄せてきたんだ。
 んなこと、するんじゃねーよ!
 俺は、お前なんか嫌いなんだ。

「う、ぬぼれんな!お前にムカツイて入学したんだぞ!?好きなわけ…」

「でも、俺を追ってきたんでしょ?」

「うッ」

 涙でグチャグチャの顔だけども!今は無視してもらって、俺は困ったように笑っている立原の顔を凝視しながら言葉に詰まってしまった。

「~だよッ!その通りです!俺は、お前が好きだ…」

 セックスだって、したって構わないんだ。
 でも、できれば俺が立原の尻を弄りたかったんだけど…でも!立原がしたいってんなら、ホントはどっちでもよかったんだ。そんなことよりもただ、俺はコイツに思い出してもらいたかったんだ。
 中学の頃、お前にしてみたらただの親善試合の相手チームの選手に過ぎなかったんだろうけど、俺にしてみたらお前は、手の届かない高嶺の花だったんだ。誰もが憧れる名門私立の異例の生徒会長で、花が咲き綻ぶみたいな笑顔を浮かべる優しげな顔をした無敵の優等生だった立原が、俺なんかどこにでもいるヤツに声をかけてくれて…ちょっとした夢ぐらい見たってバチなんか当たらないだろ?そりゃ、そんな些細なことで覚えててもらえるなんて思ってる俺もどうかしてたけど、でも、覚えてて欲しいって願っていたんだ。好きなんて、そんな大それたことは考えていなかったけど…
 たぶん、もうずっと好きだった。

「柏木…ごめんね」

 突然謝られて、やっぱりこれは、俺を騙してみんなで笑おうとした茶番劇だったんだと思った。
 判ってる、立原と俺なんか月とスッポンに決まってる。
 でもやっぱり、それでもちょっと辛いし、傷ついてしまう…うぅ、泣きそうだ。もう、泣いてて顔がぐちゃぐちゃだけど…

「どうしようか?もう、絶対に手放せないよ。悪いのは柏木だから」

 そう言って抱き締められても、やっぱりいまいち信用できなくて、俺は立原の肩に額を擦り寄せながらボロボロと泣いてしまった。でも、それでもいいと思ったんだ。
 立原が俺を好きなら、もう覚えてないことは悲しくても、多分それは当たり前のことだから…もういいんだ。
 これから、立原が覚えていってくれるなら、俺はもう、それでいい。
 ボロボロと零れる涙が、立原のシャツにボタボタと落ちて吸い込まれていく。
 ぼんやりと涙目で見つめていたら…

「ホントはね、覚えていたよ」

 立原は暫くしてからポツンとそう言った。

「へ?」

 呆気にとられて顔を上げたら、立原はバツが悪そうな表情をして笑っていた。

「忘れるられるわけなんかないよ…あの日俺、柏木に一目惚れしちゃってね。気付いたら声をかけていたんだけど…なんて言ったらいいのか判らなくて、思わず在り来たりなことを言ってしまったよ。それで随分と後悔したんだけど…違う中学だし、もう2度とは逢えないだろうってずっと思ってたんだ。でも、柏木が突然、入学式のあの日に目の前に現れるから…ビックリして。忘れた、その、フリをしたんだ」

 立原は言おうかどうしようか迷ってるようだったけど、俺の不安そうな顔に気付いたのか、鼻の小脇を掻きながらポツポツと語りだした。

「ちょっとムシャクシャしたことがあって、当時俺は、優等生でいることが嫌になったんだ。校則で禁じられているウォークマンをして、できるだけ他人の話は聞かないようにしていた。それが、中学3年の頃で…まさか高校で柏木に出会えるなんて思ってもいなかったから。俺は、自分のそんな姿を柏木に見せたくなかった」

 どうして?…とか、聞けなかった。
 なんとなく、その理由が判るからだ。
 俺だって、私立璃紅堂学院の校門を潜るとき、ちょっとした心構えのようなものをしたもんな。
 桜が満開で、夢みたいに綺麗な校門を潜った先に絶対いるに違いない憧れの生徒会長。その学校に受かったこともすっげぇ嬉しかったのに、その先にいるはずの憧れの人に会うために…俺だって教養とか頑張って覚えたんだぜ?なけなしの知恵を振り絞ってさ!
 …全く、役に立たなかったけど。
 たぶん同じことを、立原も思ってくれていたのかな? 

「きっと君は、俺を優等生然とした生徒会長さまだって思ってるに違いなかったからね。こんなボーッとした姿を見たら、嫌われるんじゃないかって…その、不安だった」

「…驚きはしたけど、俺は忘れられてることの方がすごいショックだった」

「逆効果だったってワケか」

 俺の言葉を聞いた立原は小さく笑ってポツリと呟くと、えへへと笑う俺の額に自分の額を擦りつけるようにして摺り寄せてきたんだ。

「でも、こんな俺でも好きなんでしょ?」

「う~、まあ!100歩譲ってな」

「え?」

 ギクッとしたような顔をして両目を見開いた立原だったけど、すぐに意地悪そうに双眸を細めてニヤッと笑うから、今度は俺の方がギクッとしてしまう。立原は意地悪なヤツだ。

「エイリアンなんでしょ?だったら柏木の思惑なんかどうでもいいってことで」

「はあ?それって横暴…」

「しー」

 クスクス笑って、立原はキスしてきた。
 コイツとはここに来てたくさんキスをした。
 でも、今日のこの時ほど最高な気分のキスは初めてだ。
 あの立原がこの俺を好きなんだぜ?信じられるかよ、まるで夢でも見てるみたいだ…
 今はまだそんな風にしか考えられないんだけど、きっと明日になったらもっと実感として感じて、もっともっと傍にいたいと思うようになるんだろうな。そしてそれよりももっと明日になったら、それは現実になって俺の身体に浸透していくんだろう。
 エイリアン立原が身体中に溢れるってのもなんだかな、と思うけど、俺はたぶん、優等生の立原もモチロン好きだけど…
 この、何を考えてるのかいまいちよく判らないエイリアンみたいな立原のことを、たぶんきっと、初めて会ったあの時よりも、ずっと好きになっていると思う。
 俺は立原が好きだよ。
 思ったよりもかさついた唇が触れると、まるで電流でも流れたように全身がビリビリする。
 舌がゆっくりと歯列を割って潜り込んでくると、おっかなびっくりで戸惑っている俺の舌を探り当てて、キスをもっと深く印象付けていくようだった。
 うっとりとした初めての深いキスに俺が酔っていると、濡れた唇を離した立原は満足そうに笑って…想いが通じ合えた最初の言葉を、開口一番でこう言ったんだ。

「柏木はホントに俺のモノになってしまったね。これから問答無用で可愛がるけど、逆らうことはモチロン、許さない」

 ニッコリ笑われて、俺は思わずポカンとしてしまった。
 それから、思い切り溜め息をついて立原の胸元に軽く額を押し当てたんだ。

「お前って…やっぱ俺さまなヤツなのな」

 なんとなくはそう思ってたんだ。
 宮本も琴野原も逆らわないし、なんか、みんな一目…当たり前だけど置いてるみたいだったし…グレたって平然としてられるのはやっぱ、性格が俺さまNo.1野郎だったんだろう。
 はあ、俺ってとんでもないヤツに惚れたし、惚れられたのかな?
 でもそれは、望むところってことで。

「さあ、どうかな?」

 そう言ってクスクス笑う立原に、俺は、俺も、自然と気付いたら笑っていた。

「…今度は、優しくしてくれよなー」

 笑いながらも俺が拗ねたように唇を尖らせて悪態をついてみたら、立原は…少し驚いたような顔をしたけれど、クスクスと笑って頬にキスをしてくれたんだ。

「もちろん、今度は一緒に天国にいこう」

「…………バーカ」

 顔を真っ赤にして言う台詞でもないんだけど…それでも、俺は嬉しかった。
 これからきっと、まだたくさん、色んなことが起こるんだと思う。
 でも、そのどの時でも、こんなにすげぇヤツをゲットできたんだから、俺は腕の中にいるエイリアンを大事にしていくんだろうなと思う。
 立原も、そう思っていてくれたらいいな。
 そうしたらきっと、最高にいい気分になれると思う。
 たぶんきっと、今以上に!
 大切な人とするキスは、幸せな涙の味がした。
 俺たちはこれから、きっともっと幸せになるんだ。
 それが俺の希望だ。