Level.6  -冷血野郎にご用心-

 「う…あ、…んぅ…ッ…あぁ」

 甲斐の部屋は閑散としているせいかやたらと声が反響して、自分の上げる、顔を覆いたくなるような甘い嬌声が響き渡っている。
 背後から抱きすくめられて、今では前で縛られている拳を握る指を噛みながら、声を殺そうとする俺からその手を取り上げた甲斐のヤツは、うっすらと血が滲んだ歯形のついているその部分に口付けた。

「ねえ、気持ちいい?」

 うっとりと囁いてくる甲斐の吐息を耳元に感じながら、俺は躊躇いもなく頷いた。
 ブンブンッと首を縦に振って喘ぐ俺を見て満足そうにクスッと笑う甲斐のヤツは、約束通り、けしてエッチをしようとはしない。指先で、唇で、言葉で俺を犯すんだ。
 背後から伸びた繊細そうな長い指先で、さっきから弄られて物欲しそうに涎を垂らす俺自身を絡め取りながらクスクスと笑う甲斐を、俺は肩越しから恨めしそうに睨みつけることぐらいしか反逆の方法を知らない。もっとも、顔を真っ赤にして下半身まる裸で凄むことが反逆って言うのなら、の話だけどさ。

「あッ、あぁ……ぉねがい…もぅ…ッ」

 淫猥と言う言葉がいちばん似合う水音を響かせて、弄っている長い指先に先走りで濡れる下半身を擦り付けるようにして哀願する俺に、甲斐は首筋に口付けながらソコに歯を立てた。

「っう…んん」

「ダメだよ。これはお仕置きだから。結城くんが独りで気持ちよくなったらお仕置きにならないでしょ」

 やけに甘ったるい、唆すような口調で囁いてくる甲斐が仕掛ける底の見えない罠に、俺は自分から飛び込むことを選ぶ。好きだ、好きだよ…甲斐。
 熱に浮かされたように潤んだ双眸を、俺は満足してうっとりと閉じる。

「ん…じゃ、…ッ…いっしょに……おねがい」

 息も絶え絶えに甲斐の柔らかな髪に頬をすり寄せながら溜め息をついても、ヤツは鼻先で笑うだけでいちばん欲しいものはくれようとしないんだ。

「挿れてあげてもいいけど。誰がコレをつけた?答えるなら、ご褒美をあげるよ」

 誘うように、悪魔の甘い誘惑で耳朶を軽くあま噛みする甲斐の言葉にゾクゾクしながら、ここで口を割ってしまったら甲斐に嫌われてしまうんだと訴えている本能が口を噤ませようとする。ああ、でも俺の意気地のない精神はうっとりと口を開きそうになるんだ。
 いかん!
 そこでようやく正気に戻った俺はハッとして口を噤むと、火照らせた頬に苦痛の表情を浮かべて小さくイヤイヤするように首を左右に振った。

「強情だね。僕の玩具のくせに」

 双眸を冷たく細めた気配にハッとした時にはもう遅いんだ。

「ぐ…ッぅあ!!」

 それまでやんわりと握って弄んでいた甲斐の繊細そうな指先が、どこからそんな力が出るんだと言うほどの力強さで握り締めてきたんだ!いてぇ!冗談じゃなくッ!
 欲情に濡れていた双眸は一気に見開いて、痛みで浮かんだ涙がポロッと頬を零れ落ちていく。
 握り潰されると言う恐怖と、爪先にある凶器の気配に快感なんかアッと言う間に萎えてしまった。

「痛い?」

 まるで人形でも見るような冷めた双眸で背後から覗き込んできた甲斐は、思い切り暴れようとする俺を押さえ込みながら鼻先で馬鹿にしたように笑いやがる。

「…たいっ!痛いよ!!」

 快感のソレから一転して涙に潤んだ目で睨み返すと、甲斐のヤツは興味もなさそうにもう少し力を込めて握りこんでくる。このままあと少し力を入れられたら…俺のソコは潰れるだろう。
 悲鳴をあげる大事な部分に、俺はもう少しで失神しそうになる。

「おかしいな、玩具は痛いなんて言わないよ」

 脳天をかち割るような痛みで指先は冷たく萎え、ブルブルと震える内股をゆっくりと空いている方の腕で擦りながら、甲斐のヤツは摺り寄せるように硬いジーンズに覆われた下半身を無防備に晒された素肌の尻に押し付けてくる。

「そうだ、このまま突っ込んでみようかな?締まりすぎて、僕のモノが食い千切られちゃうかもしれないけどね」

「あ、あ…やめ。…ぉねがいッ……だから…」

 反響する室内にジッパーの下りる無機質な音。
 まだ、潤ってないし、開かされてもないって言うのに…あんなでけぇモンを捩じ込まれたら死んじまう!
 以前の時よりも酷い。
 こんなのは酷い。
 握り潰される恐怖に怖気づいているのに、濡れてもいない尻に捩じ込まれる苦痛が相乗効果で、俺は身も蓋もなく泣き喚きながら逃げようとバカ力を発揮した…にも関わらず、甲斐のバカ力は必死の俺をさらに凌駕した。
 コイツ…ぜってぇ人間じゃねぇ!

「ぐ…ぎぃ…ッあああああああ!!!」

 潤ってもいないし、慣らされてもいない。アソコは力の限りで握り潰されそうになって、尻には灼熱に焼け付いた杭を捩じ込まれ…
 ボタボタ…ッと音を立ててフローリングの床に鮮血が零れ落ちた。
 断続的に断末魔のような悲鳴をあげる俺の口を煩そうに片手で覆った甲斐は、問答無用で腰を突き進めてくる。まるで、壊れても別に構わないんだとでも言うように。

「…ふ…ぐぅ…ぅぅ…」

 悲鳴は全て甲斐の手の中に吸収されて、俺は壊れた人形のように、もう何もできずに揺すられていた。
 ただ、悲鳴だけがときおり思い出したように甲斐の掌に零れ落ちる。

「気持ちいい?」

 クスクスと笑いながら覗き込んでくる甲斐が俺の頬に流れる涙に口付けながら、そんな恐ろしいことを聞いて来た。霞む目でハンサムな双眸を見返してみても、別に甲斐の瞳の中に狂気の陰を見つけることはできなかった。
 それでも、慣らされた身体ってのは現金なもので、何かのついでのように萎えてしまったモノを擦り上げられると、途端に痛みを快楽にすり替えようとするんだ。
 強引に突っ込まれて悲鳴を上げたアソコは切れて、真っ赤な血を流しながらもうやめてくれと哀願しているのに、身体の奥ではもっと…と貪欲にねだる何かが蹲っているんだ。

「感じてきたみたいだ。良かったね。腰を振れよ」

 グイッといちばん感じるところを灼熱の杭で突き上げられて、俺はもう嬉しさに涙を零しながら言われるままに腰を振った。

「気持ちいいでしょ?」

 さらに問われて、いつの間にか口許から離れた手が胸元の飾りに這い回り、空いた手では俺自身を無造作に、乱暴に扱き上げる。
 俺は口許から唾液を零しながら何度も頷いて、甲斐の下半身に尻を擦り付けた。
 鮮血が切れた場所からもう少し溢れて、スムーズに出入りしている。

「んあ…はぅ…ん」

 現金な俺よ!…ああ、でもやっぱり嬉しい。
 甲斐に抱かれると、どんな酷いことをされても幸せなんだ。
 きっと明日は足腰が立たなくなって起き上がれもしないだろうけど、俺は甲斐が与えてくれるこの快楽を、いつもとある感情にすり替えて考える。そうすると今よりももっと感じて、もうどうにでもなれって思えるから。
 この瞬間だけが、甲斐を独占できる。俺だけを見て、俺だけを貪ってくれる。
 愛されてる…って思ってしまう一瞬だ。
 イく瞬間が近付いて、俺は背後から抱き締めるように覆い被さっている甲斐が、無理に首を上向かせてキスしようとするのに応えながら、幸せに目を閉じた。
 ああ、好きだ。
 好きだよ、甲斐…

「くっ」

 小さく呟くように溜め息をついてギュッと抱き締めてくる甲斐のその灼熱から迸った白濁が、熱い本流となって最奥に叩きつけられた。ソレを感じてゾクゾクした俺も痛めつけられた股間のモノから熱い飛沫を噴き上げる。
 最高に感じられる瞬間。
 俺がいちばん好きな…