5.泊まりに行って風呂に入ったら顔射される(逃げ出しても回り込まれてしまう)  -俺の友達が凄まじいヤンツンデレで困っている件-

 都築はそれでも今まで遠慮はしていたようで、ソフレになるって決めてから大っぴらに抱き着いて眠るようになった。前までは後ろからこっそりと抱き着いている感じだったのに、今では後ろからでも正面からでも抱き着きまくる。
 とは言え、やっぱり後ろから抱き着くのが一番落ち着くのか、俺をすっぽりと包み込んでから安心したように眠る…んだけども、都築んちに泊まった翌朝、目が覚めたらほぼフルおっきしてる朝立ちをゴリゴリと押し付けられるのは何時ものことだけど、それに足が絡まるが追加要素として導入されたみたいだ。正直、完全に身動きできない。
 このソフレってのは男女間で行われるらしいんだけど、みんなよく平気でこんなことできるよな。同性同士ってなら、若干朝の生理現象を除けば許せる範囲だけど、俺が女で都築にこんなことされてたら、間違いなくレイプされるんじゃないかって一晩中眠るどころの問題じゃない恐慌状態になると思うんだけどなぁ。
 それはやっぱ、都築みたいな性欲魔人のうえ無節操なヤツだから感じることであって、他のヤツだと大丈夫なんだろうか。女の子はいいとしても、野郎は朝の生理現象をどうしてカバーしてるんだろう?
 もしかして、ソフレってこんな風に抱き着いて眠らないのか??
 女の子も朝のメイクなしの顔を見られるのは大丈夫なんだろうか…友達だからいいのか。
 まるで絡みつくみたいにぴったりと身体を寄せて、何処にも隙間がないんじゃないかと言うほど都築の体温に包まれた気持ち悪い朝を迎えた俺は、目が覚めても身動き取れずトイレにも行けない状態に激しく困惑しながらも、そんなどうでもいいことをぼんやり考えていた。
 都築とエッチしている連中はこんなに苦しく拘束されて目覚める朝に耐えられているんだろうか…耐えられているから続いてるのか。俺だったら遠慮したい。
 まさかここまで強く拘束されるとか思ってもみなかったから、今更ながら都築とソフレになったことを後悔し始めていた。

「…起きたのか?」

 俺の溜め息に反応したのか、寝汚い都築は身動ぎしてキツく俺を抱き締めると、「んーっ」と掠れた声で伸びをしてから、俺を抱え直すようにして抱き着きながら欠伸混じりに聞いてきた。
 離してはくれないのか。

「都築、俺、トイレ行きたい」

「んー?うん…ここでしたらいい」

 むにゃっとワケの判らないことを呟いているところを見ると、どうやら掠れていても覚醒しているように感じたのは気の所為で、思い切り寝惚けているみたいだ。
 まさかとは思うけど、そう言う羞恥プレイとかこの部屋でしたことがあるんじゃないだろうな…都築なら有り得そうだから気持ち悪い。
 やれやれと溜め息を吐いてから首を巡らせて室内を見渡してみた。
 ハウスキーパーに毎日掃除をさせている部屋は綺麗で、厚めの遮光カーテンの隙間から零れる朝陽に浮かぶ室内は広くて、邪魔にならない機能美を備えた家具のデザインと配置は、日頃だらしない都築にしてはセンスがあってお洒落だと思う。
 清々しい朝っぱらから嫌な予感を思い付かせる台詞を吐く背後の男に、軽い肘鉄を食らわせて呻かせると、怯んだ隙きにさっさと身体を離してベッドからサクッと降りてトイレに向かった。
 夜見た時はキングサイズだと思っていたベッドはそれよりもっと大きいようで、そのベッドを置いていても広いスペースがある、もしかしたら俺の部屋がこの主寝室だけでまるっと収まるんじゃないかと思える室内には、ウォークインクローゼットと主寝室用のシャワーブース、それからトイレが併設されているから凄い。
 廊下に出なくてもここだけで身支度は完了できるって仕組みだ。下手なワンルームマンションみたいだな。
 感心しながら用を足して戻ると、都築のヤツが呻きながら両手で頭を抱えるようにして、ベッドの上で胡座を掻いている。
 そんなに肘鉄が痛かったか…と言うとそう言うワケじゃないらしく、低血圧らしい頭痛に顔を顰めて呻いているだけらしい。

「お前、相変わらず起きるのが早いな。まだ6時過ぎだぞ」

 ヘッドボードに作られた棚の上に無造作に投げ出していた、数百万はする腕時計を無造作に掴んで時刻を見ると、青褪めたまま顔を顰めて首を左右に振っている。

「何時もならこの時間から弁当を作るんだよ」

「…今日は休みだ」

 恨めしそうに俺を睨み据えて言う都築に、俺は思わず噴き出してしまった。
 そんなに眠いもんかな。

「判ってる。でも、もう癖になっちゃってるからさ」

「じゃあ、もう少し眠ろう。来い」

 来い来いと両手を差し出されれば、ソフレになると約束した舌の根も乾かないうちに嫌だと言うワケにもいかないし、俺は不承不承頷きながら、キングサイズよりももっと広いベッドにもそもそと上がって、都築が差し出す腕の中におさまってやった。
 そうすると漸く都築はホッとするのか、俺を抱き締めたままもう一度ベッドにダイブすると、すぐにスースーと寝息が聞こえ始めた。
 俺は一度起きるとなかなか二度寝ができない質だから、仕方なし、目の前の温かい大きな壁を見据えて今朝の朝食はどうするんだろうとか、そんなどうでもいいことを考えながら遅々として進まない時間を過ごしていた。
 …都築を起こしてから1時間ほどした頃、誰かが主寝室と隣りにあるベッドルームを繋ぐ廊下に入って来たみたいだ。
 完全防音の室内だから気配を感じる筈はないのに…と首だけを起こしてドアの方を見たら、ほんの僅かに扉が開いていて、気配の人物が開けたんだろうと言うことは判った。
 入って来ないと言うことは都築の身内だとかセフレだとか恋人ではないんだろうな。
 あ、それとも都築が俺なんか抱き締めて寝てるもんだから、セフレだって勘違いして入って来れなかったんじゃないのか?!
 熟睡すると都築は腕の力が緩む、とは言え、意識がないからその腕は力が抜けて重くなっているので十分重しにはなるワケだけど、完全に覚醒している男の俺ならその下から抜け出すのは一苦労でも無理な話ってことでもない。なので、うんしょと腕を持ち上げてのそのそとその下から這い出ると、今度は都築を起こさないようにソッとベッドから降りて主寝室を後にした。
 今回は足が絡んでいなかったから抜け出せたけど、べったり纏わり付かれていたら今も抜け出せてなかっただろうなあ…とどうでもいいことを考えながら、お泊りセットで持って来ていたジャージの上下の俺には不似合いな広い廊下で一旦立ち止まってみたけど、どうやら廊下にもトイレにももう1つのベッドルームにも、もう誰の姿もないようだった。 この家ってトイレが3つもあるから凄いよな。
 主寝室に1つ、主寝室と同じ空間にあるベッドルーム用のトイレが廊下に1つ、それから玄関に続くドアを開けて出たところに1つ。つまり、それほど親しくない客用って言うか、プライベートエリアに入って欲しくない、もしくは入る必要がない連中は、この玄関の横にあるトイレで済ませろってことなんだろうな。
 お金持ちの家って凄いけど、よく考えられているな。
 まあ、俺みたいな庶民の実家にはプライベートエリアも応接も全部リビングだから、トイレだって共同が当たり前だけどさ。同じマンションでもワンルームだとプライベートもクソもないけどな。だから都築に我が物顔で占拠されても追い出さない限りは逃げ出す場所がないってワケだ。
 でも、最近はトイレが2つってのも当たり前になってるから、お金持ちはこれくらいじゃないと駄目なんだろうな。しかも都築んちのトイレって、自動で蓋が開いて自動で流れるんだぜ。最初はビックリしたけど、手を触れずに全部できるから、清潔感はあるよね。
 そんな夢みたいなトイレのことで頭を埋めながら、俺は玄関に続くドアを開いた。
 そして、開いた先にユキと呼ばれた都築の彼氏とはまた違った、ハッと目が醒めるような綺麗な男がエプロン姿で立っていた。
 相手も驚いたようにあたふたと手にしている掃除道具を壁側に寄せて、それから薄っすらと頬を桃色に染めながら控え目に笑ったみたいだった。何から何まで、どの動作をとっても見ても無駄がないのに騒がしくもない。
 俺とまるきり正反対の雰囲気だなと思った。
 第一印象は控え目な美人だ。

「初めまして。ハウスキーパーの塚森と申します」

 そう言えば都築が通いのハウスキーパーがいるって言ってたけど、こんな美人なハウスキーパーがいるんなら、俺なんか雇う必要はないんじゃないか。いや、男だけど。
 あ、きっとアレか。さすがに働いている人に手は出せないから、添い寝のメリットで俺を雇いたいのかな?

「俺、別に都築の恋人とかじゃないので、掃除とか必要ならチャッチャとやっちゃってください」

 そう言ってから塚森さんが目を瞠ったので、あ、アイツが男もいけるバイ野郎ってことは言われてないのかな。言われてるんだったらこれだけの美人なら警戒するだろうから、しまった、都築の秘密を一方的に暴露しちゃったかもしれない。
 うう、後で謝罪しろって言われそう。その内容が怖い。

「そうだったんですか…一緒にいらっしゃる方がいない場合は私が起こしに行かないといけないので、すみません、寝室を覗いてしまいました」

「あ、そうだったんですか!アイツ、たぶんまだ寝てると思うので起こしに行っていいですよ」

「あ、でも…」

 不意に桃色だった頬が朱色に染まり、何をそんなに照れているんだろうと首を傾げたところで、背後から大柄な男がガバッと抱き着いてきた。

「…何時も独りで起きるよな。お前が起きる時はオレも起こせ」

 理不尽な悪態をぶうぶう言う都築の寝惚け声に呆れていたら、頬を朱色に染めた塚森さんが恭しく都築に向かってペコリと頭を下げた。

「おはようございます、一葉様」

「塚森か。来い」

 片手で俺の肩を抱いたまま、塚森さんに気付いた都築が片手を振った。
 一瞬、嬉しそうに双眸を瞬かせた塚森さんは、でもすぐに俺の存在に気付いて躊躇ったように二の足を踏んでいる。

「コイツのことは気にしなくていい。早く来い。目が覚めない」

 その台詞で嫌な予感がしたから、俺は極力見えないように目線をずらして…と言うか、顔を背けて何かするなら早くやっちゃってくださいと心の中で願った。俺のことを気にしないでいいなら、まずはこの手を離そうか。それで、俺がリビングに入るなりしたらおっ始めてくれないかな。
 そんなことを考えていたら、すぐ耳許で濡れたような湿った質感の音がちゅ、くちゅ…っと聞こえてきた。
 やっぱ、チュウしてんのか。横で。
 見なきゃいいのにチラッと気持ち悪いモノ見たさで視線をくれると、塚森の綺麗な横顔に覆い被さるようにして大柄の獣が喰らいついている…そんな錯覚を見せるワイルドなキスにやっぱり気持ち悪いと思った。
 男女でも十分気になるって言うのに、男同士って偏見は持ってないけど、節操なく他人の横でどうこうしてるコイツ等は本当に気持ちが悪い。
 ふと、塚森とのキスに夢中になったのか、都築の腕の力が弱まったのを感じて、俺はその隙きを見逃さないようにして腕から逃げ出すと、そのまま2人を放置してリビングに飛び込んだ。

「篠原!」

 バタンと閉じた扉の向こうで都築の声がしたけど聞かない。
 思う様、玄関先で俺抜きで貪り合ってください。
 勝手知らない他所様の家だし、勝手にキッチンに行って冷蔵庫を漁って水を貰うとか失礼かな…あ、あの綺麗なハウスキーパーさんが冷蔵庫の中身を補充してたのか。キッチン周りもきちんと整頓されていて、使い心地がよかったよね。
 そんなことを考えながら入って来た勢いでソファに向かおうとしたんだけど、すぐにドアが開いて都築が俺を追っ掛けて来た。

「や、存分にキスしてきてください。俺抜きでお願いします」

 うんざりして変な敬語を使う俺を不機嫌そうに見ながら、イヤイヤしてんのに都築のヤツが腕を掴んで引き寄せようとするから、足を出してゲシゲシと蹴ってやった。
 都築の後を追うようにして入って来た塚森さんは、ディープキスの余韻で目尻を色っぽく染めて、それから濡れ光る唇をぺろりと舐めながら都築の背中を期待したように見ているみたいだ。
 なんか判った。コイツ等もできてるんだ。
 そりゃそうだよな。天下の性欲魔人がこんな綺麗な人に手を出さないワケがない。もしかしたら、この人も容姿で選ばれて都築んちのハウスキーパーになってるのかもしれないし。
 うわ、爛れてる。一刻も早くこんなところからはおさらばしたい。

「塚森は朝立ちの処理をするヤツなんだよ。何時もは寝たヤツにさせるんだけど、なかなか穴の締りが悪くないから独りの時は使ってる」

 人間を道具みたいに言う都築も都築だが、その台詞に頬を赤らめながらも、うっとりと見つめている塚森さんも塚森さんだ。俺の許容範囲を超えてる。
 朝立ちなんてただの生理現象で、そのままにしてたって自然と萎むだろ。

「だったら今からお願いすればいいだろ?俺は帰るから」

 都築の腕から逃れながら、昨日ソファに置きっぱなしにしていたデイバッグを引っ掴み、きちんと畳んでいたシャツとジーンズを持って着替えに行こうとする俺に、都築はしつこく追い縋って結局力の差で負けた俺が抱き竦められちまう。クソ。

「なに言ってるんだ!今夜はバイトも休みだろ。今日は1日、うちにいるんだ」

「はあ?そんな約束してないだろッ」

 不機嫌と言うよりは怒っている都築の顔を、俺だってぷりぷり怒ってんだぞと見上げる格好が癪に障るけど、ジトッと睨み据えて言い返すと、ヤツはフンッと鼻を鳴らして言いやがるのだ。

「オレがうちに来いと言ったらそういうことなんだよ。確認しなかったお前が悪い」

 ホント、御曹司とかじゃなかったら人格破綻者だってレッテル貼られまくるようなヤツだよな、都築って。思い切り、お子様の言い訳じゃねえか。

「お前のことなんて知るかよ。俺は帰るんだッ」

 両手を突っ張って都築の抱擁から逃れようとする俺を、塚森さんは不思議そうに見つめてくる。おおかた、どうして素敵な都築さんから、あんなに必死で逃げようとするんだろうとでも、そのお目出度い思考で考えてくれてるんだろうな。

「まだ一緒に風呂だって入ってないんだぞ。何時も朝飯喰って大学行くからってそこで追い出されるんだ。続きがあってもいいはずだ」

 何を言ってるんだ、お前は。

「一緒に風呂は入らないって言ったはずだ」

「ソフレなんだから風呂も一緒に入るべきだ」

「何いってんだ、ソフレは添い寝するだけだろ」

「オレのソフレはそうじゃない。風呂に入るところまでがワンセットだ!」

 …。
 ……。
 だったら、ソフレなんかになるかよ。

「じゃあ、お前のソフレにはならない」

「駄目だね。もう言質は取った。一度了承したのはお前なのに、撤回するとか男らしくないにも程があるぞ」

 理不尽だ。もの凄く理不尽だと思う。
 でもこんな節操なしのだらしないヤツから、男らしくないとか言われたら我慢ならない。最初に条件を聞いておけば良かったんだ。畜生ッ。

「…判った。ソフレは辞めない。でも、風呂は一緒に入らない」

 一瞬勝ち誇ったような顔をした都築は、すぐに胡乱げな双眸になって、唇を尖らせる俺を覗き込んできた。

「どうしても嫌なのか」

「どうしても嫌だ。都築だってこんな綺麗なハウスキーパーさんがいるんだから、一緒に入ってもらえばいいじゃないか。ソフレも彼に頼めばいいんだ」

 ついでにハウスキーパーも俺なんか誘う必要ないだろう…とまでは言えなかった。背後に嬉しそうな塚森さんを従えたまま、都築がこれ以上ない怒りのオーラを纏ったからだ。
 一度も殴られるとか乱暴されたこととかないんだけど、そのドライアイスを何重にも冷やしたような凍てつく雰囲気を、サラッと笑って過ごせるほどヤワなハートは強くないんだよ。

「…判った。オレはこれから塚森と寝るから、お前は風呂に入れ」

 俺をぎゅうぎゅう抱き締めている間、確かに勃起したまんまだったから辛いんだろう。俺が風呂に入っている間にコトを終わらせてくれてるなら有り難いし、都築家の風呂ってどれだけ広いか見てみたいって言う誘惑が、俺の警戒心を弱めたんだと思う。
 だって都築なんだから、美味しい塚森さんみたいな美人の獲物が目の前にいて、どうして平凡を絵に描いたような俺との入浴を優先すると思う?

「それなら入る。昨日、風呂入ってないから気持ち悪かったし」

 腕を離されてニコッと頷く俺を、都築は剣呑とした双眸で見下ろしていた。

□ ■ □ ■ □

 都築家の風呂は確かに広かった。
 男が3~4人ぐらいまとめて入れるんじゃないかと思うほどの広さで弟たちが見たら感激するんだろうなぁと思う。それに浴槽も広いし洗い場も広い。オマケに浴室の前にサウナまで完備されている。このサウナが凄くて、ミストと遠赤とスチームを備えているスグレモノなんだ。できれば入ってみたいけど、流石にそこまで図々しくはなれないから、今度来ることがあったら都築に頼んでみようと思う。
 ジャージの上下を脱いで下着を脱ぐと、脱衣室のお洒落な籠に入れさせてもらって、それからお泊りセットで持って来ていた替えの下着を用意してから、俺は改めて都築家のご自慢の広い浴室に足を踏み入れた。
 俺んちでは判らなかったけど、都築は朝風呂を好むのか、いや女の子や男といちゃいちゃしたりするから好まざるを得ないのか、どちらにしても塚森さんは毎朝風呂の準備をしているようだった。今も綺麗な湯がなみなみと浴槽を満たしている。
 広い浴槽なんて銭湯とか温泉旅行で行った先の旅館ぐらいでしか味わったことがないから、個人の家でこの広さってのは本当に贅沢だよなと思う。
 身体も洗わず浴槽にドボンは一度もやったことないし、他所様宅の湯船にそんな行儀悪いことできないから、俺はウキウキしながら逸る気持ちを一旦落ち着かせて身体を洗うことにした。
 都築が使っているソープは高級なのかそうじゃないのかよく判らない、いや、そもそもメーカーとか教えてもらっても判らないし、俺は男だからあるモノを有り難く使わせてもらうだけだ。
 思わず鼻歌なんか鼻ずさみながら身体中をいい匂いにして、シャワーで流してから、早速頭も洗ってしまう。折角だしゆっくり入りたいし。
 やっぱり鼻歌を鼻ずさみながらシャワーで濡らした髪にシャンプーを適当に貰って、それからアワアワと泡立てながら指先を髪の中に滑り込ませていい感じに髪を泡だらけにした時だった。
 何時の間に入り込んでいたのか、不意に都築のヤツが背後から抱きしめてきやがったんだ!

「う、わッ、え?!なんッッ、え?!なんで??!」

 裸体を弄るように確かめてくる都築の指先にビビりながら、俺は泡が目に入りそうになって慌ててシャワーに手を伸ばそうとしたけど、何故か都築に阻まれてしまう。これは何やら危険な匂いがするぞと思って、俺は慌ててシャンプーで頭がアワアワしたまま逃げ出そうとした。
 でも、都築の方が視界もいいしガタイもいいしで案の定すぐに捕まってしまって、こんなに広い浴室なのに隅っこに追い詰められてしまった。
 折角広い浴室を満喫してるのに、どうして都築みたいなデカイ男と狭っ苦しく隅っこでグチャグチャしてないといけないんだっ!

「なんなんだよ?!え、なんだ、騙したのか??!」

 俺の肩を片手で掴んで膝立ちしている都築は、ほぼ無言で、壁に押し付けられたまま半分以上身体が沈んでいる俺を不機嫌そうに見下ろしてくる。でもその双眸は、今まで見たこともないほど雄臭くて、野性的で、目尻を染めて興奮しているみたいだ。

「なんだ、これ?!え、なにするんだ。おい、なんか言えよッッ」

 俺の肩を壁に押し付けるようにして片手で動きを封じて、それから足でも暴れる俺の足を押さえつける、それから、俺は見たくないモノを目にしてギョッとした。
 泡で視界を遮られるなか、都築のヤツが空いている方の片手で自分のフルおっきしてるチンコを擦ってやがるんだ。
 なんだ、そのバッキバキにそそり勃ってる子供の腕ぐらいもありそうな逸物は。
 え?なんで俺の方に向けてるんだ??!

「やだ、都築やめろって!俺だぞ、平凡な俺なんだぞ?!」

 自分でも混乱しすぎて、ちょっと何を言ってるか判らない状態だったけど、都築はそんな俺を傲慢に見くだしながら煩そうに舌打ちなんかしやがった。

「うるせえな。ちょっと黙ってろよ。お前が我儘言うから塚森と犯れなかったんだ。ちょっと出すだけだから我慢してろ」

 なんだ、その言い方は。つーかなんだ、ちょっと出すだけって。

「ど、何処に出すつもりだよ?!その角度はダメだ!嫌だってば、嫌だ都築ッ」

 泡が目に入って痛くて涙が出るし、違った意味でも涙が出ちゃう男の子だけど、そんな俺をハァハァと息を荒げてシゲシゲと見据えながら、都築は血管が浮いて今にもはち切れそうな自分のチンコを擦り上げている。たぶん、もうすぐだ。

「お前、思った以上に腰が細いな。後ろから見てて興奮した。肌も綺麗だし…出そうだ」

 ぎゃああぁぁぁ…ッッッ、声にならない悲鳴を上げる俺の顔をじっくりと見つめながら、都築の表情が少し切なそうになる。嫌だ、そんな顔は見たくない!

「ほら、目を閉じるな。顔をよく見せろ」

 そんなこと言われても、決定的な瞬間を目の当たりにして絶望するよりは、目を閉じてる間に終わってくれたほうがいいに決まってるだろ。但し、出す場所を絶対に言わないのな。

「…くッ」

 噛み締めるようにして小さな声が都築の口許から漏れた瞬間、泡と涙に塗れた顔でイヤダイヤダと頭を振っている俺の顔を押さえつけていた片手で固定して、固定して…それからビュッビュッと、断続的にドロッとした液体を顔面に叩きつけられた。
 男なら誰だって嗅いだことのあるあの独特の異臭が纏わりついて、もう何がなんでも目が開けられない俺が、レイプされた処女みたいにシクシクと泣いていると、まだビクビクしてる何かやわらかいオブラートに包まれた灼熱の棍棒みたいな、何か得体の知れないモノの先端で頬に擦り付けられた。
 判ってるよ、判ってます。チンコだろ。こんちくしょうッ。

「…目、開けろって」

 ハッハッと荒い息が浴室内に響いていて、たぶん、今目を開けたら獰猛そうな目付きをした色気ダダ漏れの都築と視線があって、しかもヤツは俺の顎を掴んだまま、たぶんまだ自分のチンコを離していない。と言うことは、射精してパクパクしてる尿道口ともこんにちは~をする羽目になる。
 絶対に嫌だ。
 ブンブンと頭を振って拒絶する俺を暫く見下ろしていたらしい都築は、それから仕方なさそうな溜め息をひとつ零して、いきなり頭上から適温の水飛沫を叩きつけられてしまった。

「ったく、こんなことぐらいで怒んなよ。洗ってやればいいんだろ?」

 ドロリとした白濁の精液に汚された頬とか鼻とか唇から水の勢いに流された糸引く液体が零れ落ちるのを、何か大事なモノを汚されてしまった絶望的な気分で見下ろしていた。

「こんなことぐらいって何だよ?!俺はソフレであってセフレじゃねえんだぞッ!こんなことがしたいなら塚森さんと犯ってればいいんだッッ!塚森さんだけじゃない、あのユキとか言うヤツとか、他にも相手してくれる女の子なんかいっぱいいんだろうがッ」

 シャワーで顔や頭を流されながら、もう何がなんだか判らなくて、俺は殆ど泣きながら都築の胸元を殴って喚き散らしていた。裸だから痛かっただろうけど、知るかよ。
 俺の心はもっと痛いんだ。

「…顔射は初めてか?」

 何いってんだ、こらッ。

「顔射する男はいても、される男なんて一握りだろッ!一般的に考えてだぞ。お前の常識を一般常識だと思うなッッ」

「そうか、初めてか。百目木とか柏木とは掻き合いもしたことないのか?」

 俺の赤裸々な性事情に関して話してるんじゃない、お前の異常な性事情に関して問い詰めてるんだぞ。なに唯我独尊なこと曰ってんだ。

「なんだ、勃ってないな」

 想像を絶することをされると人間の身体はオーバーヒートするのか、ぐったりと力が入らずにぐにゃぐにゃする俺の身体を嬉々として抱き起こして、ついでのようにチンコに触ってきやがる。都築に比べたらかなり小振りな俺の逸物は、牙を抜かれた獣のように、そして今の俺の身体のようにだらりと力なく揺れている。それを都築は面白そうに握って扱いてくる。
 全然、これっぽっちも感じない。
 当たり前だ、心理状態は恐慌してんだぞ。

「さ、触るなよ、気持ち悪いッ!もう、なんなんだよ?!俺をどうするつもりなんだよッ」

 勃起するはずもないチンコをまるで玩具みたいに興味本位で扱かれながら、もうコイツとは絶対に友達にはなれない、こんな意味不明の関係にも終止符を打つ時が来たんだと確り自覚して、俺は両手で顔を隠しながらさめざめと泣いた。

「別に。ただ、勃ってたから出した。それだけだろ。たまたま今回は相手がお前になっただけだ。細い腰して背中を向けていたお前が悪い」

 こんなのこの家にいれば誰だって経験する…なんて、冗談だろとあんぐりしたように思わず都築を見た、都築を見て、常識的に考えている俺が間違っているのかと鼻の奥がツンッとしてまた泣きたくなった。

「…そっか、俺が細い腰をして背中を向けていたから悪いのか。だったら嫌がる俺が顔射されても仕方ないよな。今後、絶対お前と一緒に風呂は入らないって決めた」

 ギリッと睨み据えて宣言する俺に、一度一緒に風呂に入りさえすれば満足するんだろうと思っていたのに、都築はキレたように額に血管を浮かべると声を上げやがって俺をビビらせた。

「はあ?!なんでたった一回、顔射したぐらいで一緒に入らないんだよ?お前の穴に入れたんだったら拒絶されても仕方ないけど、たかが顔射で意識しすぎだろ。バカじゃねえのか」

 なんだ、何いってんだコイツ。
 えっと、ちょっと言葉が理解できない。なに、コイツ宇宙人だったのか??
 都築にとって穴に入れる入れないが問題なのであって、顔射はそれほど問題視されるプレイじゃないとでも思ってるんだろうか。

「顔射されれば誰だって拒絶するよッ!もう、お前とは友達やめるッッ」

「なんだ、オレたちって友達だったのかよ?」

「ソフレだろ!添い寝フレンドって言うだろッッ…って、なんだよお前、バカにしてんだろッ!もういい、やめる!もう絶対に辞める」

 巫山戯たことに小馬鹿にしたように俺の背に回した両手を逃さないぞとでも言うように組んでニヤつく都築に、ぐにゃぐにゃだった俺の根性が据わったのか、都築の腕の中で再度暴れながらギリィッと奥歯を噛み締めて吐き捨ててやった。
 そもそも、折角広い風呂に入れてご機嫌だったのに、何が悲しくてマッパの2人でこんな途方もない異常な話を喚き散らして罵り合わないといけないんだ…って、一方的に喚いてるのは俺だけど。
 俺の言葉を聞いた途端に都築の顔色が変わったけど、もうそんなことどうでもいいと、温もりもしなかった浴室から飛び出して服を引っ掴む俺を追って来た都築に、無理やり腕を掴まれて顔を顰めてしまう。
 相変わらず、体格に似合った馬鹿力だと思う。

「ヤダよ、離せよッ!」

「ソフレも一緒に風呂に入るのも絶対に辞めない!辞めさせない。もし辞めるって言うなら…」

「なんだよ!金の力で脅すのか??大学を辞めさせるってか!好きにすればいいだろッッ」

 イヤイヤして暴れる俺なんか片手で封じ込めることができる都築に抱き竦められて、聞き分けのないガキをあやそうとでもするようなその態度が、またしても俺のナケナシの自尊心を傷付けてくれる。酷いヤツだ。

「大学なんか辞めさせるかよ…お前のオヤジは町工場の社長なんだろ?不景気なのに学生2人と幼児を養うなんて大変だな」

 青褪めた面で俺を見据えるその冴え冴えとした色素の薄い双眸は、それが都築の本気の台詞だと物語っていて、俺は一瞬、呆気に取られたようにポカンとした間抜け面で見上げてしまった。
 都築グループの息のかかった会社が取引先だし、都築がその気になればあんなボロッちい町工場は10分で潰れるだろう。そんな容易く他人の人生を左右できてしまうお前が、俺なんかのことで、たった十数人しかいない零細工場を脅すのかよ。

「酷い…お前は酷い」

 思わず眉が寄った、それから目が瞑れる、口許が歪む。
 ポロポロと気付けば涙が頬を滑り落ちていた。
 声を出して泣けずに俯いて肩を震わせていたら、少しはバツが悪くでもなったのか、都築は俺の頭に頬を寄せながら不機嫌そうにぶっきら棒に言いやがる。

「別に潰すとか言ってるワケじゃない。お前がオレの言うことを聞けば、悪いようにしないってだけだ」

 つまりは言うことを聞かなければ潰すって脅してるのと一緒じゃねえか。
 なんてヤツなんだ、この傲岸不遜の俺様お坊ちゃま野郎は。
 だいたいどうしてそこまでしてして俺と一緒にいたいんだ。お前、俺なんかタイプじゃないんだ、自惚れるなって言ってたじゃないか。

「…都築は俺のことが好きなのか?」

 俺がポツリと聞いたら、都築は怪訝そうに眉を顰めて、それから呆れたような表情で涙を零している俺を見下ろしてきた。

「はあ?好きなワケないだろ。お前はタイプじゃないんだよ。好きなヤツに腰が似てるから傍に置きたいだけだ」

 腰が似ているだけで俺は顔射されたのか。
 腰が似ているだけで俺は脅されたのか。
 腰が似ているだけで、この奇妙な執着に付き合わないといけないのか。
 なんなんだよ、それは。

「判った、ソフレは辞めない。風呂も一緒に入ってやる。飯だって喰いたければ作ってやる」

 俺の最大の譲歩に都築の地獄の底みたいだった憂鬱のオーラがパッと晴れて、ヤツは嬉しそうに「やっぱそうだよな」とワケの判らない納得で頷いている。
 俺はぼんやりとそんな都築を見つめながら言葉を続けた。

「でも、絶対に俺を好きになるなよ。俺もお前を好きになったりしない」

 まあ、これはたぶん有り得ないだろうけど、念のため言っておく。
 俺は男を好きになることなんて絶対にないからな、万が一にも都築が俺に惚れることがあっては一大事なんだ。ソフレを辞めるってだけで親父の会社を潰すとにおわせるようなヤツなんだぞ。念には念をだ。

「はあ?そんなの当たり前だろ」

 案の定、都築はあっさり頷いた。それどころか、また例の小馬鹿にした顔でコイツまた自惚れてんなとでも思っているみたいだ。クソ。

「そっか、良かった。じゃあ、もう二度と顔射とか俺の身体に触るなよ。添い寝で抱き着くのは大目に見て許してやる。あと」

 俺の矢継ぎ早の台詞に都築の顔色がどんどん曇っていって、さらに言い募る俺にまだあるのかよと大袈裟に肩を竦めるんだ。

「俺に好きな人ができたら、この関係は解消すること。その時に親父の会社を脅すようなことはしないでくれ」

「…好きじゃないヤツを好きだって言う可能性だってあるだろ」

 少なくとも俺が拒絶しているのは判っているのか、そう言うズルはどう判断するんだよと不機嫌そうに唇を尖らせて都築は少しだけ困惑を浮かべた双眸で見下ろしてきた。

「大丈夫。ちゃんとセックスしてから報告するから」

 クスッと笑って言ったら、途端に都築の眉根が嫌そうに寄ってしまった。
 バカだな、そんなこと心配する必要とかないのにさ。ちゃんと寄り添って生きていけるヒトを見つけたら嘘吐かずに教えるっての。大威張りでさ。

「そう言う相手がいるのか?」

「今はまだいないけど…そのうちな」

 都築は今までに見たこともないほどの嫌悪感を丸出しの顔付きをして、そのくせ確り抱きしめている腕の力は抜かないまま、何事かを考えているみたいだった。

「判った、その条件をのむ。但しひとつ訂正したい」

「? 何を?」

「お前を好きにはならないし、お前に恋人とやらができたら解消してやる。でも、お前のことは触る。触らないと一緒にいる意味がない」

 触るために一緒にいるのかよ…なんか、それって都築本位の考え方だよな。都築にはメリットがあるけど、俺には何一つない。却って気持ち悪い思いばかりしないといけない…親父の会社を犠牲にしてでもこれは断るべきんなんじゃないだろうか。なんつってな。

「…顔射は嫌だ。お前も1回セフレの男にされてみればいいんだ。あんな臭いの絶対に夢に見る。きっと悪夢だ。もう絶対に嫌だ」

 毛を逆立てた猫みたいに全力で拒否すると、都築のヤツはしぶしぶと言った感じで頷いたんだけど…お前、またやる気だったな。

「判った。顔射はもうしない。でも、触るぞ」

 思った以上に気持ち良かったし、屈辱に震えるお前の姿が最高だったのにとかなんだとか、とんでもないことをブツブツ言いながら了承する都築に、かなり失敗したんじゃないかと後悔したけども仕方ないと溜め息を吐いた。

「…範囲にもよるけど、了解。これで今後のルール決定だな」

 都築は本当は俺の条件なんて何一つ了承する気はないようだった。ただ、その条件を全部飲まないと、本気で俺が都築を投げ出して、もう二度と戻ってこないらしいと理解したようで、ヤツは不本意ながら頷いたんだろう。
 何はともあれ、俺の恋人探しが始まりました。

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●事例5:風呂に入ったら顔射される(逃げ出しても回り込まれてしまう)
 回答:勃ってたから出した。それだけだろ。たまたま今回は相手がお前になっただけだ。細い腰して背中を向けていたお前が悪い
 結果と対策:そっか、俺が細い腰をして背中を向けていたから悪いのか。だったら嫌がる俺が顔射されても仕方ないよな。今後、絶対お前と一緒に風呂は入らないって決めた。