7.洗濯機から洗う前のパンツを取り出して匂いを嗅ぐ  -俺の友達が凄まじいヤンツンデレで困っている件-

 俺が合コンに行くようになってから、都築はやたらと不機嫌になり、俺の部屋に入り浸るようになった。
 まあ、たまには都築んちに俺が遊びに行くこともあるけど、そんな日を除くとほぼ、いや確実に毎日いるような気がする。
 貴重な夜のはずなのに、それでも都築は滞ることなくちゃんと大学に行きながらもセフレたちとの遊びも熟しているようで、たまにいい匂いをさせて来ることもあったから、直前まで会っていたんだろうなぁと思ったりした。
 そこまで一緒にいたのなら、わざわざ俺んちに来なくても、自分んちにお持ち帰りでもしてもっともっと楽しめばいいのに、変なやつだなあと思っていることは内緒だ。
 今日も夕飯の支度をしている時に都築は相変わらずの仏頂面で、不当に作成した合鍵を使って欠伸をしながら入って来た。
 ただいまの挨拶とともにちゃぶ台に置いている俺のスマホを持ち上げると、都築はそのまま俺のベッドに我が物顔でごろんしやがった。
 ただいまで帰ってくるのはここじゃない、お前んちだろ。

「今日の飯ってなに?」

 超自然(スーパーナチュラル:心霊現象を意味する)に聞いてくる都築に、納得がいかない俺は怪訝そうに眉を顰めるものの、そこは既に飼い慣らされてしまった悲しい性で、割り切れない感情を抱えたままで正直に答えてやる。

「今夜はとろっと甘酢あんの酢豚だよ!それと卵とオクラのふわトロ中華スープに中華風サラダ、ほうれん草と春雨の和え物も付けるぞ」

「酢豚は魅力的だけどサラダがなぁ…」

「ダメです。サラダを食わないヤツに酢豚を食う資格はありません」

 俺の生真面目な回答に都築のヤツは舌打ちして、それからフリックしていたとある画面で不意に動作が止まった。若干、変化はないように見えるけど、頬が強張っているみたいだ。
 あれ?俺なんかおかしなものでも入れてたっけ。
 冷蔵庫から新鮮なレタスを取り出しながら首を傾げていると…最近、興梠さんが俺の不在時に冷蔵庫に野菜やら肉やらを揃えてくれるようになったから、実は食費がかなり浮いていたりする。それが飼い慣らされてしまった要因だ。

「おい、この久美って誰だ。合コンで知り合ったヤツか?」

 まあ、何かあれば都築がサクッと聞いてくるだろうと思っていたら、案の定、ちょっと怒ってるっぽいオーラを出しつつ、上半身を片手で支えるように起こして、料理に勤しむ俺に片手を伸ばしてスマホ画面を見せてくる。

「んんー?クミ??…って、こりゃ、ヒサヨシだよ、ヒサヨシ!同じゼミの菅野久美!」

 両手に食材を持ったままでベッドに近付いてスマホ画面を見ながら、女の友達とか殆どいないのにと首を傾げていたけども、案の定、それは同じゼミの男からのメールだった。と言うか都築、毎回言うようだがお前も同じゼミの…いや、もういいや。

「久美って漢字が女みたいで嫌だって言うから、みんなでわざと久美って入れてるのがバレて、それからそんな感じでメールしてくるようになったんだよ」

 都築が一瞬固まった画面には、『はぁい!みんなの久美ちゃんだよw今夜は恒例のヒ・ミ・ツの呑みサーがあるの☆参加してね(ハートマーク)篠原くんにはぁ、前回みたいに途中で抜けずに最後まで久美と一緒にいて欲しいな☆』なんてことが絵文字と顔文字なんかが駆使されてきらびやかに踊っている。一見すれば、今どきの女の子からのお誘いに見えなくもない。
 お前らがその気なら、彼女に見つかって別れてしまえばいいとの呪詛の籠もったメールに、どうして都築が引っ掛かるんだと呆れて溜め息を吐いていたら、都築のヤツは「ああ、菅野か…」と合点がいったようで、「ふーん、アイツも結構面白いことしてるんだな」とか、俺の手を止めたくせに謝ることもせずにまたもやごろんと横になってしまう。
 そのまま牛になっちまえ。
 俺のスマホの中身なんてたかが知れてるのに、何が楽しいんだか、都築は俺が相手してやれない間はずっと俺のスマホを弄っている。久美のメールなんて前からあるだろうに、今頃気がついたのか。

「…お前、オークションとかしてるのか」

 フリックしたりタップしたり忙しなく指先を動かしているのを見ると、なるほど、俺に毎日200通ぐらいのメールを余裕で送れるような指捌きだなあと感心してしまった。

「ああ、専ら買い専門だけどね。参考書とか近くの古本屋にないヤツはオークションで探すと見つかるし、便利でいいよ」

 都築のようなお金持ちになると、ヴィンテージの衣類や美術品、アクセサリー以外で中古なんて冗談じゃないと思うんだろうけど、俺みたいな庶民には有り難いツールだ。

「…古着も買ってるのか」

 俺に言ったんだか独り言なんだか、よく判らない表情で呟いていた都築は、不意に自分のスマホを取ると何処かに電話しているようだった。
 貧乏ヒマなし学生としては、今どきのお洒落な(失笑)服とか買おうとしたら、何万円もして手が出ないので、オークションで一山幾らをまとめ買いして、着られるものだけ着て、あんまりな服は仕方ないから掃除道具に化かしてる。
 都築が『預ける』と言う名目で置いていったシャツは大きいけど着れたし、チノパンは腰の位置が違うのか、裾を幾つも折らないといけないけど、着れないワケじゃなかったから家では穿いていた。シャツはちょっとした買い物には着て行ったりもしてる。

「ああ、そうだ。全部持って来い。サイズ違いがかなりあるはずだ。他のヤツの匂いなんかさせられるか」

 最後、吐き捨てるように言った都築は電話を切ると、自分のスマホはベッドの隅に投げ出したくせにまるで我が物顔で俺のスマホを持つと、また遽しく指先を動かして、どうやらオークションの落札履歴を確認しているみたいだ。

「なんだ、オナホとかは買ってないんだな。相手なんかいないだろ、どうやって処理しているんだ?」

 実は買ってます。そう言うのを買う時だけアカウントを変えていることは内緒だ。
 都築に教えようものなら散々内容を確認されてから、こっちが真っ赤になるまでバカにしたように茶化して、それから使用済みのそれらの道具を泣いて止めても思い切り検分されるような気がする。だから絶対に教えない。
 それらのモノは都築が来るようになってから、全部泣く泣く処分した。とは言っても、オナホが3個ぐらいだったけども。
 揶揄われるのが目に見えてるからだ。
 俺が批難する目付きのまま無言でじっと都築を見ていると、「擦るだけか?」とかなんとかどうでもいいことをブツブツ言いながらスマホに集中していたくせに、すぐにそんな俺の態度に気付いて、それからなんとなく察したのかニヤニヤと嫌な笑い方をしやがる。

「さては始末したな」

「あのさ、都築。俺の性生活とかホント、お前には関係ないんだから気にしなくていいよ」

「お前だって健全な10代だろ。どうやってるのか知りたい」

 自分が触った時はピクリとも勃たなかったから、どうやら俺がEDか何かだとでも思っていたのか、勃つなら見たいとかワケの判らないことを言い出した。

「勃たせてみろよ。この間は見られなかったから、どれぐらいでイクのかも知りたい」

「…どうしてそこまで赤裸々にお前に教えないといけないんだ。こればっかりは絶対に嫌だ」

 蔑むような目付きをして断固と拒否る俺を、都築は胡乱な目付きで睨み据えてきながら、「お前は本当にこう言うことを教えないよな。普通はオレが聞けば、誰だって喋るってのにさ」とブツブツ言うくせに、「でも興味ないから聞きたくもないけど」と嫌そうな顔をするんだから、その気持ちの半分でも俺も同じように嫌がっているんだと判れよ。

「お前ってさ、やっぱり独りでやるんだろ?この前、聞いた時は掻き合いもしてねえみたいだったし…独りで枕でも噛んで声を押し殺しながら、前だけイジるのか?前立腺マッサージとかしないのか?」

 ちゃぶ台の上に出来たての酢豚や副菜を乗っけていきながら、なんだコイツ、バカなのかと嫌なものでも見る目付きで見てやってるってのに、都築は食事の用意をする俺をシゲシゲと眺めては、あらぬ妄想を幾つか思い描いたのか「なかなか唆る」とかワケの判らないことを言ってご満悦に色素の薄い双眸を閉じて嬉しそうだ。
 ホント、意味が判らないよ、一葉くん。

「跪くように前のめりに俯せて前を弄りながら、涙目で枕なんか噛んでさ、それから細い腰を高く上げて誘うようにオレを見ながらローションで泥濘んだ穴を指で押し広げて…オレに抱いてくれと囁くんだ」

「何いってんだ、お前。頭は大丈夫か?ほら、飯の準備ができたから気持ち悪いこと言ってないで降りてこいよ」

 俺の枕を抱き締めるようにして匂いを嗅ぎながらうっとりと瞼を閉じて呟く、ホント、気持ち良いほど気持ちが悪いことで満足している都築から枕を奪いながらベッドから降ろそうとしていると、玄関のドアが叩かれる。うちにはチャイムなんてお洒落なものはない。

「あれ?そう言えば、お前どっかに電話してたな…」

「興梠が来たのか。入れ!」

 都築はバカで気持ち悪いことを平気で言うような気持ち悪い(二度言う)ヤツだけど、グループの傘下が幾つもあるような大企業の頂点に君臨するべく生まれてきた絶対的な王者である証のように、よく張る凛とした通る声の持ち主だから、少し大きな声を出せば俺のアパートなんかだと外まで聞こえるほどだ。

「お疲れ様でございます、一葉様、篠原様。こちらには先程、一葉様より仰せつかりましたサイズ違い諸々の一式が収められております」

 胡散臭い満面の笑みを浮かべる興梠さんが、背後から俺の腰を抱いて後頭部だとか首筋だとかの匂いをすんすんと嗅いでくる都築を見て見ぬふりをして、俺に丁寧な低姿勢で重そうな箱を見せてくれた。

「お疲れ様です。で、なんですか、これ」

 ニコッと愛想笑いを浮かべると、俺の顔を覗き込んでシゲシゲと見ていた都築がムッとしたように興梠さんから箱を受け取って、それからまたしても傲岸な態度で下で待機していろと命じてしまった。
 俺はお前に聞いてない。興梠さんに聞いたんだ。

「サイズ違いで買って始末に負えない服だ。これなら新品だし見栄えもいいだろ。オークションで着れない服に無駄金を遣うなら、オレのコイツ等の面倒をみればいいんだ」

 都築が下に置いたダン箱を開けてみると、中にはお洒落そうで高級そうな衣類がこれでもかと詰め込まれている。
 一山幾らのオークションに出したら、20~30万ぐらいいくんじゃないかな。
 実際は数百万相当が詰め込まれていると思われる。
 うん、いらない。

「無料じゃ貰えないよ。それにこんな高級そうなの、金を出せって言われても買えないから、俺はオークションの古着でいい」

「バカ言うな…じゃあ、そうだな。オレの飯代として受け取れ」

 何時もいらないと首を左右に振る俺の習性に既に慣れている都築は、最初から言うことを決めていたんだとばかりにフフンッと腕を組んでニヤニヤと見下ろしてきた。

「ええ?最近は食材とか持ってきてくれてるから飯代なんて殆どかからないよ。だから貰うワケには…」

「そうか、お前がいらないなら捨てるだけだ」

「なぬ?!ち、ちょちょ、ちょっと待て!!」

 不意にヒョイッと持ち上げたダン箱を、あろうことか都築は本当にゴミに出すんだと持ち出そうとしたから、俺は慌ててその腕に縋るようにして引き止めた。身長差!
 このアパートのゴミ収集能力は高くて、何時でもゴミを出せる。出したゴミはだいたい翌日に取りに来るけど、その前に他の人に取られる可能性だってあるんだ。
 見た感じ、凄くセンスがいいなと思ったから、正直ちょっと惜しいと思う俺ってヤツは…
 ギュウッと腕を掴むと都築はすぐに立ち止まり、それから俺の顔を凝視するようにして見下ろしてきた。

「着ろよ。適当に言われるまま買ったヤツばっかりだから、オレに似合わないのも幾つかあるんだ。誰か着たほうが勿体無くないだろ?」

「うー…それもそうだな。うん、判った。じゃあ、貰うよ。有難う、都築」

 嬉しくてニコッと笑って礼を言ったけど、都築のヤツは嫌そうに眉を寄せて俺を見下ろして、それから不機嫌そうに外方向きやがった。こっちが素直に礼を言ったらその態度とか、なんなんだ、お前は。
 でもまあそんなこたどうでもよくて、都築が改めて部屋の中に持ち込んだ衣類を広げて、俺が目を輝かせていると、都築のヤツは既に興味を失くしたみたいにサッサとちゃぶ台を囲んで勝手に飯を食い始めた。
 確かに冷えたら不味いけど、戴きますも言わずに食うのはルール違反だ。
 そう言ってやって、衣類は取り敢えずダン箱に仕舞って、都築にぶうぶう文句を言いながら俺も食卓を囲むと、当分衣装代がでなくてラッキーだなと浮かれ調子で明るい未来にニンマリした。

□ ■ □ ■ □

「お前、何してんだ」

 俺が狭苦しいユニットからホッカホッカになって息も絶え絶えに出てきた時、ユニットの横に置いている洗濯機の前で俺のパンツを握り締めている都築に言った台詞だ。
 脱衣所なんてお洒落なモノはうちにはないので、部屋から見えないようにカーテンで区切った場所にある洗濯機に脱いだ服を入れてからマッパになって風呂に入るんだけど、今日はまだ洗濯機を回していないから、その両手で持っている2種類のパンツは使用済みだと言うことは判る。

「は?お前が女や男と遊んでないか確認してるだけだ」

「…パンツのニオイでか?」

「ああ、他の匂いが混じってたらすぐに判るからな」

 そう言って至極当然そうに両手に持っているパンツのニオイをスーッと嗅ぐ都築。
 そっか、俺が遊び回っているかどうかお前に逐一報告しなかったのが悪いのか。だったら、都築が気持ち悪く俺のパンツのニオイを嗅いでたって仕方ないよな。今後、絶対に都築がいる時は脱いだパンツはその場で回すって決めた。
 俺が二の句も告げられずに、そのあまりの気持ち悪さに絶句していることになんか、この世界的にも有名なほど驚異のお金持ちの御曹司様は露程も気付かずに、「うん、遊んでなさそうだな」とか言いやがって満足そうにくんくんしてる。もうやめて。

「……お前、もしかして俺が風呂に入っている時は何時もそんなことしてたのか?」

「そうだが?他にも痕跡がないか見て回ったりしてる」

 家探しか、家探ししてるってゲロってるのか。
 自分が非常におかしい、他人から見られたらこればっかりはどう取り繕っても変態としか思われない行いを平然としていると言う事実に気付けない都築は、どんな羞恥プレイだよと思わず泣きそうになって顔を覆う俺を訝しそうに見下ろしてから、それから何を思ったのか、何の前触れもなく俺の裸の胸、そうぬくくて脱力している乳首をツンッと突いてきたんだ。

「なな、何しやがる?!」

「浴室から出ると外気を感じて固くなるのに、お前の乳首はやわらかいんだな」

 でも気持ちいいと不機嫌そうに呟いてから、俺が止めるのなんか屁でもないような感じで指先でグリグリ捏ねるもんだから、流石にぬくさで脱力していた乳首も非常事態に気付いたようで、身を守ろうと乳首を固くし始めた。

「いや、手を離せ。離さないと今後一切、部屋に入れないからな」

 身を守ろう…とか何いってんだ、乳首に意思なんかあるワケがない。
 あまりのことに俺も脳ミソの何処かがどうにかなっちゃったんだな、首を振って生理現象にうんざりしながら都築を睨み据えると、ヤツはちょっと残念とでも言いたそうに唇の端を釣り上げて、単に小さく笑ったみたいだった。
 で、カーテンの向こうに行こうとするから、俺は冷静さを心懸けながら素知らぬ都築に言ってやる。

「パンツは置いていけ。洗濯機に戻せ」

 都築はチッと小さく舌打ちしてから、仕方なさそうに2枚のパンツをポンッと洗濯機の蓋を開けて投げ入れた。だから俺はすぐさま、先に風呂に入って脱ぎ散らかしている都築の下着や靴下と一緒に洗剤と柔軟剤とハイターを入れてサッサと回すことにした。
 いったい、俺のパンツをどうしようと思っていたんだ。

「都築…前々から思ってたんだけど、お前、俺のことタイプじゃないんだろ?」

 バスタオルで全身を拭いながら薄ら笑って聞くと、マッパの俺を興味深そうにジロジロと凝視して、「やっぱり、乳首が勃ってきたな」とか「陰毛が薄い…」などなど、お決まりの視姦をしながら頷いた。

「全く好みじゃない」

 だろうな…だったら。

「もしかしてお前、俺をイジメて楽しんでんのか?」

「…は?」

 足許から頭の天辺まで注意深くシゲシゲと観察することに夢中になり過ぎていて、最初、都築は自分が何を言われたのかよく判っていないような顔をしていたけど、俺の言葉を段々と理解してから不機嫌と言うより、ちょっと小馬鹿にしたような表情をして見下ろしてきた。

「はぁ?何を言ってるんだ、お前は。じゃあオレは、イジメるために興梠に服を持って来るように言ったり、合コンに付き添ったり、食材を用意したり、大学までウアイラを飛ばしたり、お前のソフレになったり、一緒に風呂に入りたがったり、一緒に住みたがったり、ハウスキーパーを勧めたりしたって言うのか?オレはどんなマゾだよ」

 それを聞いて、あ、そう言えばそうかと頷いた。
 この間、絶対必須のレポートを家に忘れてしまって、もうダメだと思いながら都築に電話したら、相変わらず俺んちで居眠りしながらゴロゴロしていた都築が急いでウアイラを飛ばして持って来てくれたんだっけ。その時、あんまり急いでいたから、何時もならビシッとセンスよくお洒落に着飾っているリア充のはずが、ジャージこそ着ていなかったものの、色違いの靴下とかクロックスとか、寄れたシャツにシワのあるパンツで、髪も寝起きのボサボサだったけど、驚くみんなの顔でそれに気付いた俺が慌てて頭を下げようとしたら、そんな俺を止めて、いいから早く講義に行け、落としたら大変だろと言ってくれたんだ。
 あんなに傲慢で上から目線で俺様なヤツだなぁと思っていたのに、その時の都築は必死で、ちゃんと俺のことを見てくれていた。
 そうだよな、あんなに真摯な行動ができるヤツが、ちょっと変態だからって悪いヤツなワケないよな。

「そっか、お前は人間としては、俺を好きでいてくれてるんだな」

 なんだか凄く優しい気持ちになって、小さく笑いながら「ごめん」と謝ったのに。

「は?だから違うって」

 なぬ?!

「お前って抱き心地が良いから丁度いい抱き枕みたいなモンなんだよ。で、飯もそこそこ食えるし、部屋も綺麗で居心地がいい。それにセフレの連中にするような面倒臭い気遣いをしなくてもいいし、セックスなしの都合の良いハウスキーパーには打って付けで便利なんだって。それぐらいにしか思ってねえよ」

 酷い。いいことしてくれたからって喜んで漸く見直していたところなのに、そんな都合のいい便利屋ぐらいにしか思っていなかったなんて…

「ま、俺もお前なんか好きでもなんでもないし、特に空気みたいに興味もないから虐められてるんじゃなきゃ別にいいけどね」

 そう言って髪もワシャワシャ拭ってから下着とジャージを身につけてケロッと言ったら、都築のヤツは途端に不機嫌そうに眉間にシワを寄せてブツブツ言い出した。

「なんだよ、お前はオレのこと結構気に入ってんだろ?」

「は?それこそ違うって。別に空気が傍にいて何か喋ってるぐらいにしか思ってねえよ」

 好きの反対は嫌いじゃなくて無関心だからさ。
 無関心なの。都築に興味なんてこれっぽっちもねえよって言ったら、都築のヤツは急にどんよりして、それから俺のベッドの真ん中に陣取ると、腕を組んで背中を向けて不貞腐れたように眠ろうとしているようだ。

「真ん中に寝たら俺が眠られない。壁際に行けったら!ほら、都築、掛け布団も被らないと風邪を引くぞ」

 大きな図体で足のはみ出たロングじゃないシングルでそれでなくても窮屈なのに陣取られたら堪らないんだぞ、端っこに避けろよとグイグイ身体を押すけどピクリともしないから、ムッとして腕を組んだ俺は、それから徐に都築を見捨てると押入れの前に立った。
 まあ、別に都築と一緒に寝たいワケじゃないし、習慣になっていたから一緒のベッドに潜り込もうとしたんだけど、よく考えたらこれはチャンスなんだからお客さん用の布団を敷いて今日から快適に眠ろうと鼻歌交じりに押し入れを開けようとしたのに、不意にそのまま身体が宙に浮いて気付いたらベッドの中に引き摺り込まれていた。

「…だからさ、結局こうなるんなら最初から意地悪とかするなよ」

 背後からガッチリ回っている嫉妬するほど逞しい上腕二頭筋の盛り上がった部分をポンポンと叩いてやると、都築のヤツは何やらブツブツ言ったものの、俺の首筋に高い鼻梁を擦り付けるようにして息を吐いた。

「抱き心地が良い抱き枕ってちゃんと言ったはずだ。勝手に他で寝ようとするお前が悪い」

「ハイハイ」

 ふー、やれやれと溜め息を吐けば。

「ハイは1回にしろってお前が言った」

 不貞腐れたように唇を尖らせる都築に指摘されるから。

「はーい」

 笑い出したいけどそうするともっと拗ねそうなんで、仕方なさそうな体で肩なんか竦めてやる。

「ん」

 取り敢えず、満足したような都築が俺の足に自分の足を絡めてがっちりホールドなんかカマして寝息をたて始めるから、今日も都築は我が道を行く変態さんだなぁと俺も満足して瞼を閉じた。

□ ■ □ ■ □

 俺には最近、気になることがある。
 この間、都築からお前なんかタイプじゃない、自惚れんなと言われ、最近では便利な抱き枕兼ハウスキーパーだと宣われた。
 なんかそれってさ、ちょっと理不尽じゃないかって思うんだよ。
 だから、大学の構内で気心の知れた百目木を捕まえて、近所の、以前何を思ったのか都築率いる華やかグループが集団で訪れて一瞬セレブにしてしまったファミレスに連れ込むと、言い出し難さを実感しながらドリンクバーで咽を潤して口を開く。

「…これは俺の友達の話なんだけど」

「あー…はいはい、友達ね」

 なんか胡散臭い面で薄ら笑うけど、そんなこた今はどうでもいい。

「ほぼ毎日、同居でもしてるんじゃないかってぐらい部屋に押しかけられてて、一緒に住みたがったり、一緒に風呂に入りたがったり、ソフレになったり、俺の作る飯を食いたがったり、メールで女の子からのお誘いとかあったら不機嫌になったりするヤツなんだけど、これってソイツは友達のことをどう思ってるんだろう?」

「俺の作るって…いや、いいか。まあ、話しだけ聞けばムチャクチャその友達のこと、好きなんじゃね?」

 俺がツラツラと言い募る内容をうんざりしたように聞いていた百目木は、ドリンクバーから持って来ていたコーラを呑みながら、なんだそんなことかと当たり前みたいな顔で言うんだけどな。

「だよな!…でも、ソイツは友達のこと、タイプじゃない自惚れるなって言うらしいんだ」

 俺もそう思ってたけど、都築のヤツはお前なんかタイプでもなんでもねえよって馬鹿にするんだ。

「うーん、性別にもよると思うけど。異性ならツンデレ、同性なら自分にメリットがあるから押し掛けてるだけなんじゃね」

「そっか、そうだよな…じゃあ、その、あの、ぱ、パンツのにおいを嗅いで遊んでないかチェックするとかってのは、普通にありなのか?」

「ぶっは!パンツってお前…」

 すげえ言い難くて、でもさすがに顔射の話しはできないしで、俺はモゴモゴと口籠りながらパンツ事件について聞いてみることにしたら、百目木は思い切り噴き出してしまった。
 酷い、汚い。

「あれ?やっぱこれはおかしいのか」

 イマイチ自信がなかったけど、そうか、やっぱりパンツのにおいを嗅ぐのは噴き出すほどのアレなんだな。

「あ、いやその。これってアレだよな、都築のことだよな?」

 グッと声を顰める百目木に、あれ?俺、都築のこととか一言も言ってねえぞ。

「ち、違うってば!俺の友達の話だよ。なんで都築が出てくるんだよッッ」

 バレるワケにはいかないから、紙ナフキンで顔を拭っていた俺は慌てて全否定する。

「顔真っ赤だぞ、おい。まあ、いいや。異性でも同性でも、独占欲の強いメンヘラってイメージだな。お前の場合、スマホチェックもされてるし、GPSは当たり前、俺なんかと会ってても睨まれるし、都築はかなりお前に参ってるんじゃないか?」

「俺も少しは気に入られてるんだろうなって思ってさ、何度か聞いたことがあるんだけど、その度にお前なんかタイプじゃない、便利のいいハウスキーパーだって言われて見くだされてさ。他のセフレを引き合いに出されて地味にダメージ食らうんだよ」

 百目木には詳しく言えないけど、そりゃ酷いんだぜ、アイツ。
 男で言えばユキほどの容姿もないのに何を言ってるんだ、お前なんか平凡以下だぞ、どうしてオレがお前なんか…と言ったところでプゲラされる。それでさ、お前なら女の子のほうがもっと抱き心地いいわ、自分の容姿と体型を鏡で見て出直してこい、は何時も普通に言われてる。もう慣れたから最初の頃のように嫌な気持ちも起こらなくはなったけど、やっぱり少なからずダメージは食らっちゃうんだよね。

「もう否定しないのな。だったら、もうお前も気にしなけりゃいいじゃん。向こうは、本当にただの都合のいいハウスキーパー代わりって思ってるだけかもしれないし」

 それにしたって行動がかなり異常なのは否めないが御曹司だから一般庶子と違って何考えてんだか判んねえしと、青褪めた面をして百目木はブツブツ言ってるけど、俺は少し氷の溶けたアップルソーダに挿したストローに口を付けながら頷いていた。
 百目木の言う通り、都築はただ単に俺を都合のいいハウスキーパーぐらいにしか考えてなくて、ただ、他の連中に持っていかれたら不便になるから、だから俺を監視して粘着してるのかもな…なんだ、そっか。そう考えたら、モヤモヤが一気に晴れる気がする。

「百目木、有難う!なんか、モヤッてたのが晴れたよ。アイツ、きっと俺が他の連中に取られたら不便だとか思って、それでちょっと粘着的だけど、監視してるつもりなんだろうな。都築の行動が理解できてよかった」

「…はぁ、俺はそんな生易しい理由じゃないとは思うけど、まあ、お前がいいんなら別にもうそれでいいよ」

 溜め息を吐いて、できれば関わりたくないって言外に言ってて酷いな。友達甲斐のないヤツめ。
 とは言え、百目木のおかげで少しスッキリしたから、ここは俺のナケナシの懐でドーンッと奢ってやろう。
 …俺の性生活に関して知りたがるのは、きっと童貞が珍しいからだろうな。都築の周りって爛れたヤツ等ばっかりだもんな。俺の反応が純粋に面白いんだろう。
 なんとなく喉の奥に小骨みたいに引っ掛かっていた何か、その小さな何かが、ほんの少しだけ抜けたような錯覚に、ムリヤリみたいに安堵しているふりをしてみた。

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●事例7:洗濯機から洗う前のパンツを取り出して匂いを嗅ぐ
 回答:お前が女や男と遊んでないか確認してるだけだ。
 結果と対策:そっか、俺が遊び回っているかどうかお前に逐一報告しなかったのが悪いのか。だったら、都築が気持ち悪く俺のパンツのニオイを嗅いでたって仕方ないよな。今後、絶対に都築がいる時は脱いだパンツはその場で回すって決めた。